「優しい言葉なんて…かけんな…っ…」

悲痛な叫びは いつまでも耳に残って離れなかった。

あれは、紛れもなく本心なのだ。
いつもどんな風に葛藤していたのか。
わかる、わけが、なくて
ただとてつもない苦しみだということだけ
確か。


「ラビ…っ…!」
数日後に見かけて 
ラビは普段からは想像できない様子で
びくり、ふるえて
瞳が、揺れて

僕がいる方向とは逆に走る。
赤が
ゆれる。


僕は腕を、
ラビの腕を、
しっかりと掴んだ。
離れないように


「離せっ…!」
「嫌です。離しません。」
「なんで、アレンは」

いっつも、俺を
いっつも、中を
必死に繋いでるの
掻き乱すんさ…


小さな呟きに
微笑みが痛い

それでも僕は

「逃げないで、欲しいんです。」


ラビはまた先ほどのように

ふる、と
瞳を揺らす。


「アレンは…っ…!」
なんで、なんでなんでなんで
そんな優しい言葉ばかり
俺に、言うさ?


ラビは静かに
雫を伝わせた
綺麗だなんて
思う僕は多分
おかしいけど
それでも思う
ラビは綺麗だ
いつも、心も
全部、きれい


「…ラビ」
「俺は…っ」

僕を遮る貴方。
俯いたままで。

「ブックマンを、継ぐ者だから…っ…ひとっところになんて、留まれないんさ…!」

だから、いつか、アレンとも別れて

「名前も、捨てて」

行かなきゃならなくて

「俺は…踏み込んじゃ、イケナイんさ…」

でも、どうしようもなく
この目の前の少年に惹かれてるから
離れなきゃ、忘れなきゃ、そうやって

「逃げようとしたのに」

追ってこないで
耐えられない
溺れたくなる

…もう溺れてる?



「僕が、」

ラビを苦しめているのなら それは、嫌で悲しい。
どう紡ごうか悩んだ。どう言えばいいのかわからない。
もっと大人だったなら
わかるのだろうか?
自らの幼さに呆れる。

自分の本心を隠し通す自信すらない。
本当は貴方を
離したくないなんて

自分勝手で
汚い、僕。


「ラビは…どうしたいの?」

気付けばそんな問い。
ラビは、わかんねーけど、と続けた。

「逃げたら、逃げるほど苦しくなって」
こうすれば楽になれると思ってた、のに。

「駄目だったさ。」
微笑みはやはり痛くて苦しい。
涙はもう流していなかったけれど
ただ痕が残って。

「なら、」
僕は、手を引き寄せて
きゅっとラビの体を抱きしめた。

「答えはまだ出さなくて、いいんじゃないですか?」
僕は貴方が好きで
迷惑じゃなければ
ずっと想ってたい

「俺は…アレンに好かれる資格なんてねぇさぁ。気持ちにセーブ、かけちゃう、し」
「それでも、それは仕方ないです。僕はラビがそれでも好きです。」

だから
「資格がないと言うのなら。」

「僕のために、」
貴方が"ラビ"でいる間くらい

「一緒にいてください。」


微笑むとラビは、
ぎこちない動きで腕を回し抱き締めかえしてきた。
顔を埋めると、笑ったような彼は
「アレンは、ばかさぁ…」
と呟いたけれど

もう痛くて辛い姿ではなく
いつも通りの彼だった。


こんな風に
貴方の葛藤を
利用して、
一緒にいるような
僕をどうか
許してください
離れたくない
それまでなんていって
ずっと捕まえていたい
いつかなんて
考えられない
僕を、どうか



行 き 着 く 先 は 螺 旋 「先は、見えない」「けれど進まざるをえない」

執筆 07/02/25 UP 07/03/14