3.5章オマケSS
「っていうか、俺ら毎週末ここにいねぇ?」 剛は苦笑を漏らしながら言う。その言葉に由岐人も軽く肩を竦めた。 仕事を休んで呼び出されてから次の週末、また咲斗の呼び出しで由岐人と剛は上の階の部屋のドアの前にいた。 「よう?」 扉が開いて、にやりと浮かぶ顔。 「あれ?響じゃないんだ?」 そこにいたのは、いつもの笑顔の響じゃなくて咲斗だった。 「ああ、今ご飯の用意してて手が離せないらしいから」 そう言って出てくるリラックスした服装のその姿は、どっからどう見ても休日の旦那様に見える。 「ふーん、お邪魔します」 由岐人と剛はまたも香る良い匂いに食欲をそそられながら、勝手知ったる部屋へと上がりこんだ。 「うわぁっ、凄い」 「うまそう!!」 テーブルではなく、ソファの前のローテーブルに用意された食事は純和風のもの。大鉢に盛られた筑前煮をはじめ、ひらめの昆布締め、鰆の蒸し物に茶碗蒸し。アサリの酒蒸しにお造り盛り合わせ。肉じゃがと、その上小鯛の塩焼きまである。 「・・・・・・」 そのメニューをしげしげ見た由岐人が、奇妙に顔を歪めた。 「あぁ〜いらっしゃい。今日は日本酒ね」 冷蔵庫で冷やしておいたのか、冷酒とグラスを乗せたお盆を手に響がやってきた。その姿はやっぱりエプロンが良く似合う、主婦そのもの。 「響の飯は相変わらず上手そうだな!」 「ありがと。由岐人さんも座って座って」 言われる前に座っている剛とは反対に、由岐人はなんとも言いがたい顔をしたまま立ち尽くしていたのだ。 が、その顔を気にする事なく響は再びキッチンへと戻っていく。 とりあえず最初の料理は全て出し終わったので、使ったボールや菜箸などを流しに水につけて、換気扇を弱にして、再びリビングに戻ろうと振り返ると。 「由岐人さんっ!?」 そこに、由岐人が佇んでいた。音もまったくしなかったので響は驚いてしまったのだ。 由岐人はそのまま無言で、炊飯器に近寄って蓋を開けた。 ―――――やっぱり・・・・・・ 「普通、炊くか?」 低い声を絞り出して、響に鋭い視線を向けた。 「だって、お祝いだし。・・・ケーキもあるよ?」 その発言に、ブチっと意味不明の音が聞こえた。 いや、響にはきっとまったく悪気は無い。ただ、嬉しいだけで張り切っただけで、ケーキは自分が主に食べたかったのだが。 「へぇーお祝いねぇ」 にっこり笑った笑顔で由岐人は響に近寄っていく。 「・・・うん」 その笑顔に、思わず響は後ずさった。しかし、逃がすまいと足を大きく前に出して、由岐人は響の身体をキッチンの壁際に追い込んだ。さらに、両腕を伸ばして壁につく。 「じゃぁ響も、咲斗と最初にした時炊いてたんだぁ?知らなかったなぁー」 「え、いや・・・あの時は・・・」 「ああ、監禁中だったからそういうのは無かったの?」 「えー・・・っと」 「でも初体験祝いとかでも良かったのかも。ああ!僕が届ければ良かったね?」 「あー・・・」 どう返事したものか、響が顔を引きつらせて固まる。いや、質問云々と言うよりは、由岐人の笑顔が怖すぎたのか。 「あの時はTシャツ1枚で、エプロンなんて無かったねぇ」 由岐人はそういいながらその口を響の耳元へ近づけていく。 「・・・っ」 「エロい姿だったよねぇ」 由岐人の手が、意図を持って響の尻を撫でまわした。 「・・・やっ、ゆき、とさんっ!?」 「あれ?もしかして、感じてる?」 由岐人の吐息が、響の耳を揺さぶる。 「僕はケーキじゃなくて、生クリームプレゼントしようか?咲斗が、色々、デコレートしてくれるんじゃない?」 「うっ」 由岐人の手が、パンツの上からながら尻の割れ目を添う様に這わされる。 「由岐人。そこまでだ」 ――――ちっ 思ってたより早い登場に、由岐人は内心軽く舌打をした。が、まぁいいだろう。 ちらっと向けた視線に返って来た咲斗の視線が、殺されるかと思うくらい怖かったけど、これで首尾は上々だった事が証明されたってものだ。 由岐人はあっさりと響から身体を離して、咲斗の横をすり抜けてリビングへと向かった。 「響・・・」 咲斗の、嫉妬の混じった狂おしい声が聞こえて、思わずにやりと笑ってしまった。 例え弟でも、他の男。その男に触られて感じちゃったなんて、あの咲斗が許すはずが無い。 あー楽しいっ!! 「おーやっと来たな。って、咲斗と響は?」 「ああ、なんか向こうで話してた。先やってていいらしいよ」 「まじ?」 「うん。お腹減ったし食べちゃおうよ。はい」 由岐人はにっこり笑って、冷酒の入ったガラスを持ち上げて傾けると、剛もまぁいいかと思ったらしい。 「乾杯」 「乾杯」 カチンと綺麗な音が鳴った。 当然まだ、二人は姿を現さない。 そこで何が行われているのか、物凄く眺めてみたい気もするけれど、そこまでしたら流石の咲斗もキレてこっちにもとばっちりがやって来るだろうから我慢我慢。 ―――――・・・この僕をからかおうなんてするからだよ、響。 悪魔の様な笑みを浮かべて、由岐人は冷酒を喉に流し込んだ。 その後、響がお仕置きを受けたのは言うまでも無い事。 ただし、由岐人もしっかり怒られてしまったのだったけれど。 |