2006/11/1

有働


もうアカン。
もう無理や。
一歩も前へ進めへん。
汗が目に入って涙に変わる。

今日、クラスメートは恋人と映画やて言うてた。
家族で温泉へ行くヤツもいる。
オレは休日なんて関係なく朝から晩まで練習練習。
体のいたるところがギシギシ痛むし、声はかすれてもう出ぇへん。

なにしてるんやろう、オレ・・・・・。
オレかて普通の高校生みたいに遊びたいし、なにより恋人に会いたい。
練習が終わって飯も食わんと走って会いに行っても一時間で門限や。

くそッ!!
もういやや!!
こんな地味なことばっかりやってられっか!

そう心で叫んで、汗(涙)をぬぐい前方を睨んだ。
震える足を一歩前へ出してみる。
それからボールに向かって、オレはまた走り出すんや。

2006/11/2

有働


でも先生はいつもこう言う。
「ほんまに疲れたら休んだらええやん」
競馬新聞に視線を落としながら。

「看脚下って言うてな、やみくもに進むだけと違ごて
 一歩踏み出すには一旦止まって足元を見ることも必要なんやで。
 玄関で靴を揃えるのは次の行動のためでもあるんやからな」
先生は新聞に赤い線を引きながら言うた。
2006/11/6

稲嶺


学生ラグビーの見所は、ここぞという試合前の男泣きや。
ロッカールームで円陣を組み大声で気合を入れると
気持ちが高ぶるのか選手はボロボロ泣いてグラウンドに出てくる。
試合前にあんなけ選手が泣くスポーツって他にあるやろか。

うちのラグビー部も皆感極まって泣いて登場する。
でも不思議なことに有働が泣いてるのを見たことがない。
涙腺でさえ早漏の男やのに。

部員が泣いてる中で、有働だけ何を話すわけでもなく何を聞くわけでもなく
感情の読み取れへん端正な顔で真っ直ぐゴールを見つめてる。
やっぱりラグビーをしている時の有働には何かがとりついてる。
普段と別人や。
2006/11/12

稲嶺


・・・・・・・・・・・・・・うん。

別に言葉としては間違ってへんし、意味も通じる。
・・・・・・・・・。

ただ、ここで一番問題なんは、有働がこれを
ギャグで言うてるんか本気で言うてるんかってことや。
2006/11/13

稲嶺


有働が相手選手の胸倉を掴もうとした。
スタンドがざわめき、慌ててメンバーがユニフォームを掴んで押さえにかかる。

珍しく有働がキレた。

試合がはじまってからずっと、審判に見えへんように有働へ反則行為が行われていたし、
審判に聞こえへんように有働へ暴言を吐いていた選手(何人もいる)に、ついに有働がキレたんや。

オレも熱くなってプロレス観戦のように
「有働!いてかましてまえ〜ッ!!!!!」
と、ついつい教師である立場を忘れてこぶしを振り上げたけど、そこは紳士のスポーツ。
飛びかかろうとする有働の前に先輩選手が何人も重なって止め、落ち着かせていた。

オレからしたら物足りひんかったけど(野球でも乱闘大好きや)
有働は審判にきちんと詫び、試合が再開された。
それからルールに則って、相手をボッコボコにした有働。

しかし、あの穏やかな有働でもキレるときがあるんや、と妙な感動があったけど、
本気で有働がキレて手をあげられたら、オレなんかひとたまりもないんやろな、と少しビビッた。
2006/11/17

有働家次女


「雄哉くんの運動神経はずば抜けています。
 いまから何かスポーツさせた方がいいですよ」

幼稚園の先生にそう言われて、ゆうちゃんの身体づくりをはじめ、
スポーツも一通りやらせた。
そしてやっぱり何をやっても抜きん出た抜群の運動神経で、
「ゆうちゃん天才かも!」
と、うちらは有頂天やった。
(水泳だけはアカンかったけど)

でも、ゆうちゃんは最終的にラグビーを選んだ。

ラグビーって日本ではお世辞にも人気スポーツやない。
(フランスではサッカーと同じぐらい人気らしいけど)
それになんて言うも、野蛮で危険や!
将来ゆうちゃんには野球やサッカーなどの人気スポーツで
巨額の年俸をもらって華々しく安定した生活を、と願ってたのに。

ゆうちゃんの将来のためにも、ラグビーを続けることを姉妹で反対し続け
今度行われる、はじめての試合で負けたらやめると渋々約束させた。



はじめての試合はボロ負けやった。
そら、きちんとした施設や、監督がいるわけでもない、
公園でたまに来る妹(四女)の彼氏に教わるぐらいなんやから。
ラグビーボールかて、たくさんないから、サッカーボール代用やもん。


ノーサイドの笛と同時に、満身創痍のゆうちゃんは泣き崩れる。
普段からよく泣く子やから珍しいことではないけど、
それは、見たことのない姿やった。

声を押し殺して泣いている。震えて静かに、激しく。
その姿に、負けて嬉しいハズやのに、胸が切なくなった。


ゆうちゃん、ゆうちゃん。

ラグビー、続けたい?
2006/11/20



「か・・・・帰らんでええん?」
「ん〜・・・もうちょっと・・・・門限ギリギリまで」
「遅れたら、また寮母さんに怒られるで」
「大丈夫、先生が切り開いた道があるから」

(※窓から入ること)
2006/11/25

先輩と後輩1


休憩時間
2006/11/29

有働


挿入するときは、やっぱりどうしても痛いみたいで
先生は反射的に押し返そうとする。

でもオレに「押したら引く」という文字はない。
「押したら押す」のみや。

と・・・とりあえず、ごめん、先生。