夜が更けて岩場に吹き付ける風はますます強くなった。
何もないキッチンに入る扉はまだ閉まらない。
傷だらけの身体はきっと甲板に寝そべっているだろう。
船医が折角巻いた包帯にも新たな血がついたのを覚えている。
手持ちのマッチを擦った。
煙は勢いよく風に流されていくので目の前の景色をさえぎってはくれない。
全ての荷物を取り去っておれが梯子を降りたとき。
入れ違うようにお前は梯子に手をかけた。
立つことも覚束ないままよろよろと身体を引きずって
おれたちは交差した。
言葉はなかった。
あの陽気で無邪気な男が全てを捧げて立っていたからこそ決闘は起こったのだ
船長はその全てを受け止め お前もまた結果全てを受け止めた
人の気配のない岩場で、もう一度おれは火を灯した。
風が強いから白い煙はすぐに飛び散っていく。
消えていく。
あの真っ直ぐな男が全力で生きていたからこそ決闘は起こったのだ
おれはただその事実を受け止め
船長の意志を受け止め
善良な船医の涙を受け止め
お前の心を受け止め
受け止めることしかできなかった
それでもなお
お前との別れが避けられなかったのだということだけ
受け止められずにいる。
マッチが尽きた。