呟き日記 4月

青虫



有働雄哉




まだまだ青虫やけど、
いつかはきっと蝶々に。


      


タンポポ



有働雄哉



いつもグランドで踏みつけられてるタンポポが春になって花を咲かせた。
偉いなぁ、タンポポ。
強いなぁ、タンポポ。

このままここにいると、せっかく咲いた花ごと踏みつぶされるから
根っこから移動させようとしたら、
「タンポポの根っこはゴボウみたいに長くて抜くのは無理や。
 無理やり抜いたら茎から抜けてすぐしおれる。やめとけ」
先輩が教えてくれた。

そうか、タンポポはどんなに踏まれても、根っこがどっこい生きてるのか。

ブラック有働


有働雄哉



「穏やか」とか「優しい」とかよく言われるけど、
オレの中に世間の評価と正反対のオレがいて、
カッとしたらなにするかわからへんから怖い。
力まかせに何度も先生に酷いことした。
オレのそういう面を一番見られたくない人やのに・・・・・。

でも、先生は全然根に持たずに、乱暴なオレのことを
「ブラック有働」
と面白がって呼ぶ。






兄貴




稲嶺智晴

「ハルちゃん、生きてるか?」
二番目の兄貴からの電話はいつもこの言葉からはじまる。

「相変わらずファーストフードばっかり食ってるんやろ。部屋もグッチャグチャやろなぁ」
一ヶ月に一度の割合で、こういった生存確認の電話がある。
末っ子のオレは、とことん信用がないらしい。
「最近はマシな生活してるで。人間健康第一や、うん」
「ほんまかいや〜」
まったく信じてへん言い方。
「あんなぁ、いよいよ生活しんどなったら、いつでもオレんち来いや。養ったるし」
兄貴の太い、でも優しい声。
「いつまでもそんなこと言うから、同棲してる彼女にブラコンて罵られるんやで。知ってるか?オレ、26歳、高校教師!」
大丈夫やから、もうほっといて、と冷たく言い放った。

こんなブラコンの兄貴も、子供の頃はオレのヒーローやった。
なんせ少年野球ではエースの四番やったんや。投げても打っても、すごくすごくカッコ良かった!
なんでも兄貴の真似したがるオレは、無理言うて同じチームに入れてもろたぐらいやった。
(でも、どうも集団でやるスポーツには向いてへんみたいで、すぐにやめたけど)

兄貴はエースのまま甲子園で活躍して将来を期待されてたのに、肩を悪くしてプロ野球の道はそこで途絶えた。
いまは小さいスポーツショップの店長をしてる。


「あ、教師で思い出したけど、さっきうちの店に、ほら、正月テレビでみたハルちゃんのクラスの、えっとラグビーの・・・・・」
オレはドキリとした。
「う、有働雄哉?」
「ああ、そのごっついのがラグビーシューズ買いに来た」
ぅわちゃぁ・・・・・・・!
「・・・・で・・・で?まさか・・・・・」
「うん、レジでお釣渡すときに、実はオレ、君の担任、稲嶺センセーのニーチャンや、言うといた」
うわぁぁぁぁぁッ!なんちゅうことを!
「ななななんか言うてた?」
「ああ、確かに素朴な感じのシャイな子やな。いきなり赤面して、どうも・・・・て呟いて、そそくさ出て行った」
・・・・・・ああ・・・・・もう・・・・・
今頃あわててオレの家に向かってる有働の姿が目に浮かぶ・・・・。

桜のキス



有働雄哉

もう眠くて眠くて仕方がない。
春は(訂正:年中)なんでこんなに眠いんや。
ちょっと時間があったら、どこでもすぐに寝てしまう。

部活の30分休憩のとき、あくびをしながらひと気のない桜の下へ行って、本格的に昼寝の体勢に入った。
眠りに落ちる一番気持ちがいい瞬間、ちょっと風がふいたかな、と思ったら、唇にやわらかいものが触れた。
「・・・・?」
目を開けると、先生のアップ。
「わっ、起きてたんか」
先生は頬を桜色に染めてオレから離れようとしたけど、すかさず肩をつかんで引き寄せた。
「もっとチュウして」
「いやや、服が泥だらけになる」
とか言いながら、のしっと俺の上に乗ってきた。
「先生、オレのこと好き?」
「さぁ・・・・」
やわらかい唇が降りてくる。

オレ有働雄哉16歳!青春真っ盛り!ごっつ幸せ!