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Boys be Dangerous 〜あるいは、ある種の変身願望〜

和田敏夫さまから頂きました。ありがとうございマッスル!


 JBA第6研究所。

 チームガッツの面々が集まり、何やら言い合いをしている。

 そこへ鼻歌を歌いながらDr.タマノ登場。険悪な雰囲気に気付いて、

Dr.タマノ:「…ど、どうしたの、君達?」

ガンマ:「ちょっとな。大人には関係あらへん」

 ガンマに冷たくあしらわれ、部屋の隅っこで泣きくずれるDr.タマノ。

タマゴ:(非難するように)「ガンマ〜」

ガンマ:「何や?文句あるなら、お前が説明せえ!」

サラー:(Dr.に向かって)「あの、別に説明するほどのことじゃ…」

タマゴ:「いいじゃないか、Dr.に聞いてみようぜ」

猫丸 :「それがいいニャ!」

 ビリー、何か言おうとするが、その前に

タマゴ:「Dr.、オレ達の中で、誰が一番美人だと思う?」

Dr.タマノ:(しばらくぽかんとしてから)「…は?」

ガンマ:(タマゴの口を塞いで)「そんなんで解るかい、アホ!
 ワイらが女の格好したら、誰が一番似合うか言うてたんや!」

 Dr.タマノ、ますます混乱するが、どうにか立ち直って

Dr.タマノ:「…それがケンカの原因? 何でそういう話になったの?」

サラー:「いえ、ケンカしてた訳じゃないんですけど…、さっきTVを観てたら、
 お笑いタレントが女装していたんです。それがすごく似合っててきれいで。」

Dr.タマノ:「?それで?」

猫丸 :「きっと、かっこ悪い男の方が、お化粧したら美人になるのニャ。
 キムタクやソリマチが女装しても、あんまり似合わニャいと思うのニャ」

タマゴ:「…って、ネコ丸が言うもんだから、ガンマが怒っちゃって」

Dr.タマノ:(首を傾げて)「何でガンマ君が怒るの?」

タマゴ:「実はこの前、オレとガンマが女装したんだ。その時、服を貸してくれた女の子が
 『似合うわ〜』って、ガンマのこと誉めてくれたんだけど、ガンマ、そのこと気にしてるみたいで」

ガンマ:「当たり前や! そんな誉め方されても、全然うれしないわい!」

ビリー:(ボソリと)「ただのお世辞だろう」

ガンマ:「何やて?!」

Dr.タマノ:「まあまあ。…それで、誰が一番女装が似合うか ― つまり、誰が一番
 かっこよくないか、って話になったんだね?」

サラー:「そうです」

Dr.タマノ:「う〜ん、でも、かっこよくない男=女装が似合うって訳でもないような…。
 今の歌手は、男か女かよく分からない格好してても人気あるでしょ?」

タマゴ:「そーだよね。オレも、ガンマよりサラーの方がスカート似合うと思う」

 顔を引きつらせ、硬直するサラー。何故か、ガンマもムスッとしている。

猫丸 :「ガンマは人相が悪いから、どんなカッコしても駄目ニャ」

 ぷちっ。 ガンマが切れる。

 その手には、溶接用バーナーが。

 危うく流血沙汰になるところを、タマゴとビリーが、羽交い締めにして取り押さえる。

Dr.タマノ:(汗を拭きながら)「いや、まあ、その…。君達はまだ子供なんだし、そんな
 大騒ぎするほどのことでもないんじゃないかな〜…なんて」

サラー:「でも、ボクはいやです。女装が似合うなんて」

Dr.タマノ:「顔が綺麗なのは恥ずかしいことじゃないよ、サラー君。大体、『女みたい』
 って言われて怒ってたら、女の子に失礼だろ?」

サラー:「そ、それは…確かに」

ビリー:「色々と言語規制が厳しいご時勢だから、特にな」

ガンマ:「…お前、言うことジジむさいで」

サラー:「人のこと言えないだろ、ガンマ」

Dr.タマノ:(再び険悪な空気に戻るのを察して)「さ、練習だ、練習。大会も近いことだし、
 雑談はこのくらいにして、練習しよう」

 そこへ、所内LANで通信が入る。

所員:“Dr.、本部から来週の所長総会についての通知です。今、そちらに転送します”

