ハラハラと舞う雪を見て、ふぅと溜息を一つ。

もう、そんな季節かと手に触れる冷たい雪が溶けるのを見た。



丹雪花



この雪は、積もるな。

大きな雪片を手に乗せ、じっと手が冷たくなるのを感じていた。

「(明日には、もう積もってるかな)」

この年だ、それほど騒いで雪遊びをすることもないが、雪は嫌いじゃない。

そもそも、自分は『喧騒』が苦手だ。

車やバイクの音は勿論、実際人間が騒ぐあの騒音や雑音も。

そんな煩さよりも、雨や風の音の方が心地よく感じるときが多い。

雪になり、積もれば人は殆どが寒かったり交通の関係で家に引きこもり、外には人影もない。

深々と雪が降り積もり、真っ白と無音の空間が、実は好きだったりもする。

屋根に積もった雪に手を伸ばし掴み、冷たいという実感も。

時々悪ふざけで、見知らぬ人にぶつけた事もあったか。

徐々に強くなる雪模様に、暫し我を忘れた。



頬を優しく撫でる牡丹、その様は一体何と例えよう。



総てを白、無に帰すその様も。



「この寒空、何を一人外で…」

「…いや、雪ってそんなに、嫌いじゃねぇし」

流石に雪が降る季節にもなれば、自分とて着込む。

それでも厚着をすれば息苦しく、学ランの釦は留めぬままだけれど。

鞄を小脇に抱え、巻いたマフラーに口元を隠し。

「…あぁ、確かに雪だと思うとそれほど寒いとは思わないな」

雪が降る前兆は、酷く寒い。

それでも一度雪が降れば、滅多に見ぬ自然現象だからか不思議と気分が晴れるのだ。

「けど、こんなに冷えるまで外に居なくても…」

「…うわ、お前の手あったかー……」

いつから居たのか、と手を握れば人の手かと思うほど冷たい。

自分の手が温かく感じるのも無理はない、制服も微かに白ばんでいるほどだ。

霜焼けになるぞ、と手を引き移動する。

自動販売機に来れば、小銭を入れて暖かなコーヒーのボタンを押した。

「ほら。温くなったら振れよ」

「え、あ……あり、が、とう」

礼なんて言い慣れてないけど、やっぱり言うべきかと照れながら呟く。

「はー……ぬっくー…」

「手袋はどうした?まあ持ってるの見たことないけど」

ガコン、ともう一度自販機が鳴る。

手袋は持っているといざ斬り合いになった時に抜きにくい、と言えば彼…剣舞もそうかと同意してくれる。

それと同時に握力が鈍るのか、基本的に男性が手袋というのはあまり見たことがない。

別の意味で、女性が男性にそれを送るときは『戦い以外にも興味を持って』と言う意味になるとか、ならないとか。

「…雪って、何か…不思議なんだよなぁ」

「…そうか?所詮水が凍って結晶化したものだろ」

「いや、そう言う意味でなくて。」

確かにそうなのだけれど、それを言えば元も子もなくなってしまう。

「……なんか、真っ白…って、俺が言うのも何だけど純粋…って感じするじゃん」

汚れがない、或いは汚れることを知らないなど。

「その中にいけば、俺のこの…ぐちゃぐちゃした何かも、取れるんじゃねーか…って」

自分自身すら、真っ白に包み込んで欲しいと思うときが本当にたまにだが、ある。

吸い込まれるように、誘われるように。

その真っ白な絨毯のように降り積もった雪に倒れ込んで、何もかも忘れてしまえればいいと何度思ったか。

「……まぁ、それは俺も思うけど」

「お前が?」

「…それこそ昔は、無茶もしたさ」

話すことも恥ずかしいほど、ばかばかしい過去もある。

滝を浴びて流せたらどんなにいいか、と思ったことも一度くらいはあったか、と彼は笑う。

「まぁ、今はあんまりそう思わないけど」

「……なん、で?」

「…過去を流したら、今の俺が消える気がしたんだ」

過去の自分が在るから、今の自分が在るんだと気付いた日から。

過去の自分を消したら、今の自分も消えるんだと思ったから。



過去の自分がいなければ、今こうして刺々森の隣にいる自分が無かったかも知れないと思ったから。



「…どういう経緯であれ、その過去総てが今のこの一瞬にあると思えば……な」

その総てをひっくるめて、『絶山 剣舞』が成り立っていると思えば。

「でも、そうだな…もし消えるなら、お前と一緒が良い」

「!!」

「……遺されるのも嫌だ。遺すのも…嫌だ。」

一人遺るくらいなら、共に消える。

一人遺してしまうのなら……お前は、共に消えてくれるだろうか。



二人とけて、無くなってくれるだろうか。



じっと、刺々森の顔を見てそう訊ねる。

困らせる問いかけをしていると、分かっていても。

