めんどいって聞くと
俺たちと、俺と、いることですら
めんどくさいように、思ってるみたいで
どうにもこの口癖は、嫌いだった。


「犬、やめなよ…めんどい。」

いつもみたいに、骸さんにじゃれついていて
唐突(でもないか、いつも聞いてるんだし…)にそう言われ
俺はびくり、と思わず反応し、骸さんから離れてしまった。

「おや?」
どうしたんですか、犬

と、いつもと違う反応に(普段ならダメメガネ、なんて言い返すから)
骸さんは、きょとん、として けれど俺は取り繕って

「別になんともないれす!」
なんて、散歩いってきます、と外に出た。



「追いかけないんですか?」
「…。」
「行ってあげた方が良いと思うんですけどねぇ…」

あれは千種関係でしょう、多分

「…は、い…。」


「まったく、世話が焼けるんですから。」




「…ふぅ。」
近場の公園、誰もいない、そこ。ブランコに座って、ゆらゆら、不安定
それは今の俺みたいで、可笑しかった。

普段普通に返せているくせに
今日そこまでびくっとしたのは、嫌な夢をみたからで
我ながら女々しいなと思いつつも、辛いから仕方ない。


「…犬!」

声に、横を向く

汗をかくことは嫌いな、千種。
走っている。しかも、大きな声で呼んで

これが今日でないのなら、迷わず抱きついたんだと思う。
それでも今日だから、ブランコで身を小さくするしかなかった。


「犬…。どう、したの。」
「どーも、しねーびょん。」
「嘘吐き。人の心配するくせに、いっつも犬は隠そうする…」
「…。」

誰が何隠してても、俺たち大抵わかっちゃうでしょ、と
千種は言った。確かにそうだった。
聞く聞かないは別として、なんとなくわかってしまう自分たち。

もう、隠せそうにないな、と思う。黙っていても、どうにもならない。


「…嫌な、夢、みた。」
「どんな?」
「ち、くさが…俺のこと、嫌いってゆーの。めんどいってゆーの」

だから、怖かった。
口癖が、怖かった。
いつか本気で、自分の存在が、面倒だと言われてしまうんではないかと


「…ばか犬」

「…。」

「そんなわけないでしょ。」

ブランコに座っている俺を、立ったままの千種はかがんで、包み込む。

その腕がずっとずっと優しかったから
思わず泣きそうになって、
悲しさでは泣けなかったけれど、安心とかうれしさで
あぁ、止まらない。

「お、れ…っ…んなの、やらって、思って…」
「…うん。」
「けど、っ…千種、本気で、きら、いって…」
「…うん。」
「怖、か……っ…」

必死でしがみついていた。離すのがまだ不安だった。
千種は何も言わなかったけれど、言葉にするよりずっと心地よかった。


「めんどくなんてないよ。」
ぽんぽん、と頭を触られる、感覚。

「口癖、だから、出ちゃうけど。」

背中もさすってくれる。

「めんどくない。犬のこと好き。本当だよ」

ね、と言われれば
顔は見えなくても
優しい笑みを
みせてくれていると
わかる。


「俺も、千種、大好き…らよ。」
「…うん。ありがと。」

じゃ、骸様が心配するから、帰ろっか。

大分落ち着いた俺に差し出された手は
大きくて
しっかり掴んで
ゆっくり歩く。


「家」に帰る道はとても綺麗だった。
太陽が、照らして。














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犬ちゃんは「めんどい」な口癖が嫌いで
だからそれをきくとつい、不安を隠すように怒鳴ってしまう、のだったらいいなと


『悪い夢なんて俺がすべて消してあげる。だから安心してお休み』

執筆 07/03/28 UP 07/08/09