2008/1/17

稲嶺


「あいつに今この瞬間トライさせるためなら、死ねると思うときがある」

以前、真顔で有働がとんでもないことを言うた。
オレはどんな愛の言葉よりも勝てへんと、ショックを受ける。

知れば知るほど、ラグビーって究極のチームスポーツやと思う。
希薄な人間関係のこの世の中で、なんの躊躇もなく「自己犠牲」的な言葉を
ラガーマンはよく口にする。
生身のカラダはってぶつかって行ってるんやから、
あいつらとにかく絆が強くて気持ちが熱い。

そんなヤツらが、羨ましい。
2008/1/20

有働


わっ

わっっ

わっっっ
2008/1/21

有働


「8番、出血!」

レフリーが笛を吹いた。

ラグビーでは出血している選手は試合に加われず
血が止まるまで一時退場せなアカンルールや。
(ワールドカップである国の主将なんか、試合中まぶたを切って、
 その場で縫い、すぐに試合に出てきた…すごい)

腕から出血した有働はトボトボベンチに向かう。
さっきまであんなにイキイキと元気良くプレイしてたのに
血が出た途端…ていうか、血が出てるとレフリーに言われた瞬間
イキナリ力なくしょんぼりした。

もともと男は痛みや血に弱いとはいえ、そのギャップが妙に可愛い。
2008/1/28

有働


「ゆうちゃん、ちょっとそこのリップとって!」
「お姉ちゃんの分の牛乳もちょうだい〜!」

実家の朝はパンとか味噌汁のにおいではなくて
化粧とか整髪料とか香水の匂いで充満していた。
そしてオレは毎朝、パシリやった。
化粧とか髪を整えるのに手が離せへんから
あれを取れこれを取れと四方から声がかかる。

…どんなに忙しくても化粧とか髪をいじる時間はあるんや。

「そんな顔や髪をいじくり倒しても大して変わらんのに…」
とか言おうものなら、四方からピーチクパーチク
凄まじい口の攻撃があるのはわかってるから
大人しく指示されるものを取って渡す。

「ゆうくん、そこのゴム取って」
「これ?」
「うん、ありがと」

絹みたいな髪をしなやかな手つきで結う。
幼い頃から髪をお互い結うのを見ては、
あんな複雑な髪型が短時間で綺麗に仕上がるのが不思議やった。
オレみたいなぶっとい指では無理や。

あんまり見てると
「ゆうちゃんもやってほしい?」
って言われるから、今日も大人しく指示されるものを取って渡す。