まるで試すような問いかけに、刺々森はふっと笑って持っていたコーヒーの缶を剣舞の頬に手を伸ばし、当ててやる。

「あっつ!」

「何巫山戯た事言ってんだ?」

ばかばかしい、と缶を振りプルタブをかちかちと指で弄る。

やはり困らせるか、とその問いを撤回しようとした、その時だった。



「一緒に死ねるなら死んでやるさ」



正直、予想外だった。

彼は勝手に死ねだのくたばれだの、憎まれ口を叩くことを有る程度覚悟して、問いかけたのに。

「刺…」

「お前が死ぬと悟ったんなら、先に俺を殺しに来い」

お前になら、殺されてやろう。

「逆に俺が先に死ぬと思ったら、俺がお前を殺しに行くから」

「……でも」

「……それがダメなら……一緒に、死ぬ」

刀を持ち、同じ瞬間に。

一瞬でも先に逝く逝かれるのが嫌なのなら。同じ瞬間に死のうではないか。

「…出来ることなら、往生してからな」

「…クク…ハハッ、お前らしい」

お前が言う往生とは何年だ、と問えば100年と答える。

「あぁ、もしくは充分俺達が、愉しめたと思った瞬間か。」

にやり、と口角を上げ刺々森が剣舞を見上げる。

それが何を意味しているのか、大体だが把握し同じく口角を上げ笑い返す。

「…そりゃ、未来永劫…だろ」

「はん、満足させられるか?俺は思った以上に、傲慢強欲、貪欲だからな」

「知ってるさ」

一度キスをすれば、キスだけで満足できなくなるその体も。

口では嫌だと言っていても、本心では嫌がっていないことも。

何だかんだいって、自分の隣にいてくれる優しい子だと言うことも。



「…なぁ、こんなでかい雪って何つーんだっけ」

肩を並べ、缶両手に帰路に着く中、未だ雪は降り止んでいない。

以前見た雪よりも大きく、手に乗せても爪ほどはあるだろうか。

「あー…何だっけ。『牡丹』…『雪』だっけ?『牡丹雪花』?」

「雪花って何だ?」

「簡単に言えば花みたいな雪って事。なんか良く見たら花びらっぽく見えんじゃん」

牡丹かどうかはおいといてね、と付け加えれば刺々森がふふ、と微かに笑う。

「ンだその適当さ」

牡丹どうこうも怪しいんじゃねーの、と言ってやればわざとらしい咳が聞こえる。

「あーあ、寒いなぁ」

「…半分は自業自得じゃね?」

「はー寒い寒い。今日はもーどっかで誰かと寝るしかねーなー」

「…アラヤダ、誘われてる?俺」

「別にー?雪の降る日は寒いし、寒いと人肌恋しくなるだけだしー」

でも別に、一人で寝てもいいんだけどなー、とわざとらしく剣舞を見遣る。

本当は、泊まりたいんだけど。でもちょっと恥ずかしいから、遠回しに言うだけ。



…なんて、きっとコイツには俺の考えてること何て、ばればれなんだろうけど。



「…明日は学校も休みだし?」

「あってもこれじゃ積もるし、積もったら休校じゃね?」

さぁ、どうするかなぁ、とわざとらしく大きな声で言う。

そうすれば、剣舞はふふと優しく笑いながら己の手を、暖かいその手で包んでくれる。

「素直になればー?」

「…どっちが?」

「………しょうがない、今日は大人な俺が大人になろう」





だからお願い。寒くて眠れそうにないから一緒に暖まって、一緒に眠ろう?





「……あーあ、しょうがねぇなぁー」

わざとらしくそんな声を出せば、剣舞ははいはいと最早適当な返事をくれる。

だがそれはあくまでも、油断させるためだ。

自分の手を包み込んでいた剣舞の手を握り、ぐっと強く引き寄せ剣舞のバランスを崩し。

「(俺もちょうど、そう思ってた、とこ)」



そうこっそり崩し近くなった彼の耳元にそっと囁くのであった。





空から落ちてくる白い花は、綺麗だとおもう。

そしてその白い花は冷たくて、この人の傍による口実になってくれる。






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天橋 ヨウさん宅 の400キリリク横取りして、頂きました!

甘いよ!甘いよー!すっごい素敵で本当に感激です…!
ヨウさん、本当感謝です!ありがとうございます…!

なんだかもうこんなサイトに飾っちゃって良いんでしょうかあわわ
お言葉に甘えてソースコピーさせて頂きました。(素敵デザイン崩したくなかったですし…!)
何か不都合等ありましたらご報告下さると助かります。

それではもう一度、本当にありがとうございました!

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