「…俺はアイドルになど、なってほしくはないがな」 亮はぼそりと呟いた。それは僅かな音だったが、吹雪はしっかり聞き取った。 今は珍しく、誰もいない二人っきりでいる時間。 そして他愛ない話の中、吹雪は楽しげにアイドル稼業…というべきか、そういったことについて話していた。 亮も始めは楽しそうに聞いていたが、段々と複雑な顔になっていく。 そして先ほどの呟き。吹雪は小首を傾げて答えた。 「えーどして?」 「わからないか?」 素直に純粋に、亮は問い返す。意外そうな面持ちだ。 吹雪はといえばにこっと笑い楽しそうに、「んーん」と否定する。 不思議そうな顔も実を言えば作っていただけだったらしい、 一瞬でがらっと雰囲気さえも変わってしまった。 「わかるけど、ちょっと意地悪。どう返してくれるかなって」 この手のおふざけは、吹雪にはよくあることだ。 亮は少々呆れながら、しかし彼らしいと思う。 気を許しているからこその行動、それ自体は嬉しいし、ありがたかった。 「お前は…。それで?」 「やっぱり亮は亮だね」 そう言って吹雪は微笑みを絶やさない。 和やかな雰囲気は二人独特で、他人の入り込めない領域だ。 亮もつられてわずかながらに微笑むと、さらに吹雪は楽しそうにした。 「ふふ、そうだな、亮だけの…には僕の性質上なれないけど」 「…そうだろうな」 「でも、ね」 君だけに見せる特別はたくさんあって それは亮だけのものだから 「許してほしいな、なーんて」 「しょうがないな」 「ははっ亮はやっぱりやさしいね」 大好きだよ それはたった一人への。 ---- 『言葉に秘められる意味は、誰宛かによって異なるのだ』 執筆 07/12/03 UP 08/01/06