滅多に泣くことなどないのだろう彼が
静かに涙を流しているのをみたのは、夕暮れ時の屋上だった。
何を思って泣いたのかはわからないし、一瞬流れる雫を見ただけ。
彼は自分にすぐ気付き何事もないかのように
「なんだぁ?へなちょこぉ」と呟いたので、見間違いだったのかもしれない。

ただ彼は何度もこんな風に一人涙を流して
一人で立ち上がり進んできたのではないかと思う。
根拠なんて欠片もないし真偽を確かめようもないけれどそう感じる。
そして自分はなんでもないと呟いて、「隣いい?」なんて聞いた。

「拒否したところでいっつも勝手にいるだろぉがぁ」
「あはは、いーじゃんかー」
「良くねぇよ」

といっても心底嫌ならこんな風な会話すらせずに、
きっと彼のことだから、とっくに斬り捨てているだろう。
それをわかっているから、俺は懲りずに隣へ行くし、
甘受してくれるスクアーロをありがたいとも思っている。
どうにも好きなのは、大事だと思っているのは、俺だけなのかもしれない。
けれどそれでも、そばにいられるなら構わないんだ。
大切だと思えるだけで、会話できるだけで幸せだから。

だけど。


「なんでそんな顔」
「はぁ?」
「思い詰めてる、みたいな」
「…んな、わけ」

ない、とは言わせなかった。
静かに首を振るだけで、通じたのか
スクアーロは黙って少し俯く。
何を悩んでいるのかって、聞きたくて
でも聞いてしまってはいけないような、気もした。
自分にはきっと解決できるものじゃないし、軽い言葉なんて望んでいないだろう。


「なぁスクアーロ、聞かないから」 
「……。」

「聞かないから、怒らないで」 


意味がわからなくて目を見開くスクアーロを、俺は静かに抱きしめる。
すると、自分が少し、震えているのがわかる。

じん、と熱くなり何かがわき上がってくる感覚に、
気付いたらぽたぽた。俺、泣いてる?

抱きしめ返すスクアーロの腕が優しくて、
嗚咽が押し殺せなくて、みっともない姿を晒す。
へなちょこだなと思う。
でもいいんだ。
君が泣けない分だけ俺が泣くんだ。
弱さを見せられないのなら、俺が全部引き受けるから、だから。


「ありがとなぁ」


不器用で優しくて強い君の側に居られたら嬉しい。
額に感じた体温と柔らかさに身を預けていたい。


いつか
君のように強くなるから
今はこのまま

きちんと大人になれるかなんてわからないけど
ただ、ずっと、君は独りじゃないって
感じさせてあげられたなら
















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チャットモンチーの「夕日哀愁風車」題材。だったのですが脱線←ぁ
やっぱりスクはディノの憧れで、強い人で、でも
強いだけじゃないってこともきちんと知ってて
自分の理想ばかり押しつけているわけじゃないのです。
悩んで悩んで進んでく青春時代


『高揚は明るい街に溶けて散りゆく。どうしてこんなに切ないのだろう』

執筆 07/09/12 UP 07/09/12