「貴女はそうやって、ずっとアルコバレーノに縛られているつもりですか?」

正しく呪いですね、とその男は言った。
女もただ俯き否定せず、それは肯定を表すのであろう、女は黙っていた。

「それほどまでに死にたいのなら、殺してあげますよ、この手で」

どうです?ラル・ミルチ

綺麗に発音されたそれは甘美で、けれど女はぴくりとも反応しなかった。
ただ心情的には充分に揺れていたろうが、幸か不幸かそれを表に出すようには
育っていなかったため、傍目には無反応に映った。

永く自らを偽り本心を隠し、男言葉という鎧を着て過ごしていた女は、
どうにもそれに長けてしまっていて、それは柔らかに見せかけて、実は距離をとるような
言語を使っているこの男に似た部分だった。

芯がどうあれ被っている仮面があることに変わりはない。
その点をみるとこの二人は似通っていた。
その点以外にも似ている部分が多々あった。
そして同時に、相反していた。
どうにも、真逆だった。

片方は同胞のために死を願い、だが本心では生を思っていた。
片方は目的のため生きることを望んだが、真実は繰り返しに終わりを告げたかった。

二人は真逆だった。
二人は酷似していた。


「どうして、執着するんです?できそこないだと卑下するなら」

ボンゴレなんて抜ければいい。

「…卑下でもなんでもない。…ただ、事実だ。」

抜けるなんて簡単にはいかないし

「それは心情的に?それとも身上的に?」
身の上だけのことならば
今すぐにだって抜け出させてみせますよ、と
男は微笑する。それは嘘ではないのだろう。
だがしかし、女はそれを望んでいるわけではない。
女は自らのファミリーを、また今は亡き仲間を、裏切る気など毛頭ないのだから。

ただ男だけが、望んでいることだった。
彼女への想い故に。

恋だの愛だの、世間的な甘いものではないかもしれない。
一種の破壊衝動にも似ている。


「なんで捨てないんですか?辛いのに」
「辛いからこそ、だ」
「そう、なんでしょうね。全く貴女は楽な道を選ばない」
「生き長らえていることが罪だからな。」

女は初めて表情を変える。
微笑みというには悲しすぎるものだったけれど。

「ラル、僕は貴女を愛しています。」

全て知った上で

「似ているでしょう?僕たちはとても」

「何を、逆だろう?」

「それも間違ってはいません。」

一瞬の苦笑に
肩をすくめてただ、男は女との距離を縮めた。
女は動かなかった。
全く動じなかった。
そんな風に育ってはいなかったから
そんな風に作られていなかったから

ただ抱きしめんとする腕だけは、やんわりと否定したのは
女にまだ想う人があり、男の思いが

一方通行だと

物語っていた。


















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虹の誰かへの思いを捨てられないラルとそのラルに惹かれている骸さん話。
どマイナーきちゃいました。かいちゃいました唐突に。
文体もいつもと違う感じで。過去形なのは、時は常に流れるけれど
それに抗っているラルの雰囲気を出したかったからです。


『男も女も、生という鎖で縛られていた。』

執筆 07/03/28 UP 07/03/29