僕のためにすべて捨てて。 そう言った相手はバツの悪そうな顔をした。 馬鹿なこと言った、とぼそり。 俺はといえば、唖然として。 それから、考えた。 何故そんなことを言ったのか。 淡い、夢 もちろん、いくら考えたところで、そんなものわかるわけがない。 相手はなんともなしに言ったのかも知れないし、(恭弥に限ってそんなことはないと思うが) 俺を試しているのかもしれない。(後者の方が確率は高い気がする) それに俺にはそんなこと、できるわけもないし、恭弥だってできないはずだ。 好きとか嫌いとは別時限。現実問題不可能だ。 ここらへんなんだか皮肉だな、と思うけれど。 好きだけで生きていけたなら、悩むことも減る気がする。 体面とか利益とか、必然的に考えなければならない世の中は、なんとも夢がない。 もっと綺麗に生きていけたらいいのに。 と、なんだか話を反らし理想論を頭で語ってみても仕方なかった。 わからないものはわからないし、 捨てられない自分や不可能な現実を恭弥はわかっているはずだ。 決して頭は悪くない。むしろ世の中の汚さを悟りきっているようにも見える子だから。 ならばこれは今俺が考えたのと同じ理想なのだろうか。 子どもながらの夢なのだろうか? 「なんで急にそんなこと言うんだ?」 埒があかないので聞いてみた。 「別に。貴方は捨てられないの知ってるし。」 「ならなんで…」 「だから馬鹿なこと言ったって、」 言ったでしょ? とそっぽを向いたまま言われれば、そうなのだけれど。 相変わらず意図はわからぬまま。 言いたくないなら別にいいけれど。 釈然としない。 「…聞かないんだね。」 いつもつっこんでくるくせに、という恭弥。 聞いてほしいわけでもあるまい。単にいつもと違うから疑問に思っただけで。 「まー言いたくないなら。いつもは恭弥が素直じゃねーだけだし。」 「…。」 なんだか沈黙。 黙り込まれると困る。 「あー恭「僕は」 弥、と名前を呼ぼうとして言えなくなったのは、重なるように恭弥が話し出したからで。 「何だ?」 そう聞き返せば、もう一度僕は、と続け「嫉妬してしまうから。」と。 「いつだって貴方の一番近くにいたいし、一番長く寄り添っていたい。 だけどそれは不可能でしょ?」 だから。 全てを捨てて欲しかったのだと。 「ファミリーも何もかも大事なものはぜんぶ。」 僕以外は全て。 馬鹿でしょ?とまた言った恭弥は、でも僕はそんなのなんだよ。と呟く。 ぽすっと応接室のいつものソファに座れば、視線を反らしたままに。 こんな風に、素直に嫉妬を口にしたことは、今まであっただろうか? そう思うと嬉しくて 思わず笑み。 「恭弥、確かに」 俺は捨てられないけれど。 「けど俺が好きなのは」 恭弥だけ。 同じこと、思ってくれてるかな。 俺もたまには、妬いてしまうし、捨ててとは願わないけど。 「俺だけ見てて欲しい、とは思うぜ?」 照れ臭い話。 それを聞いた恭弥は一瞬俺を見てまた視線を下に落とす。 少し笑ったように見えたのは、気のせいだったかもしれない。 ---- 理想と現実と、夢と事実と、それでも幸せと感じられること。 ディーノさんにとって雲雀はかわいいと思います。 雲雀さんにとってもディーノさんはかわいいんだと思います。 『貴方の、言葉、に僕は、頬が、緩むの。何故?』 執筆 07/01/18 UP 07/01/31