兎吊木さんのキスは決して優しくなんてない。


無理矢理口を、歯列をこじ開けられて、舌をねじ込まれる。
俺が苦しむのなど無視して、貪るように続き、けれど…―

ゾクゾクとする悪寒に、あるいはじわりと襲う快感に…抵抗する力もなくなって
されるが、まま
息は苦しいのに


「っ…兎吊木さっ…」
「まだなれないんだね?志人くん。
今まで君は何回俺にキスされたかな?結構な回数だと思うよ。

なのに何故かな?どうしてだと思う?」


息が苦しく、うまく喋れない俺に問い掛けてくる目の前の男。
兎吊木 垓輔。

全くもって、害悪細菌とはよく言ったものだと思う。
まぁ自分にしてみれば、変態と一言で表現するのが一番正確でわかりやすいのだけれど。

そんな男の問いに、俺は「あなたが、嫌だからじゃないですか?」と即答した。


「冷たいねぇ。まぁ間違っているとは言わないよ」
「慣れたくも、ないですし」
「そうなんだろうね。けど俺は気付いてるよ?」

…何をだ。

とてつもなく嫌な予感がした。
その先は聞きたくないと本気で思った。

しかしこの男は言うなと言った所で言うのをやめるような男じゃない。
というより、「言うな」といったら余計厄介だ。
ざっと一時間くらい「どうしてやめなければならないんだい?」
と問い詰められ…あげく説教されるに決まっている。


「なにを、です?」

あぁできるなら、悪い予感よ、外れてくれ。

願うだけ無駄な気もしないではないが。

「君が」

いっそ耳を塞いでしまおうか。

「最近」

目をぎゅっと閉じた。

「俺との『キス』は嫌じゃないってことだよ」


…やっぱり、聞きたくないことだった。
悪い予感は当たる。

「おや、どうしたんだい?そんなに硬く目を閉じて」
「なんでも、ないです」

「信じたくないって顔だねぇ。でも事実は変えようがないんだよ志人くん。

君は俺のことを嫌悪してる。確実に。そして俺はそれをわかった上で
手を出しているわけだけどまぁそれはこの際置いておくとして、
君は俺を嫌悪しているのにも関わらず俺とのキスは嫌じゃない、そうだろう?」

わかってて出すのかとか置いておくなとか、
何より「キスは嫌じゃない」の部分を否定したかったのだけれど何も言えない。

その間にも相手は話し続ける。


「君は始めこそ、この行為を全身全霊で拒絶していた…
まぁもちろん今だって俺のことは嫌いなのだからされることは喜んでない。
けれどただ気持ち悪そうにしていただけだったのが、
今では苦しいながらも感じているだろう?なぁ、志人君?」

「んなわけ…」
否定するものの、それは紛れもなく事実だった。

自分でも気付いていた。


「これはめげずにし続けた結果だよね」
「…」
「それとも君が淫乱なのかな」
「なぁっ!?」

冗談だよ、とあの嫌な笑みを俺に向けてくる。
俺は目をそらしたくて、逃げたくて、でもできずに固まってしまって。


「ぁ…ん…」

必死で口を閉じてもどんどんと叩いてもびくともしない兎吊木。

「はぁっ…ふ…」
挿入される彼のもの
いや、なのに

もはや力はぬけていて、相手の舌を噛み切ってやるようなことはできなかった。


「ね?志人君。力の抜けてしまうほどに、君は俺とのキスに感じてる。
決して今は嫌だからじゃない」


「君は確実に、俺に染められてるんだよ」


いつか、跡形もなく壊してあげる
完璧に染めきって。



兎吊木さんのキスは優しくなんてない。

けどなぜか今は本当に、それほど嫌じゃないのは
ただ感じてるだけじゃなく


貴方のことを嫌う気持ちも少しましになったから


そこだけは絶対に気付かれまいと、そう思った
壊すことばかり考えている此奴なんかに、教えてやる気はさらさらない

隠して隠して
俺は兎吊木さんなんて大嫌いです。と自分にも相手にも言い続けるんだ
それが偽りだなんて

きっとお見通しだけれど














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微妙にエロい兎志。激しく乗り遅れというかマイナーですが大好き兎志。
眼鏡、白衣、ノリ突っ込み…!この子から始まって、
四月一日や新八といった短髪つっこみ眼鏡っこを好きになるようになったのです。

そしてこれはずいぶんと前に執筆したもの。
確か今から一年何ヶ月くらい前です。うわぁ。


『好きじゃない好きじゃない壊したいだけでなんて戯言は崩れ行く』

UP 07/03/26