ゆっくりと口にだした言葉は悲しいのか、苦しいのか、
どういった思いで語るのか、僕には予測もつかない
 

 



「中途半端な頭脳なら、ないほうがマシだよな」 
志人くんは、何の前触れもなく、
僕に向かってというよりも誰に向かうでもなくそういった。
 
「なんだい、突然」
「ずっと思ってるんだけどよ…いっそ何もわからない馬鹿なら良かったのにって。」
 
隣に座る志人くんは、僕の方をみず、
ただ遠くをみるようにしながら僕の言葉に答えた。


 
「世の中、知らない方が良い事って多いだろ?
中途半端な頭脳では、それを目 の当たりにしたところで何もできない。
でも理解能力は人よかすぐれてるっちゃあすぐれてるから、
嫌な面を知らないままではいられない。」

「確かにそれはわかるけど。それがどうした?
志人くんがその中途半端な頭脳の持ち主だって?」


 
言いたい事がよくわからず困惑する。
それはつまり、自分が無力だと?
僕はどうかえすべきか、次に志人君が何ときりだすか読めなくて、少し辛い。


 
「まぁ、そういう事だな。俺は出来そこないで、天才になりそこなったから。
自分でわかっちまうんだよ。あぁ、俺は俺じゃないんだ―って」
 
「…どういう事だい?」

「…この頭脳も、この性格も、感情も、造りもんだって事」


…卿一郎博士の研究、か。



 
事実天才を作ることはできなかったけれど
もし本当ならば、かなりの成果をあげていたのかもしれない。
一人の人間を"造りだして"いるのだから。
 

「博士を好きなのも所詮紛いものの心だろ。
今まで無意識的に自分騙して全部俺は俺で本当だと思ってきたけど。
造りもんは造りもん。俺は意識的に自分を騙すのは無理だ。」
 

―意識的に、自分を騙す。
 それはずっと玖渚がやってきたこと。

志人くんは、博士の手により生み出されたニセモノ。
存在自体が、間違いなのだと、感じているのだろう。
 


代替品は代替品でしかないように

造りものは造りものでしかなく
 
天才(ホンモノ)には、なれない。



 

それは、卿一郎氏が天才を生み出せるような人物では
なかったというのもあるかもしれないけれど…

それがもしも、過去の玖渚のように―…
紛れもない天才が、あるいは玖渚自身が、作り出したとしても
…同じ事、だったのだろう。
 




「…志人くん」
「とっ!突然呟いて悪かったよ…
こんなことお前にはなしても、しかたねーのに…ったくなんで…」
 
ぶつぶつと、ひとり独白するように、
何か言いかけた僕を遮って謝る、志人くん。
 
僕が何をいうのか、恐かったのかもしれないし、
なにも聞きたくなかったのかもしれない。
 
 
志人君は、自分が本当に"造られた"物だと気付いた時から、
どんな思いで、すごしてきたのだろうか。
 
辛かったのか、死にたい気分だったのか、なんなのか。
僕には検討もつかないけれど考えることでもないのだろう。
わからずとも、良いことだ。
 


彼は、これからも、
すべて知った上で生きていくのだろうから。










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あまりその可能性はないだろうけど、
志人君の性格とかがすべて造りものだったなら。です
もちろん元の「大垣志人」というベースはあっただろうけど、
今の自分は、人口的につくられただけのモノで本来の大垣志人ではない、という感じです。

もう少し深く志人君について、知りたかったなとは思いますが
あれはあれで、きちんと役割を果たしたと言うことなのかなと
謎は謎のまま、知る必要もなく。そういうものなのかな、と思います。

ずいぶん前に作った話で、なんか色々影響受けてる…!

執筆 06/03/12 UP 06/11/01