俺はちょっとドキドキしながら下駄箱を開けた。もし、昨日みたいに上履きなかったら嫌やなぁーってのが、ちょっと頭を掠めたんや――――けど。 「なんや、あるやん」 今日はいつも通りに下駄箱の中に俺の上履きはちゃんと置いてあった。やっぱり昨日は誰かが落として、あそこに適当に突っ込んだだけやってんやな。 俺は心配して損したわって思いながら上履きを取り出して床に置いた。 「ナツ、おはよー」 「おはよ」 「おっ、今日はちゃんと上履きあってんな」 アキが床に置かれた上履きをチラっと見て、ちょっと笑った。どうもアキもちょっと心配してくれらたらしい。 それでこそ友達やな。俺はそんなアキが大好きやでっ。 俺は朝からうれしい気分になって、別に何にも考えんと上履きに足を入れた。 「痛っ」 「え?・・・どうしたん?」 思わずあげた声に、アキが心配そうに俺の顔を覗いてきた。 なんやろ?なんか指先がなんかチクってしたんや。俺は慌ててその正体を確かめようと足を抜き出してみると、白い靴下に赤いシミが滲んできた。 「血ぃ出てるやんっ」 アキが慌てて上履きを取り上げる。 「―――これ・・・」 中を覗き見たアキが思わず顔を曇らせて、俺に上履きを渡してきた。俺はなんやろうって、上履きを覗いてみると、なんとソコにはテープでしっかり固定された画鋲があった。つま先部分にくっつけてあって、足を入れれば必然的に刺さるようになっている。 「なんや、これ・・・」 普段は元気だけが取り柄な俺やけど、こういうのはちょっとショックやった。こうなれば明らかに意図的にされた事で、これって俺が誰かに嫌われてるって事やもんな。 ―――はっきりとした悪意。嫌がらせ。 まじで・・・・ 俺がちょっとショックで、立ち直れへんと呆然としてると、アキが上履きに手を突っ込んで中のテープをはがして画鋲を取り出してくれた。そんでもう一方もちゃんと確認してくれる。 「ナツ、大丈夫か?しっかりしーや?」 「・・・うん」 結構勢いよく足を入れちゃったので、しっかり刺さってしまったらしい傷が、ざくざくと痛んだ。それ以上になんか、情けない気分に気持ちが痛くなってしまう。 「いたい・・・」 「保健室行こうや。俺様がバンドエード貼ったるって」 まじヘコんできた俺を、元気付けようとアキが背中をバンって叩いた。 そして俺を支えるようにしてアキは保健室に連れて行ってくれて、バンドエードを貼ってくれた。そうすると少しは痛みがましにはなったけど、それでもやっぱり痛くて。 俺はその日、足先のほんの小さな傷やのにそれだけで走れないやなぁってことを実感した。 「で、どうする?野口に一応言っといた方が良くねぇか?」 昼休み、食堂の隅っこで昼ごはんを食べながら、アキが小声で聞いて来た。 朝あんな事があってちょっと落ち込んでた俺やけど、もしかしてほかにもなんかあるかなってちょっとドキドキしたりもしててんけど、画鋲以外は特に何も変わったことはなかった。 いつも通りの日常。 それが俺を幾分ホッとはさせてくれて、気持ちも少し浮上してきてた。 「まだ、野口に言うのはいいよ・・・」 なんか言うと事が大きくなりそうやし。野口はええ先生やねんけど、ちょっと熱すぎるトコあんねんなぁ。 「でも、お前―――全然心当たりないんやろ?」 「・・・うん」 そうやねん。俺はこんな事される心当たりが全然浮かべへん。 でも自覚はなかったり、そんなつもりやなくても、人を傷つけてたり嫌な思いをさせてる事はあるかもしれへんし。 俺・・・こんなに誰かに嫌われるような事をしてしもたんやろか? 「アキは誰か思い浮かぶか?」 「全然」 もしかしてってちょっと思ったんやけど、アキはきっぱりと否定した。首もぶんぶん横に振ってる。 「別にだれかと揉めた言う事もないしなぁ・・・」 「うん」 つつがなく学園生活を送ってるはずや。成績だって中の中で誰かとトップ争いしてるわけでもないし、別に部活にだって入ってない。 誰かと何かを競うような事もないし・・・・ 「まぁ、こっちに悪気がなくてもってこともあるからなぁー・・・」 俺と同じ事を考えていたらしい。アキが考えるように言う言葉を聴きながら、俺はまたため息をついた。 それやったらもう防ぎようもないし、言い訳する事もできへん。面と向かって言うてくれたら、俺だって謝るなら謝る。いいたい事があれば言えるし。仲直りだって出来るかもしれへんのに。 はぁーって俺は思わず深ーいため息をついてしまって。やっぱりどよーんと沈んだ気分で午後の時間もすごした。 