「好き」

たったそれだけ、他に何もなく。
誰に向かって、誰のことを言うのかといえば、予想するしかない一言だ。
しかし確実にそれは、自分に向けられている思いで
それは、真っ直ぐに見てくる瞳から、わかる。

こんなにもこんなにも
心をかき乱す。
こんなにもこんなにも
俺は動揺している。

たった一言がそれほどまでに響くのは、
ひとえに純粋で残酷な子供っぽさを恭弥が有するからなのだろう。
そしてその有する根本的資質のようなものが
飾らない言葉にストレートにのってくるからで。


曖昧にしようと、見ないふりを、聞こえないふりを、
わからないふりをしようとする俺を許さない。
今では、もう俺はとっくに恭弥に捕らわれていて、
これはきっと大切だとかいうよりも「好き」という感情にあたるはずだ。

否、「はず」などではなくそうなのだ。
俺は確実に恭弥のことを





「…何、考えてるの。」

ふと、苛立たしげな恭弥の声に気付いて目線を移すと
声音と同じように不機嫌そうな顔があった。
俺はどのくらい上の空だったのだろう。恭弥は何かを言ったのだろうか。
先ほど好きと聞いてから後の言葉は、耳に入っていなかったから定かではない。
何かを言っていたのなら、もう一度聞かせて欲しいけれど、
はたして言ってくれるかは不明だ。
気まぐれだから、半々…と言うよりは、言ってくれない可能性の方が高い。



「ん、ちょっと…。ごめんな?」

「…その変な秘密主義、イライラする。…けど、まぁいいや。特に何も言ってなかったしね…。
ただ折角僕が好きって言ったのに、反応してくれないのはどうかと思うよ。」


…。反応してなかったっけ。なんて、思った。
どうやら先ほどの思考は杞憂だったらしいが、不機嫌にかわりはない。
言葉はいつもより優しい気がする、でも実際なんだか…
そう、拗ねているような。
そんな姿を見ると、いつも振り回されているだけにやっぱり子供だと思えて安心する。
恭弥がものすごくかわいく思えて、頭を撫でたくなるけれど、
そうしたら怒るだろう。子供扱いは嫌うから。


「ごめん…でも、嬉しかったぜ?」

「そんなのじゃ…納得できないよ。」


僕は結構傷ついたんだよ?なんて続けたのはとても本気には思えなかったが、
納得できないと言った時の少し寂しそうな表情は、きっと嘘ではなかった。
それからさらにまた、好きだと言われたら、改めて聞いたら、
顔が朱に染まるのを感じた。


「貴方ってわかんないね…さっきは普通に聞いてたくせに。」

「あ、らためてきくと恥ずかしいんだよ!悪いかよ!」

「悪くないよ。面白いし、かわいい。」

「なっ…!」


からかって、楽しんでいるのだろう。
僅かな笑みを見ることができた。その姿にふっと表情を緩めて
俺は、正直に。



「さっきさ、何考えてたか、なんだけど。」

「あの赤ん坊とか、沢田綱吉とか、ファミリーのことだったら殺すから。」

「ちげぇよ!…改めて、思ったんだけど。」

俺、恭弥のこと好きだ。


こんなことはわかりきっているだろう。けれど。
必死にわからねぇふりしてても、もうわかっちまったから。



「…本当、わかんない…。当たり前だしね、そんなの。」

「あ、たりまえって…!」

「貴方は僕の物だもの。」

「ったくお前は…。」


そうはいっても。
結局何かと恭弥は俺のことを考えてくれることを知っている。
それに、始めは怖くて、今でも…少し怖いけれど、
恭弥が自分に向けてくれる想いは嬉しくて幸せだ。
恭弥はわかっているだろうか?
わかっていてもいなくても、どちらにせよ同じこと、なのだろうか?
恭弥の好きにより俺の心はいつも、揺れていることに



「きょーや」

「何?嬉しそうな顔して。」

「やっぱ好きっていってもらえんの、うれしーよな!」

「ふぅん。そう。」


ドキドキと、しながら。

僅かに笑みを見せてくれた恭弥にほわほわと、あたたかくなって


俺は恭弥に、静かに口付けた。












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ほの甘。ふぅんといいながら、内心めっさ機嫌良い雲雀様、だといいな!と
ディーノさんに早く出てきて欲しいんです…!←WJの話
アニメでディノさん出るのに浮かれてます、今(笑

切ないのも、甘いのも、大好物さ…!←しつこいよ


『他のものになんか思考を働かせないで。僕のことだけ考えてて。』

執筆 06/11/14 UP 06/11/24