傍にいられるなら構わないって。

嘘ばっかり。








「討条…さん。」


情事の後。特に何を話すでもなくて、俺はシーツにくるまって。
討条さんは、シャワーを浴びて服を着て、黙って立ち去ろうとして。


「なんだ。」

その後ろ姿を、つい…そう、特になんでもなく…
少なくともその時の自分はそう思っていたのだが…呼び止めてしまい
討条さんはこちらを見ることもなく、一言。


「…いえ、何でも。すいません…」

それに、そう答えると、そうか、と呟いて、今度こそ立ち去っていく。
あぁ、消えていく後ろ姿に、俺は気付く。
討条さんに、俺は、聞こうとしていたんだ。
ずっと聞きたくて、けれど答えは見えていて、聞けないこと。




―討条さんは、俺のこと…すき、ですか?





いつからこれほどまでに欲張りになってしまったのかと思う。
こうやって抱いてもらえるだけでも、
じっと見ているだけだったころに比べてすごく幸せなのに。
黙っているあの人。
何も語らなくて
現代に持つのには不自由な、武士の想いを宿した人は
何も思っていない奴を、抱くような人ではないと思っている。
だけれど。
はっきりと何か聞いたわけじゃなく
どうにもならない想いは増長するばかり。


「…傍にいられればって、思ってたのに…。」


それだけじゃ駄目なのか。
何度もなんども身体を重ねて。最近は、少しその頻度も増えて
幸せを、かみしめて

けれどいなくなってしまったらすぐこれで。
自分が少し嫌になる。

でも。


「どうしようもなく好きなんです。」

貴方が

討条さんが



「…。刺々森…。」

…眠いのかな、俺…。なんか、討条さんの声が聞こえるような

重症、だな…


「刺々森。」

もう一度、呼ばれる。
え…なんで?

目の前のあの人の姿にはっとして、浮かぶ疑問符。



「ど、して…?」

「…。お前が…気になって…だ。」


ボソリと呟かれたのは、あまりにも不釣り合いで
あまりにも、嬉しすぎる。



「あ、ありがとう…ございます。」
なんだか恥ずかしくて、下を向きながら。
「いや…。」
それに対し、討条さんも目をそらしながら。



「あの、討条…さん。」


迷惑かも、しれませんけど


「好きです。」


「…。」

「すいません。」

「なんで謝る。」


とっくに、そんなことは…知ってる。


「ですよねー…」

情けないやら恥ずかしいやら、軽く笑うしかなかった。



「好きだ。」

「は?」

「お前、が。」

突然のことに唖然としたら、もう言わないとそっぽを向いて。



「本当に、ありがと…ござい、ま…」

泣きそうになるほど

幸せ。




きっともう、黙って討条さんが何処かへ行こうとも

悲しくも寂しくも、ない。


また、欲張りになってしまうかも知れないけれど。

今は。


この幸せに、浸らせて。








些細な幸せ・いえない乾き



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まち沢ざんのサイト、オールドスクールの討刺漫画をみて。
つ、つい書いてしまいました…!あまりにも、素敵だったもので…!

タイトルは実は掛詞です。言えない、と癒えない、家(帰る場所が)無いの3つの意味です。
刺々森にとって、討条さんが心のよりどころ、な感じがしていたので、帰る場所。
ずっといたい場所が、無いのでは、と思えて寂しくなる心。そんなのです…!


『要らないと捨てられるまで傍にいたい。忠誠を誓うのは貴方なんです。』

執筆 07/01/05 UP 07/01/05