Dr.タマノ:「ああ、ごくろうさん」

 メールが転送されてくる。

Dr.タマノ:「何なに、会場変更? ふーん、大ホールは子供服のモデルオーディションに
 使うことになったのか。参加者一般公募…ねえ」

タマゴ:「オーディション?」

サラー:「モデルを決める試験みたいなものだよ」

ビリー:「どうして、そんなものがJBAの総会と一緒に開催されるんだ?」

Dr.タマノ:「JBAのスポンサーには、おもちゃや子供服関係の企業が多いから」

ガンマ:「あー、そんで表向きはビーダマンの研究をして、裏でこっそり、アヤシげな
 コンピュータやらロボットやらを造っとんのか」

Dr.タマノ:「ぐぅっ!何てこと言うんだ! 我々の本業は、あくまでもビーダマンの開発だっっっ!!!」

ガンマ:「ま、そういうことにしとこ」

猫丸 :「むずかしいことは分からないけど、オーディションは面白そうだニャ!」

タマゴ:(目をビー玉にして)「合格したら何かおいしいもの、食べられる?」

Dr.タマノ:「一応、パーティがあるはずだけど…」

タマゴ:「本当?やったあ!」

猫丸 :「連れてってほしいのニャー!!」

Dr.タマノ:「…あのね、君達、このオーディションは女の子しか募集してないんだよ」

タマゴ:「え〜?!」

猫丸 :「つまんニャいニャ!」

Dr.タマノ:「ま、見学するだけなら何とか…」

ガンマ:「それや!」

一同 :「え?」

ガンマ:「ワイらが女として、そのオーディションに出るんや。
 そしたら、誰が一番女装が似合うか、はっきりするで」

ビリー:「おい…、何もそこまでしなくていいだろう」

ガンマ:「いーや、三流お笑い芸人と同じ扱いされて、このまま黙って引き下がれるかい!
 あんな連中のギャグより、ワイのが絶対おもろいで」

ビリー:「論点がズレてるぞ」

ガンマ:「いちいち細かいやっちゃな! サラー、お前はどうなんや?
 いつまでも、『女みたいな顔』言われたことにこだわってるつもりか?」

Dr.タマノ:「ガンマ君、人の心の傷を…」

サラー:「いえ、いいんです。ガンマの言う通りだ。…いつまでも過去から逃げてちゃダメなんだ。
 伊集院とも解り合えた今、ボクに必要なのは、真実を受け入れること。
 ガンマ、ボクは参加するよ」

