【護るべき者】





「え…ほんとに俺がやんの!?手握っとく係とかじゃ駄目?」

「はぁ?なんだそりゃ?テメー以外にいないんだからしかたねーだろぉ」

「だってピアスなんて!耳に穴あけんだろ…絶対痛いって!」

「あけるのはテメーの耳じゃねぇだろぉが」

ほら、と言われてピアサーを放ってくるのをどうにか受け止めて、それでもどうしていいかわからず、ディーノは戸惑いながらそれをみつめた。

「うぅ……絶対痛いって。だって針だろ、これ……」

ガタガタぬかさず早くしろってんだ、だなんて言われても、人の耳に穴を開けるだなんて怖くて出来そうにも無い。

「う゛おぉい!それ持って少し力込めるだけだろぉ?」

そう、確かにそれだけのことではあるのだけど。
ただ印をつけたスクアーロの耳にこの針をあてて、ガシッと力を込めればいいだけなのに。
そうしたら勝手にピアスが刺さってちゃんと止まる仕組みになってるんだ。安全なつくりになってるんだから。
そうやって言い聞かせはするけどやっぱり怖いものは怖い。

「自分じゃ開けれないから頼んでるんだぜ」

この俺が頼みごとなんて滅多にねぇんだからな、なんて付け足さなくてもいいじゃないか。そう言われたらやるしか無い気になってくる。だけどやっぱり…怖い。

「ほんとにやんの…?」

「何度もいわせんじゃねぇ」

スクアーロの決意は固い。やっぱりやるしか無いみたいだ。

「でも、俺じゃなくて他のやつとかさ……」

言いながら、他の奴、って考えてちょっと嫌な気分になった。スクアーロの耳に誰かが触れている図を想像して――といっても具体的な人物なんて思いつかなかったけれど――何でだろう、複雑な気分になる。他の奴がやるくらいだったらやっぱり自分がやりたい、かも。

「てめぇにやってくれって言ってんだろぉ?っていうか自分で言って落ちこんでんじゃねぇぞ」

「落ち込んでなんか…!」

図星だっただけに余計に悔しくて、あからさまに顔を背ける。
だって、他の奴になんて嫌なんだ。スクアーロは俺だけの友達で、俺だけの、あぁもうこんな時に自分の独占欲の強さなんて自覚しなくてもいいじゃないか。

「てめぇじゃなきゃ意味無ぇんだ。早くしろ」

へ?今なんて?

「スクアーロ?」

顔をあげれば、今度はスクアーロが顔を背けていた。あれ?何故だか耳が赤い、気がする。自分じゃなきゃ意味が無いって、他の奴じゃなくて自分じゃないと……その言葉を心の中で繰り返して、あぁスクアーロにとっても自分は特別なんだなって、そういう意味だって気付いて、カァッとなる。

「へなちょこぉ」

催促するように呼ばれて、手に握ったままのピアサーを見つめる。覚悟を決めて――何だかそれも可笑しな話だけど―― 一回、深呼吸。
そして、スクアーロの左耳に当てて。


ガシャン。


カチリ、とはまった音がしたような、気がした(多分気がしただけ)。そっと外していくと、耳にはちゃんとピアスだけが刺さっていた。血は出ていないし、変にずれることもなかったようだ。とりあえず、ホッとして、それから恐る恐るスクアーロの顔を覗きこむ。

「痛く、ない?」

「まぁ…な」

やっぱりちょっと痛かったのかもしれない。

「大丈夫?」

当たり前だろぉ、ってそう言われて、それから改めて耳を見つめる。

「ほんとに刺さってる……」

それこそ当たり前なんだけれど、思わず口にした言葉にスクアーロがプッと噴出した……笑わなくてもいいじゃないか。

「片耳だけでいいの?」

あまりにスクアーロが笑うものだから居たたまれなくなって、話をそらすかのように気になってた疑問を口にした。だって、普通は両耳にあけるんじゃなかったっけ?

「いいんだよ、これで」

片耳だからこそ意味がある、なんて意味深なこと言いながら、「何で?」って聞いても適当にはぐらかされて教えて貰えなかった。








後日、その意味を調べてみて、俺は一人で真っ赤になっていた。

『左につける=護る人、右につける=護られる人』

つまり、それってさぁ、自惚れてもいいってこと?「護る者」だなんてさ。
だから、俺もピアスを開けてみてもいいかな、なんてちょっと考えた。だけど、それは右耳じゃない。俺だって大切な人を「護る者」でいたいから。 そうだ、俺もピアスを開けて貰おう。もちろんスクアーロに頼んで。そして1対のピアスを買って、お揃いで左耳に付けるんだ。
そう考えたらわくわくしてきた。
明日スクアーロに言ったらどんな反応するだろう?
へなちょこにピアスなんざ似合わねぇなんて言って笑うのかな?それとも前みたいに照れてくれる?
どっちでもいいや。明日が楽しみになってきた。








「なぁ、スクアーロ。俺にもピアス開けてくれない?」








↓おまけ(現在、ヴァリアーのアジトにて)


「スクアーロってさぁ、考え事するとき、いつも左耳触るよね?」

「はあぁ?」

そう言われて初めて気付いた。
無自覚だった癖。何も無いところに何かを探すようにして、己の耳朶に触れる。完全に塞がってしまった穴の位置。左耳に1つ。

それは決意の証だった。護る者なんて、そんな大それた思いなんて恥ずかしくて口には出せなかったけれど。それでも、あぁして2人でいる間だけはせめて傷つけるものを排除してやろう、と幼いながらに本気でそう思っていた。
結局、最終的に傷つけたのは自分であったのは何の皮肉か。

そして、それは記憶を刻むものだった。あの青い空の下で過ごした日にはそんなこと思いもしなかった。ただ、ピアスに触れるだけで、いない時間も傍にいるかのような、そんな錯覚に浸ることが出来たから。
いつでもアイツを思い出せるように、なんて。そんなことを考えて。

ピアスを刺している限り繋がり続けられるようなそんな幻想。だけど、もう断ち切ってしまった縁を、もう戻らない決別のつもりでピアスを外して捨てた。
そうだ、捨てたのは他でも無い自分自身。


いつの間にか穴は塞がって、耳にその痕すら残らずにいたのに。
だけど、それでも、心に刻まれた思いだけは消せずにいた、とそういうことだろうか?
考えて、馬鹿らしくなる。

「護る者なんてさ、スクアーロって以外と恥ずかしい奴なんだね」

……シシシッ、と笑うコイツはいったい何処まで知っているのだろう。




















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リンクして頂いてリンク貼り替えさせて頂いて、
勝手に相互に舞い上がってヒバディノを押しつけたらこんな素敵なモノが…!
返ってきてしまいました…恐縮です。しかし嬉しいです…!おまけまで素敵で!
あんまりに感激しましたので、飾らせて頂きました。皆かわいいなぁ…!
本当にありがとうございました!


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