「犬。」


手、繋ぎましょう?なんて
自分では珍しいことを言ったものだ。


町中。
まだまだ、春が近いと言っても、寒い日。
風が強くて
犬はそれでも、元気だった。

今居る場所…いうなれば、家に
籠もりがちになるのを
外に出てみませんか?と誘ったのは
つい先刻の話で

単に散歩
単に、気まぐれ。


千種は気を利かせたのか
それとも本音か
「……めんどい。」
と一言告げた後、二人でどうぞ、と
僕と犬に呟いた。

犬は心底、残念な様子で(僕が誘った時は心底嬉しそうだったのに)
千種はそれを少々気にかけていたけれど(根は優しい子だから)

結局、二人で行くことになって。
犬はいざ外に出てみれば、元気で
くるくる、回るような雰囲気
あぁ周りには、春はまだなのに花がみえるようだなんて
おかしいのかもしれないけれど
本当に、そう思う。

かわいらしい、笑顔
素直な、率直な感情表現

骸さん、と呼ばれるたびに
とくんと響く心音に
君は、気付いていますか?
僕は
こんなにも




いつもは、犬がくっついてきたり腕を組むものだから
一瞬犬は驚いたように目を見開いた。
しかしそれはすぐに、幸せそうな笑顔に変わって
はい、と呟かれた。

てをしっかりとにぎれば
答えるように犬はぎゅっと握って

空がきれーれすね、とか
骸さん寒くないれすか?とか

他愛ない話。
くだらない話。
呆れたりすることもなく
ただ静かに聞いて答えて
少しの、当たり前のことにも
とても楽しそうに、不思議そうに、
話す、犬が
愛しくてたまらなくて
こんな感情は
少なくとも記憶のある内には
得られなかったものだから

まもりたいもの。
手放したくない。



「犬。」

思わず抱きしめたのは、
今は恐怖でなんかじゃない。

手放したくないけれど、
これは恐怖なんかじゃない。

どんなにか幸せかって
自分が
どんなにか幸せかって
そして

感謝と、感謝と謝罪を

いつもいつも

伝えたくて
伝えたくて

たまらないこと

たくさん

こめて

伝わればいいって
そんな思いで

抱きしめたんだ。
君が離れるようで不安、とかじゃないんです。

あたたかさに、今は信じられるから。
いつかくる別れも、きっと受け入れられて
なにもかも全てが無くなることはない。
これまでの時間は嘘じゃない。
今はわかるから。



「骸さん、」

俺は本当に、幸せれすね。

にこりにこり

僕や犬にしか、見せないような、笑みを
犬は僕と居る時絶やさないけれど
これはよりいっそう
眩しく見えるくらいの
きれいなきれいな


「大好きな人に、抱きしめてもらえます。」

恨みとかそんな想いばかり抱えて
ひたすらがむしゃら
貴方を追ってきた

でも今

いろんな気持ち、さらけ出してくれて

「俺に、おしえてくれる、骸さん、大好きれす。」

いろんな骸さん、全部全部大好きだけれど。

「こんな風に、伝えてくれる骸さんが、一番好きれす。」



抱きしめたぬくもりがとてつもなくあたたかかった。
繋ぎなおしたてのひらが、どうにも熱を放っていて。

ぎゅっと握った。
もう一度握った。

一緒に帰る道
ずっとずっと握ったままで
できればずっと握ったままで

心地よい日々
できるだけつかんでいたい。



日差しは冬とは思えないほど

春に近かった。

きっと一人は寂しいけれど

二人なら町も

寂しくない。



何かをもらって
自分も何かを、あげることが
できているのだろうか?
君と僕と
喜びは、共通ですか?


この心音が
繋がっている所を通して
伝わればいいのに。

とくんとくん
響くのは、
幸せの合図。
















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骸さんがいるからいる、犬と
犬によって、犬と千種によって変わった、骸さん。

黒曜は幸せ希望だったりします。とかいって、痛いのとか、好きで見ますが
根本的には、他の人には悲しく映るとしても
本人達は、3人でいて3人依存し合っているのが
居心地良くて、幸せだとか。
一人前に進み始めたら、みんな一緒に進んだり
そんな風ならいいな、関係しあって影響しあっていたらいいなと。

これを書いたきっかけは、突然、手繋ぎましょうと誘う骸さんが頭に浮かんで(笑)
ぽん、と1フレーズ出てくるのはよくあります。
当初のイメージとかいていくうち変わったりしますけども
それもまた、楽しいところです。

『ふわふわ、ぽかぽか。こころのなか、たくさん』

執筆 07/02/25 UP 07/02/25