「千種のばーか」

「……。」

「…ばか。」

いったいなんなの、という小さな呟きは風に掻き消された。
この様子は怒って、すねて、そんなものだが、そうさせるような行動をした覚えはなく。
結局、何?ともう一度聞く羽目になる。
このままいくら考えたところで無駄だろうと感じて。


「別に。」
「それで別にはないでしょ?何が嫌だったの?」

こういうときは、めんどいなんて呟いたら
取返しがつかなくなるので(たとえ口癖でも、だ。)気をつけながら話す。


「…らって…。」


(…怒ってたんじゃないの。)
(わけわかんないよ…どうして)
泣きそうなの?


「千種、骸さんのことばっか、考えてるもん…。」

「それで、ばか?」

「…うん。」

なんとも…
単純なような複雑なような。

とにかく一つ言いたいのは。
「犬もでしょ?」

何かにつければ骸さん、と抱き付くのなんてしょっちゅうだ。
なのに俺には言うというこの理不尽。
犬が妬くなら俺だって、いつも妬いていることに
気付いてくれてもいいのではないだろうか…。

「けど、なんかやら。」
「悲しく、なるもん。千種が骸さんのことばっか考えてんの、わかると。」

ごめんと謝るのは、自分でおかしなことを言っていると思っているからだろう。

「俺達にとって…骸様は」
「うん、別格らよ。」

わかってるんら、けど、
そう言った犬は苦笑した。
俯きながら、めったにしない表情で。



「…犬。」
俺はといえばいつのまにか、犬の額に触れて。
無意識に、触れて
いた。


「俺は、確かにね。」
骸様のこと、ばっかり、考えてるかもしれないけれど。

「犬のこともちゃんと、考えてるから。」

(めんどいなんて、)
(思わないから、君も。)

「そんな顔しないで、俺のこと思って、て?」

呟けば近くに、赤い顔した犬がいて。
それでも一呼吸後ににこり、笑う。

「千種の、ばか。」
「まだ、言うの…。」
「らって、」

俺はとっくに、千種のこといっぱい思ってるもん。

刹那の触れ合いは、犬からで。
かわいらしい君は、笑顔だった。


やっぱり、暗い顔は似合わないよ、犬は。
笑ってて、俺を、照らしてて。
きゅっと抱きしめれば、まわされる腕が、こんなにも愛しいなんて。

知らなかったから。

















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骸さんは二人にとって別ものだけれど、それでも妬いてしまうという感じな話。
内輪で依存しあっているこの子等は、本当大好きです…!
そして、拗ねる犬ちゃんはめちゃくちゃかわいいと思うんです。
なので、衝動が抑えられずに執筆(笑)


『愛情は、閉鎖的空間で育まれる。』

執筆 07/02/04 UP 07/03/18