どうにもなんないことが、この世にはある…
なんて、俺には認められないことだ。

お前の言うように俺はガキだし?だからかもしれないけど、
お前のみたいにちょっと諦め入ってるのもどうかと思う。俺はまだまだ抗ってたい。
自分の思うように世界は回る、それは信じてるというよりは確信に近いんだ。
何たって俺は王子で、気休めなんかじゃないこれは、事実。



「スックアーロー」

ばん、と許可も得ないまま扉を開ける。入ってすぐの場所に人は見あたらない。
ということはベッドか、と思いそちらへ向かえば、
案の定見知った長髪がシーツにくるまっていた。


そういえばこの鮫は、明け方に帰ってきたんだっけ、と思い出す。
現在は昼で、自分は昨日今日休暇だから失念していた。

だからといってこのまま寝かせておいてあげる、
だなんてそんな優しさは…まぁ、気まぐれに時々あるけれど。
入ってきてしまった時点でスクアーロはむくりと起き出してしまったので
気まぐれを起こすも何もなかった。

どんなに深い眠りについていても本能か何かが働くらしい。
寝込みを襲おうとかそんな気で来たわけじゃないがちょっと残念だと思う。


面倒くさかったのか疲れからか、帰ってきてすぐ寝てしまった様子だ。
緩いネクタイに脱ぎかけのワイシャツ姿
(ボタンが上から2,3個外れている。)
ズボンは隊服のスラックス。

若干血の匂いのするスクアーロは、興奮を煽るのに十分すぎていたけれど、
なんとか押し殺して意識を保った。


「……ん、……なんだぁ……?」

殺気が感じられないからか、のんびりと、目を擦りつつ問う。
どうやら自分が誰かはまだわかっていないらしい。
とはいっても殺そうとすればすぐ反撃がくるだろう。
隙だらけのようで全く隙がない。

なんとなく、自分だとわざわざ言うのも癪だったので、
何も言わずに黙っておいた。

始めに口にする名はなんだろうか。

いつもボスのことしか頭にないから、ボスっていうかなーなどと思いつつ
そんな思考に少し空しさも感じた。

ボスは嫌いじゃない。むしろ好きだと思う。
二人の間に割って入れない空気、関係があるのもわかっているし
別段それをどうこうしようという気もない。あってもどうにもできないだろうし。
けれどやっぱり、こんなの認めたくないけれど
此奴を想ってしまってる自分としては、知っている事実でも哀しいものだ。
少しだけで良いから、こちらを見てくれたらいいのに。
自分らしくない考え。


「…誰……………あぁ、…ベルかぁ…」


まだ寝ぼけ眼のくせ、警戒はありありとみえるのが可笑しいと思っていたのに。
こっちをそのはっきりしない目で見て、はにかむなんて、そんな。
一瞬で、緊張とか警戒とか、解いてしまったのにも驚きだった。
無意識のうちのことなのだから、此奴の本心とかはわからないし、
俺がもし本気で殺しに来たんだったらどうするんだとか、
色々と疑問だったり、あぁ、混乱することは多々あれど

どうしようかこの気持ち、思わず固まってしまった。動けないし何も言えない。

空しいとか悲しいとか一瞬で無くしてしまう、この表情。
普段からは想像も付かないこれは不意打ち。


「何しに…………眠、ぞぉ………」


一方スクアーロは一旦起きあがってこちらを見たものの
大きくあくびをして…眠さに負けそうだ。
こちらの気持ちなんてさらさらわかってないだろうし、
起きたらこんなことがあったなんて覚えていないだろう。

うつらうつらしながら、俺をちらっとみて手招き。
嘘だろ、スクアーロ別人じゃね?なんて思いながら。
従ってしまう辺り俺もばかだと思う。


「……も、…起きてから…で……いい、…だろぉ……」
「何が…」
「………用事……」
「え、」
「…………、…ん……」

「ちょ、待てよばかざめ!」


別に用事があったわけじゃもちろんないけれど
ベッドに乗って近づいた俺を引き倒し自分も寝ころんで
と思ったら抱き締めてなんて、まるで自分は抱き枕だ。
こんな状況で一緒に寝ろと言うのか。思春期まっただ中の王子に!
とはいってもこんなこときっと二度とないし
せっかくの機会を不意にする理由も、ないし…


大人しく、収まって
でもそれだけでは気に障るので、なんとか抱き返して寝る体制に入る。

間近にあるスクアーロの髪は、任務後にも関わらず良い香りがした。
殺伐としたものなんて微塵も感じさせない。不思議と心地良い。


だからしてやられた、なんてこの気分も
先ほどの淡い笑顔で許してしまおう。
たとえ数時間後に目覚めたとき
こうなった理由を、銀が覚えていなくても。














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気合い入れて書かせて頂きました。いつもより長め(ほぼ2倍)になりました。
意外なことに、ベルスク文書いたこと無かったので良い機会でした^^
ザンスク←ベルのようでいて、ちゃんとベルスクです。

タイトルはイタリア語ですが、ニンナナンナってかわいいですよね^^

『その誘いはまるで子守歌』

執筆 07/10/04 UP 07/10/08