 敢然と眉を上げて決意するサラー。その姿に打たれて、

タマゴ:「オレも!」

猫丸 :「オレもニャ!」

Dr.タマノ:「わーっ!!何でそうなるの〜?君達は間違ってる!」

ビリー:「同感だ。おれは降りるぜ」

ガンマ:「シラけたやっちゃ。情けないで、ビリー」

ビリー:「何?」

ガンマ:「確かに、いつもキザにスカしたお前には、そんな勇気はあらへんやろな。
 ま、ワイらが花も恥じらう美少女に変身するのを、指くわえて見とるとええわ」

 ビリー、無言で唇をかみしめる。

Dr.タマノ:「ビッ、ビリー君、あんな挑発に乗っちゃ駄目だからねっ!」

ビリー:「分かってる」

猫丸 :「え〜?ビリー出ないニョ?せっかくビリーの顔がしっかり見られると思ったのに、残念だニャア」

タマゴ:「ネコ丸、ビリーの顔、いつも見てるだろ?」

猫丸 :「帽子に隠れて、半分しか見えニャいのニャ」

サラー:「そう言えば、ボクもビリーの帽子を取ったところって見たことないな」

タマゴ:「オレはあるけど…」

猫丸 :「ニャ!どんニャだった?ハゲあったニャ?」

サラー:「ハゲ?」

猫丸 :「昔から、帽子を取らないヤツはハゲだと決まってるニャ!」

サラー:「へえ、そうなんだ。ボクの国じゃ、布をかぶるのが当たり前だけど、日本人は違うんだね」

Dr.タマノ:「ちがーう!!ネコ丸君、ウソ教えるんじゃない!!」

タマゴ:「でも、うちの玉四も『そろそろ帽子でもかぶろうか』って言ってたけど…」

Dr.タマノ:「アデ●ンスじゃあるまいし!帽子でごまかせるのは、おでこと絶壁くらいだ」

ビリー:(おもむろに)「…いいだろう。その勝負、受けてやる」

Dr.タマノ:「へっ?」

ビリー:「おれを本気にさせたこと、後悔するんじゃねえぜ」

サラー:「ビリー、例えハゲでも絶壁でも、神は平等に慈悲を注いでくださるんだ。」

ビリー:(頬をひきつらせ)「お前、いつか友だちなくすぞ」

ガンマ:(ニヤリと笑って)「これで役者はそろったな。ほなDr.、頼むでー」

Dr.タマノ:(涙を拭きながら)「ムチャクチャだ…これでいいのか、日本の未来?」

 オーディション当日。

 会場は、結構な賑わいを見せている。ほとんどが、いかにも一卵性親子といった風情の、
子供タレントを目指す娘とその母親である。むせ返るほどの華やかさだ。

 その中で異彩を放つ一群。

 小汚い白衣を羽織った、風采の上がらない黒眼鏡の中年男性に引き連れられた彼女達は、
物珍しそうに会場を見回している。

タマゴ:「スゲー!人がいっぱいだ」

猫丸 :「ドキドキするニャ」

ガンマ:「何や、みんな大したことないな」

ビリー:「お前が一番、大したことないぜ」

ガンマ:「お前に言われたないわ!」

 仁王立ちになって睨み合う二人。

サラー:「二人ともやめなよ。女の子なんだから…一応」

 ビリーとガンマ、はっとして身だしなみを整える。

Dr.タマノ:「あの〜。君達…ホントにほんっとーに出る気?」

サラー:「ここまで来たら、いまさら後へは退けないでしょう」

タマゴ:「受付も済ませちゃったしね」

Dr.タマノ:「いや、わたしももう、やめろとは言わないけど…その格好が…ねえ」

猫丸 :「どこかおかしいかニャ?」

 猫丸、ふんわりとしたスカートの裾を持ち上げて尋ねる。

 白い襟とカフスのついた黒いワンピースに、エプロンドレス。ちょうちんになった
肩口の上には装飾過剰なフリルが乗っている。いわゆるメイドスタイルである。

タマゴ:「う〜ん、普通だと思うけど」

 タマゴが、ミミちゃんのリボンを結び直しながら答える。

 今にもおへそが見えそうな程、丈をつめたセーラーの上着が、これでもかと言わんばかりに
短くしたスカートと絶妙なバランスを取っている。膝下を包むのはルーズソックス。
典型的な女子高生ルックである。

サラー:「一番人気のある服装を選んだつもりなんですけど、似合いませんか?」

Dr.タマノ:「いや、似合う似合わないの問題じゃなくて…」

 サラーのタイトスカートに目をやり、溜息をつくDr.タマノ。

 かっちりとしたブレザーの襟元を、大きなネクタイが華やかに飾っている。頭にはスーツと
揃いの小さな帽子。金髪碧眼のサラーが着ると、まさに国際線のスチュワーデスである。

