6.恋人(太陽と天使に祝福される若い男女)・・・恋・誘惑・選択



出航から半日がたっていよいよ天候は偉大なる航路らしく揺さぶられ始めた。
雨の通り過ぎたあとをウソップとチョッパーは大慌てでモップをかけていた。
ロビンちゃんもそれを少し(手3本ほどだ)手伝う。
この空じゃまた一雨くるだろうとは思ったが、少しでも船に残る水分を吸ってやろうと必死なんだろう。
ナミさんはナミさんで、海と空の行方を必死に読んでいる。

とりあえず忙しなく駆け回る奴らに差し入れするかと、おれはポットの湯をかけた。
キッチンの窓からはゆるゆるとたたまれてゆくマストが見えた。
強さを増してゆく風にマストをたたんだのは恐らく、力しか取り得のないマッチョマリモ。
今日の航海では珍しく、一番の働きをした寝ぼすけマンだ。
そのせいで嵐が一層酷くなったのだとおれは信じて疑わない。


今日、涼しく木の匂いが瑞々しい島を後にした。
1週間の滞在を終えて、出航すべくいざ錨を上げようとしたところへ、綿の束と油を携えたレディが駈け寄ってきた。
おやマドモアゼル、何か僕達にご用かなと話しかけるや、クソマリモが横から突然港へと飛び降りた。

幼さの残るそのレディは、結構、というか、とってもで随分なかなりの美人だった。
頬を真っ赤に染めて、大きな目を真っ赤にして、彼女は両手に持ったその綿の束を差し出している。
刀の手入れに使ってくれと言うつもりなんだろう。
足音を立てないよう、そっと縁を離れる。


梯子をたどって上ってきた緑頭は、何も持ってはいなかった。
「終わった。」
「いよし、出航!」
船長の号令がかかる。
島から流れる風は追い風、おれは帆を貼った。
ゆっくりと船が旋回し始める。

「テメェ、あの子に何したんだ」
「道場借りたお礼に薪割った」

もらしたのはそれだけだった。
何もなかったように、ゾロはそのまま甲板に寝っころがった。


木の香が通る爽やかな島での日々。
道場とやらに押しかけて、門下の猛者どもを30人抜きなんかしていたのかもしれない。
迷子のあいつを見かねてあの子が色々と世話してやったのかもしれない。
道場っつーのを守っていたかも知れないあの子を、あいつはその剣で助けたのかもしれない。
奴が割った薪には彼女を困らせる性質の悪い連中が含まれていたかもしれない。



いずれにせよ確かなのは船は島を離れてまた荒れ狂う海へ向かうという事実だけだ。
首に6000万ベリーの値がついたこの無骨な海賊乗せて。

もうこの先の海しか見えてないんだろうサボテン頭を、小突くように蹴り飛ばした。
少しは動揺なり苛立ちなり見せろっつーんだと、一人ぼやいて。


水辺のレディは、離れてゆく黒い旗を見つめて、泣いていた。





「腹減ったぁー!」
「おう、晩飯までのツナギた、食っとけ・・・ってもうねェし」
「げっ、ルフィばか、おれの分よこせよっ」
「おら、オメェらはこっち。ナミっすわん、ロビンちゅわん、おー疲れさまぁっvv」

それぞれに必要なだけ差し入れるためにおれはキッチンを飛び出した。
緑頭にはローストビーフを2枚その口に押し込んだ。
眉根が深く刻まれて、低い声で唸ってくる。
そうそう、少しは苛立ってりゃあいいんだ。

「お前さぁ」
「もが?」
「童貞?」
「何だとコラ」



少しは、苛立ってりゃいい。


風向きが少し変わった。
安定はまだ当分先だ。