何かとアキが気ぃ使ってくれるんだけが救いやったけど。 そんな1日の終わりの帰宅途中。 「ナツ様?」 俺は指先がちょっと痛くて、アキと一緒にひょこひょこと歩きながら帰っていると、後ろから名前を呼ばれた。 しかも、声が――――圭。最悪やっ。 俺は、まずーって思いながら恐る恐る振り返った。 「どうしたんです?・・・足に何か?」 圭は絶対普段外では変えへん顔色を変えて、小走りに駆け寄ってきた。 「あーっと。ちょっと怪我してもて」 俺は家ではそんな動かへんかったら誤魔化せるやろうくらいに思ってたんで、さして言い訳も考えてへんくて、しかもこんな家の手前での偶然に頭ん中が真っ白になってしまった。 思わず助けを求めるようにアキ視線を向ける。 「怪我?怪我ってどこです?」 圭の眉がキリキリっと釣りあがった。その顔が若干怖かったんか、俺よりもアキの方がびびった顔色になった。 まぁ、見慣れたんと、見慣れてへんとの差やろな。 「お、親指を、ちょっと画鋲で」 ――――あほーっ!サラっとほんまの事言うてどうすんねん!! 「画鋲!?画鋲が刺さったんですか?」 圭の声が大きくなって鋭くなって。もちろん視線も鋭くなる。その視線は俺に向けられてるのに。 「あのっ。別にナツが悪いわけじゃないんすよっ」 圭の剣幕に慌てたアキが、さらに余計な事を口走ってしまう。 「ナツ様が悪くないってどういう意味ですか?」 キっと圭がアキを睨んだ――――いや、たぶん圭は睨んだつもりはないんやと思うねんけど――――その視線は怖すぎやって。アキはさらに慌ててしもた。 「いや、・・・その、画鋲が上履きに・・・」 「アキっ」 俺は慌ててアキの言葉をさえぎってんけど、時既に遅し――――やった。圭の目の奥がキラリと嫌な感じに光った。 「なんだかよくわかりませんが、家に帰ってゆっくり話を聞かせていただきましょう」 圭が不適に笑って、俺はこの後の嫌ぁーな予感に深ぶかとため息をついた。 可哀想に、アキは完全にビビッてしもてるやん。でも、ほんまに可哀想なんは俺かぁ・・・ ・・・・・ 「でさぁーその時の執事さんの迫力ったらないでっ!」 次の日、俺が教室に入ろうとすると開け放たれた扉の向こうからアキの声が聞こえてきた。教室に入ってみると、アキが話している相手は冬木だった。 「俺まじでびびったわ。いやぁ〜ナツは絶対甘やかされて育ってるな、あれは」 ・・・・お前なっ!! 俺は思わずグッと拳を握り締めた。 ったく、お前が余計なことを言うてくれたおかげで俺はあの後大変やってんぞ。 家に着くなり靴を脱がされて、傷は全然たいした事なかったんやけど靴下に滲んだ血が不味かった。それだけでもう圭の顔色がサァーって青くなってしもた。 画鋲にちょっと刺されただけやのに、どんな大げさやねんっていうくらい消毒させられて、大げさに包帯まで巻かれて。 まぁ、俺もこれ幸いに圭に甘えて。歩けないと抱っこしてもらって移動してたんやけど。 でも怪我をするにいたる原因まできっちりしゃべらされてしもた。 いやな、俺だって言いたくないからなんとか誤魔化そうってしてんで。でも圭のやつ人のこと気持良くさせるだけさせて、根元ギュって握ってきてや、本当の事言わなイカせませんとか言うねんもん。そんなんされたらもう言うしかないやん? やっぱ男の子やし、ああいう状態はまじでツライねんって。 ほんまに怪我よりもえらい目におうたわ。 それもこれもみーんなお前の所為じゃ!! 「っ、痛〜っ」 俺は無言でアキに近づいて、その頭をボカリとついてやった。 「いらんこと言わんでええねん」 俺はむかついたままに、机にかばんをバンと音を立てて置く。 「いらん事って事実やん」 アキがニヤニヤしてる。お前昨日マジびびりやったくせに、なんやねんその顔。ほんまむかつくなぁ。 「でも、圭ってホントに佐々木クンに甘いって感じするけどな」 冬木までアキに話しに乗っかりだして、俺は慌てて首を横に振った。 「な、なんやねん冬木までっ。圭は全然甘ないで。勉強勉強って小言も多いしうるさいし、それはダメこれはダメとかいうし。――――全然甘ないっちゅうねん」 俺はちょっとぶーたれ顔になる。 でも、そんな事いいながらも俺は圭の甘い意地悪が大好きやったりするねんけど。 「でも、基本的に怒鳴ったりしないでしょ?―――本気で怒ったりしない」 圭のそういうトコ全部ひっくるめて好きやねんけどな。 「まぁ・・・それはそうかな」 とーぜんやん。俺らは愛し合ってるんやし。 って、あーあかんあかん、そんな事考えてたら顔が緩んでまうー!! |