 一体、何を基準に選んだ「人気のある服装」なのか。

Dr.タマノ:「もっと日常的なって言うか、普段着はなかったの?」

ガンマ:「普段着やったら、目立たんやろが」

 ガンマが、ハリセンを鳴らして抗議する。

 紫色のサテンがまぶしいチャイナドレス。大胆に太股の付け根まで入ったスリットからは、
縞しまのトランクスがのぞいている。

 Dr.タマノは目眩を覚えた。

タマゴ:「ガンマ、そのぱんつ何とかしろよ」

サラー:「せめてブリーフにできなかったの?」

ガンマ:「やかましい。このパンツはワイのポリシーや!」

猫丸 :「いばって言うほどのことかニャ!」

Dr.タマノ:「君達は、オーディションというものを勘違いしている!!」

ビリー:「じゃあ、どういうのが正しいオーディションなんだ?周りもみんな、派手に着飾ってるぜ?」

Dr.タマノ:「う…。そ、それは…」

 Dr.、両手に注射器を構えたビリーの異様な迫力に押され、後退る。

 白衣のスカートからのびる足には、ご丁寧にストッキングと白いサンダルが着用されている。
テンガロンハットの替わりに頭にかぶるのは、ナースキャップ。

ガンマ:「凶器を振り回すのはやめんか。はしたないで」

ビリー:「…お前にだけは言われたくないな」

 再び火花を散らす二人。

 セクシースナイパーVS白衣の死神。

Dr.タマノ:(胃を押さえながら)「コスプレ大会じゃないんだってば〜…。
 これじゃあ、イメ●ラ戦隊・チームガッツだよ…」

 JBAの総会が終わる。

 青い顔でよろめきながら、会議室を退出するDr.タマノ。

Dr.古賀 :「だいじょうぶですか、Dr.タマノ?」

Dr.タマノ:「あ、ああ。平気、平気」

Dr.古賀 :「その割には顔色が悪いようですが…」

Dr.タマノ:「なあに、ちょっとした神経性胃炎だよ」

 Dr.古賀にも思うところがあるらしく、しみじみと肯いて

Dr.古賀 :「お互い苦労しますな」

 ひとしきり慰め合う二人。

 同じ頃、タマゴ達のオーディションも終了していた。

Dr.タマノ:「あっちもそろそろ終わってるはずだな。はぁ〜…。一体どうなってることやら。
 …まさかとは思うけど、合格してるんじゃないだろうな。そんなことになったら、どうしよう?!
 何て説明すればいいんだ?」

 不安に駆られ、5人の姿を捜してロビーを歩き回る。

Dr.タマノ:「あ、いたいた。ん?」

 意外なことに、みんなやけにしおらしい。ソファーの一角に神妙な顔で座っている。

Dr.タマノ:「どしたの、君達?…やっぱり駄目だった?」

タマゴ:「あはは…。」

ガンマ:「見事に全員、一次審査で失格や」

Dr.タマノ:「ほっ。あー、よかった」

 ギロッ。5人の視線が激しく突き刺さる。

Dr.タマノ:「うっ。いっいやあ、ホント残念だなあ。君達の参加資格を取るの、大変だったのに。
 関係者に頼んで、書類をデッチ上げたりして」

タマゴ:「合格して、パーティに出たかったのにー」

サラー:「いや、これで良かったんだよ。ボク達、男なんだから」

ガンマ:「けど、せめて誰が一番マシか、はっきりさせたかったな」

ビリー:「ここまでやったんだ。もういいだろう」

 こんな扮装で合格したら大変な騒ぎなのだが、本人達は深刻そのものである。

猫丸 :「ニャー、ミミのうらぎり者ー!」

Dr.タマノ:「あれ、ところで、ミミちゃんは?」

ガンマ:「ああ、あいつは合格や」

Dr.タマノ:「へ?」

タマゴ:「オレ達はみんな落ちちゃったけど、ミミちゃんがあんまりかわいいから、
 モデルになってほしいんだって」

猫丸 :「今、ミミだけ写真撮ってるニャ」

 ホールの中で取材陣のカメラのフラッシュが光っている。

 合格者の女の子達の腕に抱かれて、すまし顔のミミちゃん。

記者A:「大人しいネコちゃんですねー」

司会者:「ええ、全然人見知りしなくて。まれに見る逸材ですよ」

 などと絶賛されている。

Dr.タマノ:「それは…」

 二の句が継げない。

 タマゴ達の立つ瀬なし。彼らが落ち込むのも当然だろう。

ガンマ:「えーい、辛気くさい顔しててもしゃあないわ!帰ってバトルや!」

タマゴ:「さんせー!」

サラー:「そうだね。ボク達にはビーダマンがある」

猫丸 :「ビーダマンで日本一になってやるのニャ!」

ビリー:「ああ」

 苦笑いするDr.タマノをよそに、力強く立ち上がり、走り出す5人。

 心はすでにTOPビーダー選手権に移っている。少年達は常に前向きで熱い。

 スカートが、風に雄々しくはためいて

Dr.タマノ:(慌てて追いかける)「あーっ!せめて着替えて行きなさい、こらー!!」

【終幕】



《注》この物語はフィクションであり、実際の「爆球連発!スーパービーダマン」とは
何ら関係のない妄想です。真に受けて、激怒してはいけません。心にゆとりを持ちましょう。

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