例えば花のように



王女の御髪はまるで夏空のように蒼いから、雲のように白い花がいっとうお似合いでしょう
いやむしろよく澄んだ朝の大気のようだから、きっとほのかな陽のような紅が似合うよ
それを言うなら強い意志のような赤がよい
それとも伸びゆく若芽のような碧も捨てがたいか



ゆっくりと髪に櫛をとおす間、仕立て屋さんと給仕の娘たちの議論は収まることを知らず続いている。
あらゆる色の名を出して、世界の原理を求める真摯さで彼女たちは言葉を交わしていた。
鏡の向こう、少し笑う給仕長の姿が見えた。

「呆れたもんだね、お前たちへの髪飾りでもあるまいに」
「だってね、テラコッタさん」
くるんとした目の小柄な少女が一人、黒いスカートを翻した。
「17歳になるビビ様のことだもの。大事件よ。」
櫛がゆっくりと乾いた髪を滑ってゆく。

「うちのお針子たちも」
「うちの娘も」
「ええ、わたしの母も」
「この国の娘ならば誰もが思っているのですよ。」
相変わらずまっすぐなまなざしで頷きあう彼女達は、それでも快活な笑みを湛えている。
その表情を、わたしはよく知っている。

「そりゃあね、この国の女なら誰だって気になることさ。」
するするとおりていった櫛が傾き、今度は髪の表を撫でていった。
「国の娘の髪に光るのは、どんな色なのか。」
櫛を持った人は、そうしてわたしと目があった。




海と空、そして砂の大地をもつここはとてもおだやかであたたかい。
嵐のあと、迷うことがもうないと告げるかのように、あらゆるところが澄み渡っている。
けれど澄んでいるのは何も 時折おとずれる雨に濡らされた大気だけではない。
彼女たちは今、快活にやわらかく、まっすぐに笑う。
まるで、花のように。
愛しい人々を包む全てが、嵐のあとのように澄んでいるから、笑うのだ。

あの嵐を越えて、わたしを国の娘と呼んで、花のように笑う。




「わたしならね、」

だから忘れない。
この花を取り戻してくれた仲間達を。


「少し、冒険の色が欲しいわ。」
例えば、こんな花の色。



櫛を置いた給仕長が、宝石箱から花のついた小枝を一本、取り出してくれた。
雲のように白い花びらの中、悠とたたずむ紅の差した、小さな花だった。


海を越えてそっと届けられたその花は、
嵐の中でさえ、まっすぐに快活に、笑う、彼らの声が聞こえるような花だった。






華宴という名のその花を、給仕長は静かに梳いた髪に挿した。


そうしてわたしは笑った。
きっと、花のように。





















「ビビに届いたみたいよ、例の花!」
「うおっ、マジでか!」
「届くもんだなぁ。」
「しかし、よく見つけてきたな、ルフィ。」
「おう、チョッパーとな、この花がいいって思ったんだ。」
「な!」
「えーとナニナニ、花言葉、は・・・『妖精の輝き』、おお、結構似合うじゃん。」
「しかも品種は"華宴"とは、なかなかビビちゃん向けじゃねェか。」
「だろ!」
「・・・でもよ、」
「どうした、サボテン」
「花の名前。何て読むんだ、この字。」
「「「「「さあ・・・」」」」」









木瓜。