日曜日、冬木は俺の家に突然やってきた。
「よう。どうしたん?」
「こんにちは。突然ごめんね。引越しの挨拶してなかったから、日曜日ならみんないらっしゃるかなて思って来たんだけど」
「あ、ああ」
 玄関先で、にこやかに笑うその顔に俺も笑顔で返した。
 やっぱり圭は冬木と連絡なんて取ってなかったってわかったし、圭の1番は俺ってわかったから。全然平気。焼きもちやいた自分がバカみたいや。
「夏様?どなたですか?」
 そう思ってんのに。
「圭っ」
 声を聞き分けたのか、冬木が嬉しそうな顔をして俺の身体を押しのけた。俺は不意をつかれて、横によろめいて背中を壁にぶつけてしまう。
「譲くんっ。なんだ吃驚した。夏様から聞いたけどこっちに越してきたんだって?」
「うん。それで、遅くなっちゃったけど、引越しのご挨拶に来たんだけど・・・」
「そうなんだ。でも、今日はあいにく家の人は誰もいないんだよ」
「あ・・・そっかぁ、聞いてから来れば良かったね。じゃぁとりあえずこれ、渡しておいてくれる?」
 冬木はそういうと、手に持っていた紙袋から包装された四角い箱を圭に渡す。
「ええ。ああ、せっかくですし、上がってお茶でも飲んでいく?」
「いいの?」
「もちろん。どうぞ」
 圭が笑顔でスリッパを差し出す。
「ありがと」
 すると冬木も笑顔でそれに足を入れて、さっさと家に上がった。その光景を俺は半ば呆然と見つめてしもた。
 なんか、俺のことなんか完全に無視して話が進んでいってへん?
 しかも、なんか、空気が――――――――甘ない?
「・・・・夏様?どうしました?」
 まだ玄関ドアにもたれかかって呆然としている俺を、廊下を少し歩いていた圭が振り返ったけれど。
「あ・・・・・・ううん」
 俺はあんまり回らない頭を抱え、ぶんぶんと慌てて首を横に振るしかなかった。


 そして結局、リビングに冬木と圭が座っている。
 今日は誰も家にいない休日。本当なら、俺と圭の2人っきりになるはずやった休日。
 本当なら俺と圭が一緒に食べるはずやったロエリオのプリンを、リビングに座って俺と冬木と圭の3人で食べてて。
 なんか、目の前で懐かしい思い出話に花が咲いている。
 その光景に疎外感を感じるなって言う方が無理なんやと思う。だって、口に出される地名も、人名も、俺はまったく知らんもんで話の輪に入ってく事がまったく出来へん。
 なんか嬉しそうな圭にもちょっとむかつくけど、でも、圭にしたらやっぱり懐かしいんやろうし、仕方ないんかな。
 2人っきりの休日に入った邪魔に、ちょっとむかついてるんは俺だけなんかと思うと凹むけど。
 でも、焼きもちばっかり焼いてたら、圭に嫌われてしまうかもしれへんし。
 大人にならなあかんよなぁ・・・と、心の中でため息をつきながら目の前の2人に目をやると、ちょうど俺の携帯が鳴った。
 もちろんバイブにしてるから、2人は全然気づいてない。
 俺は、2人の会話を邪魔せーへんようにそっと立ち上がって、廊下に出ようと扉に手をかけると。
「夏様?」
「え?」
「―――どこに?」
「ああ、電話。アキから」
 こそっと出ようとしたのに、失敗してしまったらしい。俺は圭に振り返って携帯を少しかざしてから、廊下へと出た。
「もしもし?」
『ナツ?』
「ああ、どしたん?」
『今日暇?』
「ん・・・・まぁ・・・」
 暇といえば物凄く暇。
『ちょっと出てこねえ?』
「いいけど・・・え、アキ、今日デートちゃうかった?」
 確か昨日そんなことを言っていた気がしたんだけど。
『・・・・だーかーらー、そのことでっ』
 口調が急に投げやりになった。どうやらなにかひと揉めあったらしい。俺は、アキが今しているであろうそのぶーたれた顔をも想像出来て、苦笑を吐き出した。
「わかった行くわ」
 ここにおってもしゃーないし、少しくらいなら大丈夫やろうと俺は近くのファミレスでアキと待ち合わせをした。
 圭には一言言っておこうと思ったんやけど、リビングを覗いてみると話が盛り上がっていて気づかんかったし、俺はそのままこそって出かけていった。
 たまには圭も、ゆっくり昔話をするのもきっといい休日になるだろうし。
 なんか、こういう気遣いって大人ちゃう?俺って。





