2006/8/3

有働


「おいこら有働ッ!寮に女の子連れてきたそうやないか!!」
よく響く寮の風呂場で先輩が怒鳴った。
「ちゃいますよ!オレ、つけられたんです、尾行されたんです」
「寮は女人禁制や!そこへ正座しろッ!」
先輩はオレの話なんかハナから聞く耳もたずに大声で説教をはじめた。
まわりの先輩らも「またヤツのヒガミがはじまった」
と言いながらニヤニヤ浴槽の中で見てる。
寮では先輩が絶対的な神様で、下級生の下には地面しかない。
たった1〜2年の違いで、それぐらいの差があるんや、
とくに体育会系は。
(先生となんか「10歳上」の「先生」やのに、ほとんど対等やんか)

オレは真っ裸のまま正座して、耳にビンビン響く理不尽な説教に
ひたすら耐えるしかなかった。
2006/8/4

稲嶺


教授は何もかも完璧でスマートで隙がないと思っていたけど、
ずっと付き合ってる中で、そうでないところも実はあった。

たとえば、料理をはじめとする家事関係がまったく出来ひんかった。
オレみたいに大雑把で出来ひんというよりは
「やったことがない」が正しくて
大金持ちの家に生まれて、お手伝いさんが
すべて世話してくれるもんやから当然や。
一度二人でなにか作ってみようと試しみたけど、
高級な食材が食べる前に
生ゴミみたいになって、二人で大笑いしたことがある。
マンションには、いつも影武者みたいなお手伝いさんが出入りしていて、
ベットルームでナニなことをしている時に台所やリビングで気配を感じて
落ち着かへんことも多々あったけど、教授はそれが普通みたいやった。

それから一番驚いたのが、足が多い系の虫が苦手ということや。
オレのボロアパート(虫屋敷)で抱き合ってキスをしようとしたら、
教授とオレの顔の間に、小さな蜘蛛が天井から降りてきて、
「ッ!!!」
教授は声にならへん声を発し、顔面蒼白で後ずさり壁に張り付いた。
「よ・・・・用事を思い出したから、今日は失礼するよ」
とあくまでも冷静を装っていたけど、同じ方向の手と足を出して
ギクシャク帰って行く教授の姿には、ちょっと笑ってしもた。
それからしばらくは教授、オレのアパートは避けてたもんなぁ。


ちなみに有働は田舎の子やから昆虫は友達で、部活中にとった
セミやカナブンをオレのいる資料室に自慢げに見せに来る。
(お前は猫か!)
2006/8/7

稲嶺


有働を見ていたら、
暴走しかける強い性欲と必至で戦っていて面白い。

健気で可愛いな、とも思う。
2006/8/8

有働姉ちゃんズ


「みっつ目の通りにあるポストをお箸を持つ方向に曲がるんやで」
「ふん」
「その先の信号のボタン押せる?」
「ふん」
「赤信号は?」
「とまる」
「お箸を持つ手は?」
「こっち」
小さな右手をワキワキさせた。
「黄色信号は?」
「はしらないでとまる」
「大丈夫?一人で行ける?」
「ふん」

力強く頷いて、ゆうちゃんは一度も振り向かずテクテク歩いて行った。

来年から小学生のゆうちゃん。
小学校が家から遠かったから、予行練習のためにその近くに住む親戚宅へおつかいに行かせた。
心配で姉妹全員がコッソリ後を追う。

ゆうちゃんは途中で虫をつかまえることに夢中になったり
田んぼのカエルをしゃがんで観察しながら、
ゆっくりではあるけど進んで行った。
住宅街に入ったところで吠える犬が怖くて、
その家の手前を行ったり来たり。
思い切ってタッと走って犬をやりすごした途端、つまずいてこけた。
うちらの前では絶対泣くのに、傷口にツバをつけながら
涙をグッと堪えて立ち上がり、一人黙々と歩いて行く。

一時間かけて、やっと小学校の前を通過。
やったね、ゆうちゃん!

