main

やさしいひと


「で、どうすればいいんだ」
「どうって…ええと」
そんな真面目腐った顔で言われると僕の方が困るんだけどなあ。
心の中でそう呟きながら、僕は天を仰いだ。




そもそもは予定外だった。
オルガの娘を助けて雷電とローズに預ける、というのが最初の予定だ。
それがどう転がったかこんなことになっている。
きっと彼にも理由があるのだろう。そう思いはするが、こんな生活感のない男所帯に少女を置く方が怪訝しいに決まってる。
ただ、それでも僕は少し楽観的だった。
僕の相棒は日常生活するために必要な能力がちゃんと備わっている。家事なんて出来たこともない僕にしてみれば尊敬の眼差しを向けるのもおこがましいぐらいだ。尤も、彼に言わせると僕の方がある意味尊敬に値するらしいが。
だから彼に任せさえすればオールグリーンだ、と僕は思っていたのだ。
良く考えてみれば子供なんて育てたことなどないと気付けたのに。




「こういう時はベッドへ運ぶべきなのか?それともこのまま動かさないようにしていればいいのか?」
床に座り込んだスネークの足を枕にして、サニーはぐっすりと眠っている。
空港からセーフハウスまではこれでもかというぐらい緊張状態を保ち続けていたのだが、スネークがドアを開けてこのリビングに通した途端糸が切れたように眠ってしまった。
その時スネークはまるで執事のようにサニーを横にした為、きっと子供の扱いに慣れているのだと勘違いをした。
それが戸惑いの中で必死になった結果だと、今は気付いているけど。




「どうなんだろ。でもサニーは良く寝てるし、君なら彼女は軽く持ち運べるはずだし」
まだ口に出し慣れない名前を発しながら僕も考える。お互い、この状況に対する対応法はアンノウンだ。
「持ち運ぶって、どうしてお前は物みたいに言うんだ」
「しょうがないだろ、これでも僕だって頑張ってるんだよ」
「それならこのお嬢様の居場所に最適な場所を算出してくれ」
「君の方が物扱いしてるじゃないか!」
いつものように言った冗談が少し大声になったようで、スネークが少し眉間に皺を寄せた。
照れ隠しの咳を一つして僕は続ける。
「やっぱりここはベッドに入れさせてあげるべきじゃない?」
「だがこの季節毛布が温まるのは遅い。このまま入れたら寒さで眼を覚ますんじゃないか?」
「だからと言ってずっと君の膝枕って訳にもいかないだろ?なんなら君が添い寝すればいい」
「それじゃあ今と変わらないじゃないか、オタコン」
真面目な顔でそう答えるスネークを見て僕は頬が思わず緩んでしまった。
伝説の傭兵も少女の前ではただの優しい男だ。
「こら、笑うな。今俺に対して失礼なことを考えただろ」
「失礼じゃないって。むしろ好印象だよ」
「嘘つけ、その顔は絶対面白がってる顔だぞ」
「ほらほら、お姫様が起きちゃうよ?」
僕が笑いながら自室に戻ろうとすると後ろからスネークの文句が飛んでくる。
それにわざと答えないで僕はスネークの死角にあるデスクに座る。聴き耳を立ててみると、溜息をつきながら体をゆっくりと動かす気配がする。どうやら添い寝コースに決定されたようだ。
本当、君は優しいんだから。
僕は二人の姿を脳裏に描きながら、次の作戦への計画を練る作業へと戻った。