思考回路 −遊庵Ver−
最近、妙な知恵をつけてきた。
どうやらガキという生き物は、成長したらしたで、ロクなことを考えないらしい。
「何で、ここに連れてきたの?」
「……」
琥珀色の瞳が、燃えていた。
その内に潜む炎が、赤く、熱く。
輝いている。
「オレ、あそこでよかったけど?」
とうとうと語る言葉は、おそらく真実。
知っている。
こいつは初めから、望んでなんかいなかった。
『家族の温もり』、なんてものは――――――。
……なのに。
そうと知っていながら連れてきたのは、己のつまらないエゴだ。
あそこでは、ダメだった。
自分一人では、足らなかった。
この外見以上に幼い魂を、奈落の底から救い上げるには。
「……」
「まただんまり?」
責めるような視線を、するりとかわす。
答えない。教えない。導かない。
今は、まだ。
(オレが教えちゃ、意味がねえんだよ)
「……いつまでも寝てねえで、家ん中入れ。無駄に庵奈を怒らすなよ」
「……バカ」
恨みがましい声を背中に受け止めて、大切な『家族』が待つ家に、帰る。
「あ、アニキだ」
「アニキ、おかえりー」
「結構早かったね」
「もっと遅くなるかと思った」
「ご飯もうすぐできるよー」
「おう」
建てつけの悪い引き戸をくぐり、短い通路を抜けて居間に入ると、五つ子たちが次々と口を開いて出迎えてくれた。
狭い部屋の大部分を占領する大きな木卓の上には、種々の料理が所狭しと並べられている。
「お、うまそうじゃん」
食欲をそそる匂いに惹かれて、遊庵はつと皿に手を伸ばした。
が、
「アニキ!つまみ食いはダメだよ!!」
「どわっ!」
鋭い怒声と共に飛んできたしゃもじに甲を打たれ、たまらず手を引っ込める。
「いってー……」
「アニキ、大人しく座って待ってらんないのかい!?」
「へいへい。わっかりましたよ」
打たれた手をさすりながら、自分の席に足を向ける。
……と、そのとき、外で寝転がっていたはずの弟子が、遊庵の背後からひょいと顔を覗かせた。
「あ、ケイコク!どこ行ってたんだよ!?」
「よかった。メシまでに戻ってきてくれて」
その金色の頭を認めた遊里庵と絵里庵が、ほっとした表情で弟子に笑いかける。
「ここ、うるさいから」
ぼそりと答えた弟子は、今しがた入ってきたばかりの引き戸を指差した。
「外で寝てた」
それを聞き、遊庵は「なるほど。だからあんな変な場所にいやがったのか」と納得する。
「離れはどうした?いつもそこにいるじゃねえか」
「追い出された。庵曽新に」
ふと尋ねると、弟子は眉をハの字に歪め、軽く下唇を突き出して呟いた。
「庵曽新って意地悪だよねー」
「ケイコクには特にねー」
真理庵、里々庵が非難がましい視線を三男に向ける。
「オレのせいかよ!?」
大皿を運んでいた庵曽新は、憤然として声を張り上げた。
「だいたいな!何でいつもいつもオレの部屋にいるんだよ!お前は!!」
「いいじゃん。静かなんだから」
「オレの都合も考えろ!」
「考えない」
「……んだとぉ!?」
「あー、ホレホレおめーら、仲良くな?」
今にも弟子に掴みかかろうとしていた庵曽新の額を、高く上げた足の裏で押し返して弟子から遠ざけ、遊庵は二人の頭をぐしゃりとかき回した。
「さー、メシだメシ。とっとと食おうぜ」
明るく笑って、いつもの指定席に腰を下ろす。
「はいよ、おまたせ」
そうこうしているうちに、たっぷり炊いた白飯を抱えた庵奈と、味噌汁の鍋を持った庵樹里華が姿を現した。
弟子と弟は、互いに非友好的な視線を交わしあいながらも、ひとまず休戦してそれぞれ卓に着く。
全員の茶碗と汁物が揃ったところで、騒々しい食事が開始された。
黙々と飯を口に運ぶ弟子の姿を見やり、遊庵は初めてこの子供と出会ったときのことを思い出す。
『お前……強くなりてえのか?』
そう言った遊庵の腕に、必死に食らいついてきた。
雨の中。
気力も体力もとうに限界を迎えていた小さな体で、生きるための術を懸命に捜し求めていた、幼い子供。
今はもう、手足もだいぶ伸びて、力もずいぶん強くなった。
けれど、まだ。
足りない。何もかも。
まだ何も、伝えることができていない。
そのもどかしさ。
(ケイコク……)
『オレが強くしてやろうか?』
――――強くなれ。誰よりも。
何物も奪われないように、何者も失わないように。
守りきるだけの力を、手に入れろ。
だから……
『ねぇ、何で?』
――――知りたかったら、自分で見つけな。その答えを。
−fin−
執筆日:‘05年2月4日
とりあえず、これだけは言わせろ。
庵一族、多すぎ!!
ええい。やかましい。
私は三人以上のキャラを同時に書くと、頭がパンクするんだよ(知ったことか)
ついでに言うと、庵さん宅の構造がよくわかりません。
見取り図でもあればなぁ…(無茶言うな)
UPしておきながらこんなことを言うのはアレですが、書かないほうがよかったかもしれない。この師匠Ver
読む人の想像に任せたほうがよかったやも、と(−−;
どーもすみません;
師匠の心は、ちゃんと弟子に伝わっているんですけどね。青藍の解釈では。
ほたちゃん、これでもしっかり師匠に懐いてるし、庵家に馴染んでます。
前頁のほたるVerでも、そう書いてるし。
ただ本人にその自覚がないだけ。
師匠、報われているんだか、いないんだか……;
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