その健気な小さい背中に涙が出た。
2006/8/13

有働


外での先生は背筋がピンと伸びて綺麗な姿勢やのに
家ではなんでこうなるんや!

騙されてる!絶対にみんな騙されてる!!
2006/8/17

有働


「ええか、有働雄哉!いくらお前が
 ラグビーの特待で入ったて言うたかて下級生は下級生や!」

先輩の第一声がこれやった。

「この先、お前がどんなすごい成績上げようが、
 オレら先輩の言うことは絶対やど!」
「は・・・・はい・・・・・!」

中学の時はオレらがラグビー部をつくったから
上に先輩はおらへんかったし、下級生とも友達みたいやった。
それが、高校に入った途端イキナリこれや。

「オレらがカラスは白いて言うたらッ?!」
「はい!白です!」

これが噂に聞く体育会系の上下関係かと正直慄いた。
やっていけるかなぁ、オレ・・・・。
2006/8/18

ラグビー部先輩


そもそもオレらは有働雄哉が入部してくることに歓迎はしてへんかった。
それで花園が近くなるにしても。

中学時代からマスコミに天才扱いされ、女の子にチヤホヤされて、
オレらが必死になって勝ち取ったレギュラーをはじめから約束されてる一年。
すべてがおもしろくないから、
「入部初日からしごいたろ!」
と皆で話し合ってたんや。(女々しいな、オレら)

初日はそれなりにビビらせたと思う。
上下関係の厳しさに戸惑ってたから。

しかし、ヤツはオレらより上手(うわて)やった。

次の日から
[オレ、な〜んもわからへんから一から教えてください攻撃]
がはじまったからや。
ヤツはなんでもかんでも「先輩先輩」と質問責めする。
人間の心情として頼られ、質問されると
「もう、しゃ〜ないなぁ」
と言いながらも悪い気はせぇへん。
しまいには相手を可愛いとまで思う。
そうやって一人、また一人と有働雄哉に籠絡されていった。
2006/8/23

山沖


髪の毛一本まで、私のものだ
2006/8/24

稲嶺


体育準備室に入ってきた有働は、少し青ざめてた。

「先生・・・いま先輩から聞いた話やけど、
精液の量って決まってるんやって!」
「はぁ?」
また上級生からロクでもないこと教わってる。
「でな、打ち止めの瞬間、先っちょから精液のかわりに白い粉がプシュッと噴出して仁丹ぐらいの赤い玉がコンコロコ〜ンって出てきて・・・・」
「小さい文字で おわり って書いてあるんやろ?」
「え!先生も知ってたんか!」
知ってるもなにも、そんな昔流行った低俗な伝説・・・・。
「オレ、毎晩やりまくってるからすぐなくなるかも・・・・どうしよう」
有働があまりに素直に伝説を受け入れてるから
「そういえば昨日、有働が帰ったあとベットに赤い玉が落ちてたで」
ちょっと脅してやろうとしたら
「うそ!オレ今朝も出たで?それ、先生のとちゃうか?」
十代の性欲の凄まじさに、オレは負けた・・・・。


*当然ですが事実ではりません
2006/8/28

有働家長女


うわぁぁぁぁん!とゆうちゃんは大泣きして、足を踏ん張って抵抗する。
「あかんえ、ゆうちゃんお熱あるでしょ!
 ちょっとチクッってするぐらいやから、な?」
ゆうちゃんは必死で首を振って、病院の廊下で地団駄を踏んだ。

「あ、ゆうちゃん、飴ちゃん好きやろ?」
同じ目線になるようにしゃがんで聞いたら
ゆうちゃんはしゃくりあげながらも、しっかり頷いた。
「ほら、お姉ちゃんのポケットに飴ちゃん入ってる。
 ゆうちゃんがおりこうさんにしてたら、これ舐めてええよ」
飴を渡すと、小さい手でギュッと握り、
やっぱりワンワン泣きながらも大人しく診察室に入ってくれた。

ちょろい!