 待ち合わせて会ったアキはよっぽどやったんか、怒涛のようにしゃべり出した。その流れ出てくる愚痴なのかノロケなのかを俺は散々聞かされて。まぁ、ここで言う気にもならへんようなしょうもない話やねんけどな、それを結局3時間くらい付き合わされて、俺は思っったよりも遅くなってしまった時間に慌てて家に戻った。
「夏様!?どこへ行ってたんです?」
 まだ冬木がいるかもとコソっと玄関を入って行ったのに、圭は慌てて出迎えて来た。
「あ、ちょっとアキに呼び出されて」
「どうして黙って行くんですか!!」
 これがいわゆる、目くじらを立てて怒ってるって図やと思う。
「いや・・・・言うて行こうと思ってんけど、話中やったし、すぐ帰ってくるつもりやったから」
 でもな、俺、気―つかったのに。なんで怒られなあかんねん。
「・・・・・・・・・」
 無言で睨みつけてくる顔に、すっごい腹立つけど、でも確かに心配させてしもたんもそうらしいから。
「ごめん・・・・・・っていうか、それやったら携帯に電話くれたらええやん」
「ならお聞きしますけど、今携帯持ってますか?」
「当たり前やろ」
 何言うてんねん。俺はこの後ろポケットに・・・ああ、こっちは財布か。じゃぁこっちに・・・ああ、こっちは家の鍵が・・・・
 あれ?
 今日の俺の格好はロンTに半袖Tの重ね着に、ちょっとぶかぶかのデニムパンツ。ポケットは後ろの二つしかない。
「あれ!?」
 俺はマジで慌てた。携帯はさっきまで持ってたはずやのに。なんでないん?
 もしかしてファミレスに忘れてきた!?
「ないでしょう?」
「いや、そんなはずないっ。ファミレスに忘れてきたんや!?ちょっと取ってくるわ」
 俺はまじで慌ててくるりと体を反転させてそのまま玄関を飛び出そうとすると、圭に腕を掴まれた。
「これはなんでしょうか?」
 目の前にグイっと出される―――――携帯。・・・・俺の携帯。
「え!?なんで圭が持ってるん!?」
「お部屋の机の上にありましたよ?」
 部屋の机・・・・・・え・・・・・・っと・・・・・・・・・・・
「あ―――っ!!」
 分かった。手に持っていた携帯をそこに置いて、財布を取ってポケットにしまって、携帯は置いたままにでかけてしもたんや。
「あ――・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん」
 その状況を思い出して、俺は思わず圭を窺うように見上げてしまう。
 うう・・・まずいやん。
「いつのまにやら家にはいない。連絡しようにも携帯は忘れて出ている。連絡も取れない。私がどれだけ心配したかわかってるんですか!?」
「ごめんなさい」
「しかも、どうしてでかけるんです!せっかくの休日だったのに」
 ちょっと反省したけど、この言葉にはさすがの俺もちょっとキレた。
「はぁ!?自分だって冬木が来て、うれしそうに招き入れたやん」
 何言うてんねん、ちょっと待てっ。なんやねんそれ。俺は気―使ったのになんでそんなん言われなあかんねん。自分なんか、楽しそうに冬木と話してたくせにっ。
「・・・・・なんだ、焼いてたんですね」
「っ!!焼いてへんわ!!」
 なんやその笑顔。
 なんやその嬉しそうな顔。
 そやし、なんで俺が怒られなあかんねん!!
 どうにも俺は腹が立ってきて、俺は乱暴に靴を脱ぎ捨てて部屋へ行こうと圭の横をすり抜けようとした。
「ナツ、携帯はいいんですか?」
「返せっ」
 まだ握られている携帯を取り返そうと腕を伸ばすと、そのまま圭の腕の中に絡め取られた。
「圭っ」
「なんですか?」
「・・・・・・離せっ」
「いやです」
「圭」
「本当にどれだけ心配したと思っているんですか?」
 だからそれは―――っ
「・・・・・・・」
「もう二度と、勝手にいなくならないでください」
 ちぇっちぇっちぇ―っ・・・・圭はずっこいわ。
「・・・・・・・・」
「ナーツ?」
「・・・・・・ゎかった・・・・」
「ごめんなさいは?」
「〜〜〜もういっぱい言っただろっ」
 絶対俺だけが悪いんちゃうねんもん。
「ナツ、全然反省してませんね」
「してるやろ」
「それがその態度ですか?」
「うるさいなぁ!!もう、ハラ減った」
「奇遇ですね。私もです」
「じゃぁなんか食べようや」
 良かった。とりあえず話題がそれたし、ご飯にもありつけるやん。
「"なんか"じゃなくて、ナツが食べたいですね」
「はっ!?」
 いや、俺は今普通に腹が減ってるねん。夕飯食べたいねん。っていうか、そんなんしたらもっと腹減るやんっ。
 俺はココに来てやっとヤバイ空気を理解して、圭の腕の中から出るべく暴れようとしたけれど、すでに時が遅かった。
 俺はそのまま圭に部屋まで引っ張っていかれて、ベッドに押し付けられた。
「2人っきりですから、声がかれるまで鳴いてもいいですよ」
 圭の笑顔が、悪魔に見えた。
 心配させた分のお仕置きと。
 焼きもちを妬かせて不安にさせたお詫びを、無理矢理俺は押し付けられて。

 俺は明日起き上がれるんやろか・・・・
















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