星も見えない



『なーにやってんのよ?ほたる』
『んー?なにが?』
『……聞いてるのは私なんだけど』
『そうなの?』
『まったく、こういうところがほたるよね。なぁに?こんな何もないところで寝っ転がっちゃって……よっこらしょ!っと』
『灯ちゃん、くっつかないで』
『あら、私に添い寝してもらえるなんて、天下一のラッキー野郎よ。あんた』
『頼んでないし』
『あ、そう。そういうこと言うわけ。ふーん』
『……灯ちゃん、笑ってるのに怖いよ?』
『で、なに?夜空でも見てるの?』
『……ううん。星』
『ああ、星ね。きれいよね』
『うん』
『……珍しい。あんたがそんなこと言うなんて』
『そう?』
『そうよ』
『はじめて見た。こんなたくさんの星』
『へぇ?』
『ホント、すごいたくさんある。赤とか青とか白とか、いっぱい。目がチカチカする』
『そんなに驚くほど、珍しい景色なの?』
『うん』
『よほど空を見たことがないのかしら?このくらい、お天気がよければいくらでも見られるでしょうに』
『…………ううん。見てたよ。ただ、見えなかったから。あそこは』
『え?』
『……』
『……』
『ほたるー!灯ー!二人ともどこだよー!?』
『……なんか来たね』
『そうねぇ……あー、うっさい!ガキはこれだから!!ほーら、どこ見てんのアキラ!こっちこっち!!』
『灯ちゃんも静かなほうじゃないよね』
『ほーたーるー。なんか言った!?』
『……言ってない。顔ひっぱんないで。痛いから』
『なんだぁお前ら。こんなところで寝る気か?』
『あらぁ。梵まで来たの?』
『もっとうるさくなった……』
『あからさまに嫌そうな顔するんじゃねぇよ。鉄仮面のくせに』
『だって嫌だし。梵は無駄に図体でかいから、余計邪魔』
『んだとぉ?』
『はいはい、そこまでね。それでアキラ、何か用なの?』
『お前らの姿が見えねーから探しに来たんだよ。狂が呼んでる』
『なんですって!?それを早く言いなさいよ!』
『……あ、狂も来た』
『てめえら遅えんだよ。下僕の分際でオレ様を待たすんじゃねぇ』
『よく言うぜ。ワガママ大王が』
『ああ?』
『狂ー!ホントごめんなさいねー。灯たん反省するから、許してー』
『あー!!灯っ!狂にくっつくんじゃねーよ!!』
『お子様は黙ってなさい。シッシッ』
『……灯ちゃんって、くっつくの好き?』
『はぁ?何言ってんだ、ほたる?』
『梵にはカンケーない』
『狂ー♪』
『灯!はーなーれーろーよー!!』
『…………うるさい』






「……」
 束の間の夢から、目を覚ます。
 耳に残った喧騒が、夢の中に消えていく。
 近いのに、遠い記憶。
 思い起こせば、つい昨日のことのように。
 けれど現実は、あくまで遠く。
 どれほど手を伸ばしても、あのにぎやかな、心安らぐ空間には、きっともう届かない。
 ……きっともう、戻れない。
 あの世界には。
「やっぱり……見えない」
 呟いた言葉に、応える者はいない。
「なんにも、見えないよ」
 応えてくれる人は、いない。
 当然だ。ここには誰も、いないのだから。
 にぎやかな尼さん姿の彼も、口やかましい少年も、世話好きの大男も、傍若無人な紅眼の男も、誰も。
「……」
 開いた琥珀の瞳に映るのは、漆黒の闇。
 一面の黒。何一つ混じるもののない、純然たる黒。
 不純物の混入など、許されない。
 ここは、壬生の地。
 神の地。神の庭。神の領域。
 完全無欠の、すべてが完成されつくした世界。
 不足もなく、過剰もなく、すべてが円滑に、すべてがよどみなく。
 廻りゆく世界。
 それはまるで。
 閉ざされた、箱庭。
 この世界の中では。
 星も、見えない――――――。




 −fin−


 執筆日:‘04年10月31日




 四聖天の台詞の書き分けができません(−−;
 梵と子アキラの違いって…?
 だから連中は苦手なんだ;
 なのに半分以上を台詞だけで書くって、どういう了見?
 灯ちゃんが一番絡ませやすいです(そうかい)

 壬生で星が見えないってことは、ないと思います(をい)
 まぁ、この場合は観念的な問題ということで。
 



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