一時停止
世界が止まった。
その一瞬。
思考も呼吸も、鼓動さえも止まった、その一時(ひととき)。
紅に、貫かれた。
「……鬼目の狂?」
「あん?」
向けられた視線。紅い視線。
停止。停滞。凍りついた時間。
何もできない。何も動かない。
「……」
「なんだ?」
「……」
「おい。オレ様の質問に答えられねぇのか?」
「……」
瞬きすらできず、その紅を。
その紅い輝きを、凝視する。
……知っている。
ぶっきらぼうな口調は、似ても似つかないけれど。
この紅は、まさしく。
――――あの王と、同じもの。
(……先代、紅の王)
たった一度の邂逅を、思い出す。
圧倒的な力の前に、屈辱を感じることすらできないほど完璧に叩き潰された。
そして。
「外を見ておいで」と言った。
何か妙なことを、柔らかい物腰で言った。
あの人と同じ眼が、ここにある。
……びっくり、した。
うわさには聞いていたけれど。
本当に、あれと同じものがこの世にあるだなんて。
『螢惑』
『見てきておくれ。あの子を』
(…………)
ふと、口元がほころぶ。
自分でも気づかぬほど淡く、ほんのりと、笑みが。
(……見たよ)
(見たよ。先代)
あなたと同じ紅を。
焼き付けて、射抜かれて、奪われた。
(うん。そっくり)
(吐き気がするほど)
(同じだよ。何もかも)
心の奥底に隠してあった何かを、すっかり持っていかれてしまったところまで。
(おんなじ、だね)
固まった足を、動かす。
さくりと、草が鳴る。
緩やかな、胎動。
(……王)
瞑目する。
あの人が、自分に何を望んでいたのかなんて、知らない。
知る必要もない。
でも、この紅を目にすることができたのは、悪くない。
「ねぇ。あんた、鬼目の狂だよね?」
男は、不審な眼差しで、その紅い瞳で、こちらをねめつけた。
「てめえは?」
「オレ?オレはねぇ……」
世界が動き始める。
−fin−
執筆日:‘04年10月30日
ひ、一目惚れーーーーーー!?(−−;
狂ほたと言いたいところですが、たぶん王ほた要素のほうが強いです。
……何故そんなマイナーと王道の中間のような微妙なところに入りこむのか;
SSというより短文。
手法はそれぞれのイメージで変えていくでしょうが、長さはこんなもんでさっくりと終わらせていく所存。
しつこくはせず、さっくりと(意味不明)
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