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だから僕らは恋をした


ゆっくりと眼を開く。
視界に映るのは少し黒ずんだ天井だけだ。前の住人がベッドの上で火遊びでもしたんだろう、多分。
眼を完全に開ききると、今度は周囲を手探る。
隣のスネークはいつも通り居ない。体温すら残っていないところを見ると、どうやら今日もオタコンは寝坊したらしい。そう思って首を捻りデジタル時計を見れば、朝食にも昼食にも微妙な時間を示していた。
寝る前に朝放送するアニメの録画をしておいて正解だった、と彼は一息つく。
一連の動作の後に漸く体を起こすと、そこには異国情緒溢れる光景が広がっていた。




こういう部屋には所謂苦学生が住むものらしい、とスネークは言っていた。こんな風に部屋が幾つもあるところではなく、一部屋だけの家に住む者も居るらしいと信じられない風に言っていた。
ジャパニメーションなら雑食的に観るオタコンにしてみれば、そういう風景はよく見ている方である。多数の美少女と恋愛するアニメの主人公は大体こういう部屋に住んでいる気がするなあ、とオタコンが言うとスネークは呆れたような眼で見ていたのを覚えている。
但しそこはやはりSeeing is Believing。実際住んでみると驚くほど狭い。おまけに天井だって低い。
ずっと憧れていた布団は、一日でベッドのスプリングを懐かしむぐらいの硬さで、次の日には二人一致で手頃なベッドを買うことを決意させたぐらいだ。


コーヒーの匂いに魅かれて部屋を出ると、朝食の様な昼食の様な食事の用意はほとんど整っていた。
そしてどうやらオタコンを待っていてくれたらしいスネークは、マグを傾けながらバラエティテイストのニュース番組を観ていた。

「随分遅いお目覚めで、お姫様?」
「そりゃあ王子様のキス無しで起きたんだもの。お姫様ってのはそんなに強くないんだよ」

そう答えてマグを口元から退かし、少し濡れた唇をゆっくりと重ねる。
煙草の味がしなかったので、オタコンはちょっと機嫌が良くなった。

「しかしオタコン。お前の録っていたアニメ、あれは子供向けじゃないのか?どう見ても小学生か中学生の女の子が魔法みたいなので戦闘していたぞ」
「そうさスネーク。でもあれは僕のような大人が観たって楽しむことが出来るのさ。所謂大きいお友達向けってやつ」
「何だそれは」
「君が萌えを理解できるようになったら分かるよ、きっとね」

駄目だこいつは―――という顔をしたスネークを見て、オタコンは楽しそうに笑った。
食器の立てる音と愛する人の生きる音だけで満ちる朝の、何と幸せなことか。