銀河の憂い|2010 02 10 

『子鬼、わしはそろそろもどらねばならぬ』
青い羽織の男の子は星を見上げ、そう言った。
子鬼、と呼ばれた男の子は、肩に携えた鎖鎌を握り直すと、名残惜しそうな表情で
『…ならばまた、あした』
と言った。
その言葉に青い羽織の男の子は、ほんの一瞬、眉を曇らせたが、すぐににこっと微笑むと、
『また、あした』
と言った。そうして、柔らかな笑顔のまま
『かならず、』
と言い足すと、ついと右の小指を差し出した。
子鬼は、いつもの別れとは違う彼の仕草を不思議に思ったが、見上げた彼の笑みはいつもと同じだったので
そっと小指を差し出し、明日の約束を交わした。

名も、どこの誰とも知らぬままに出会った彼であったが、
幼き頃より忍びという、暗く厳然な日々を重ねてきた子鬼にとっての、初めての、ただ一人の、ともだちであった。
子鬼は、星明かりの中だんだん小さくなっていく彼の背中をじっと見つめたまま、
かならず
と笑みをこぼし、心の中で自分も真似返した。
そうしてとうとう彼の背中が見えなくなると、一人、深い闇へと沈むように帰路についた。

今日誓った明日が二人に来るのは、この先、天空の星星が十と一年巡った後であることを、二人は知らない。
ただ、"
かならず "を、胸に刻んだまま。
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家さまが織田の人質から一旦岡崎に戻り、今川の人質に行く前のイメージです。
幼少の半さんは俗世を絶って一途に忍びの鍛錬をさせられていたり、
家さまのほうも、すぐまた人質になる身であり、織田に売られた前例があるので、
互いに名も明かせぬまま偶然出会ってともだちになった、みたいな。
松平時代の家紋は三つ葉葵じゃなかったかもしれない@家紋が謎なとこは、ご愛嬌でお願いします///