「う、そだろぉ…」
注意はしていた。体調管理は万全だったはずだ。なのに、手にする体温計、示す温度は38.7。

思い当たることなんて、一つしかない。 昨日の夜の任務、ドシャ降りの雨。
傘なんて邪魔なものをさすわけもなく(暗殺に行くのにそんなもの、)
かなりの時間濡れていた気がする。

それでも、きちんと任務後すぐにシャワーを浴びたし温まったはずなのに。
熱でぼうっとする頭はクラクラした。それでも動けないほどではない。

ただ自分の上に立つ男に、使えないと言われたくなくて
ただ呼び出しに何事もないように応じた。


なんだぁ?任務の報告なら昨日…と、そこでフェードアウト。電源はオフ。
もっとも主電源が完全に切れたわけではないが。

次に画面の明かりがついたのは大分あとで、それは時計で確認できたのだけれど。
ふかふかした感覚と目の前の天井は、今自分の本体がベッドの上だということで、
どうしてここに、と見当がつかない。

しかも周りを見回せばどうみてもこれはザンザスの部屋で、


「ボ、ス…?」

ガチャリと入ってきたのは紛れもなく上司。


「起きたか、カスが。」

すぐそう言い放って、ベッド脇に予め用意されていたらしい椅子にどかりと座る。

「急に気失いやがって…感謝しろ」
「運んで、くれたのかぁ…?」
「放置してても邪魔なだけだろうが」

不器用な優しさがあまりに嬉しくて、思わず笑ってしまう。
相手が顔をそらしている間に。
みじろぎしてみればザンザスの匂いがして、不思議と安心できた。


ザンザスはこちらのほうを見ながら、手にあるマグカップを口に運んだ。
どうやらホットミルクらしい。夜は冷えるからだろうか。

もう日が傾いているらしく俺は随分と寝ていたんだな、と改めて思う。
この男はどのくらい俺を看ていたのだろう。
聞かないけれど、やっと起きたかという反応からして長い間看ていたのだろう。
自分は幸せだな、と感じた。


そんな折ふと感じる喉の違和感。

「喉、渇いたから水飲みに行っていいかぁ?」

「あ?病人は寝てやがれ」
「つったってよぉ…」

先ほどは幸せだなぁなんて、のろけてみたは良いものの、これは理不尽だ。


「これでも飲んでろ。」

そういって差し出されたのはホットミルク。

「牛乳だけのは、苦手だぜぇ…。」
それは昔からで、まぁこんなのはこの男に言ってもどうにもならないとは思うが。

「るせぇ。苺牛乳なら熱下げてから飲め。」
「…う。」

ボスは覚えていたらしく(まぁしょっちゅう飲んでいたら当たり前か)そんな言葉。
水をとってくるとか、せめてカフェオレにするとかそんな気はさらさらないらしい。
多分これも一種の気遣いなんだろうから悪い気はしない。…だが牛乳は飲みたくない。

「わかった、から。ホットミルクは…」
「黙れ。」

再度否定してみるも、一蹴されてしまった。
テメェは黙って飲めばいい、との言葉にまた反論しかけて、できなかった。

それは口に入ってくる液体と触れ合うものがあったからで。


「っ…!…、…」
「……。」

容赦ないそれは、離れることも吐き出すこともさせてはくれずに、
熱で潤んだ瞳はさらに生理的なものでひどくなった。
強い力でベッドに押し付けられた俺は、
味覚で液体を感じる間もなく飲み込む以外術はない。

量は少なくても無理矢理はやはり苦しく咳込んで、
ザンザスを見やれば珍しく口元を緩めていた。

「飲めるんじゃねぇか。」
「…っ…まあなぁ」

してやられた、という思いから思わず顔を背けた。
熱のせいだけでなく赤い俺は情けなくて、嬉しい自分がさらに情けなくて。


「待ってろスクアーロ。水もってきてやる。」

ザンザスはといえば。
満足そうにすっと席をたった。(風邪が移るかもなんてことは考えないのか)
それが悔しくつい睨むものの、ザンザスが動じるわけもなく。
ただ扉へと向かう。


そして、ふと、振り返り
「テメェが動けねぇと話にならねぇ」

だから早く直せ、なんて

単純な俺の機嫌が一気に良くなったのは言うまでもない。





















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2万企画でリクエスト頂いたザンスクです。
切なめや甘め等指定がないようでしたので、自由にさせて頂きました。
そしていちご牛乳ネタ…(笑


執筆 07/03/30 UP 07/04/04