解けることの無い鎖は貴方の手によって。


”あの人”が、死んだ。


朝、いつもの定期連絡がなくて。でもそれは良くあることだから…
そう、イタズラとか気まぐれとかうっかりしていたとかで、良くあることだから。
念のため。
本当に念のため、何事もないだろうということを前提に様子を見に行ったら。

そしたら。


「うそ、だろ…?」
無惨な姿。


信じたくない 見たくない 何も聞こえない 気分が悪い

どうして?


この気持ちは、なんなんだ。

酷く、悲しいような
酷く、苦しいような
酷く、酷く酷く酷く…

説明のつかない想いがあって。
けれど涙になるわけではなくて。
胸に蟠り。渦を巻く。


辛い…のか?



俺は…
目の前のこの人が。害悪細菌と呼ばれていた人が。兎吊木垓輔という男が。
大嫌いで。
怖くて、恐怖の対象で。

本当に、本当に本当に、嫌いだった。今も、今でさえ嫌いなはずなのに。



「兎吊木…さん。」

用のない時は滅多に口にしなかった、その名を呼ぶ。
目の前の者が生きているという可能性なんて持ってないけれど。
返事が返ってくるような気がしてた。
いつもの、あのニヤニヤとした、大嫌いな笑みで。

―なんだい?志人君。

そう、言うような、気がしてた。


返事はない。


当たり前、だけど。

それがひどく、可笑しくて

自分が、滑稽で

後に残るは、空虚



「なんで…だよ…」

あんたは、死ぬような人じゃ、ないだろ。
”壊される”人じゃない


人のことを決めつけるなと、言われるかもしれないけれど

でも、そうでしょう?

ねぇ、兎吊木さん?






「最後まで、俺を、振り回すんですね。…どうせなら、こんな風にするくらいなら、
いっそ、俺も壊して、何もみられなくすれば良いじゃないですか。
そしたら、貴方の望むまま。縛り付けて、離さないで、いられるでしょう?」



こんな風に焼き付けられたら
消えやしない
残酷だ。
鎖が、絡まる
解けない。
貴方の、せいで
貴方の…せい、で。



兎吊木垓輔の…死体の前。
向かい合うように立ちつくし、崩れ、はうように、近づいて。
触れは、しなかった。
すべてを見透かすような、全てお見通しだというような、大嫌いなあの瞳は。
目の余り見えない俺でも、苦手で、本当に、大嫌いなあの瞳は。
突き刺さった刃物によって見えなかったけれど。

兎吊木垓輔は。
変わらずに、恐怖の対象だった。






兎吊木さん。

知ってますよね。


でも

やっぱり



本当に







俺は、あなたのことが、初めてあったときからずっと、大嫌いです。