吹雪さんが別人で暗いです。

「ねぇ君はぼくのそばにいてくれるつもりなの」

こくり、見えているかわからないが自分は頷く。
無意味な行為と言えるだろう。隣の彼は答えなんて望んでいないのだ。
誰もいないかのように、何もないところに向かって話す。
質問しているようでいて、ひとつだって聞いてなどいない。
突き放して側に置いて、心は何処に?そんなもの、不要なので捨てました。
そう言われたって、別段驚きはしないだろう。
あまりにも義務的に、機械的に発せられる言葉には。


「ぼくのそばにいちゃだめだよ。皆オカシクなって傷ついてくんだから。
力に捕らわれてしんじゃったり亮の体はボロボロでしょう?
きみは離れなきゃいけないよ。ううん違う離れてくんだこれは決まってるし
ぼくはきみを求めてなんてないから当たり前のはなしだね。
でももうすでにぼくに関わったきみは今更遅いかもしれないな。
どう堕ちていくのかは少し興味があるから、すぐに死んじゃわないでね。
楽しい方がすきだし。もし手遅れなら」

くすりとも笑わないのは、非日常だ。
どこに彼の本心があって、本当はどうしてほしいのか、どうしたいのか見当がつかない。
普段だって突拍子のないことを言うしするけれど、それとこれとはわけが違う。
彼は自分をねぇ準、と同期だった親友を呼ぶように呼んだ。


「…し、しょ」
「やだなぁ吹雪って呼んでよ」
「ふ、ぶき」
「なんだい?」
「俺は…」

離れない側にいる、と言いたくて
言ってしまってもいいのか迷う。
結局、自分は簡単には堕ちない、としか言えず
そばにずっと、は抱きしめることで示した。それ以外思いつかなくて。

切なくて涙が出た。
腕の中の彼も震えた。


「どうして皆、どこかに行っちゃうんだろう」

嗚咽を飲み込み必死に耐えながら呟かれたものは、きっと本心だ。
見えない弱さ。見たことのない脆さ。
ずっとずっと、彼は、たくさん、背負って

「どうして、ぼくはいつも守られて、助けることができないんだろう。どうして、どうしてどうして…」

それはきっと嘗ての記憶
消えて、蘇って、何度も強烈に残された、それ。
簡単に忘れ去れるものではなくて、忘れてもどこか残っていて、苦しめる。



「俺は、なくしたものの代わりにはなれません」

静かに、言い聞かせるように呟いた。彼はこちらを、今度はしっかり見つめて、次の言葉を待った。


「でも、あなたを今、抱きしめることはできる。」

「黙ってどこかになんていかない。絶対」

誓って。
あなたを悲しませる真似はしない。

「万、丈目くん」
「だから、あなたも」


知らない間にいなくなったりしないでください
貴方にとってのなくしたものは
俺にとっての貴方なんです















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『ここにある温もりを、どうか手放さないで』

執筆 07/01/18 UP 08/01/26