冬の空の下で 12
・・・・・・ 薫は夜のいつもの時間、専用のチャットルームにいた。 でも、最初の一言"翔にバレました"って送った瞬間、電話が鳴って笑ってしまった。 「はい」 たっぷり間を取って電話に出たら、向こうからいたく緊張した声が返って来た。 『・・・マジか?』 「はい」 少しそれに合わせてみる。一人で悩んで迷って落ち込んだのだから、それくらいは許されるよね? 『昨日、来なかったのはその所為か?』 チャットできないなら前もって言うようにしていたが、昨日は何の連絡も無いままだったので、透はどうやら気にしていたようだ。 メールも2通届いていた。 それが嬉しくて、薫の顔は思わず緩む。 「はい」 ―――――あ、だめだ。笑っちゃいそう。 『大丈夫か?』 「――――」 ―――――真っ先に気遣ってくれるんだ――――・・・ それに、改めて嬉しさと、愛されてるんだという実感が沸きあがってくる。 『薫!?』 一瞬黙った薫に、透の声がさらに焦る。 「あ、すいません。大丈夫です」 『本当か?すぐ帰るぞ?』 「ホントに大丈夫なんです」 声がもう、笑ってしまった。 『薫?』 透の声が不審気な色を帯びる。 「ちゃんと話して、翔もわかってくれたし」 『――――』 「――――――応援してくれるって」 電話越しでも、透がホッとしたのが分かった。平気そうな、なんでもない様な風を装っていたのに、やっぱり透も薫と同様気にしていたようだ。 『本当に?』 「はい」 『そっか・・・』 「はい」 2人は、なんとなく肩の荷が降りたようなそんな同じ気持ちを共有した。 良かった、心の底からそう思う。 『やっぱり翔、感づいていたのか?』 透もその事を気にしていたのか。そこで薫は今までの流れを透に全部説明した。 感づいてると感じていた事、翔が綾乃に問いただしたこと、そして突然距離を置きだしたこと。その時は、なんでもっと早く相談しないんだ!と電話越しに怒鳴られたけれど。 そして、昨日の出来事。 『鍋?』 「ええ。その真吾さん、面白くて。ああいうキャラって知らなかったので」 偶然だが、以前1度数分だけ、薫と真吾は顔を合わせたことがある。そうなるキッカケを作ったのは透なのだから、わかっているはずなのに。 『――――』 「透さん?聞いてます?」 『泊まったって、部屋は別だろうな!?』 「は?」 『別だろうな?』 「寝たのは翔と綾乃と同じ部屋です。・・・透さん?真吾さんは奥さんいらっしゃるんですよ?知ってますよね。本当にイイ夫婦って感じで」 『それとこれとは別だ』 どれとそれなんだか。 『まったく。まぁ、翔の事はとりあえずよかったけど。あんまり良く知らない男の家に泊まるんじゃないぞ』 あの状況で真吾の事をよく知らない男と評するなら、公園で会っただけでついていった綾乃はどうなるのか。まぁ、綾乃は綾乃で危ないと薫も思うのだが。 そう、その綾乃だ。 今日、別れたときは普通に見えたけれど本当に大丈夫だろうか? 『薫?』 「ああ、すいません。少し考え事を」 『考え事?やっぱりなんかあったのか!?』 「―――っ、耳元で怒鳴らないでくださいよ。そうじゃなくて・・・・・・綾乃の事がちょっと気になって」 『夏川が?』 「はい。その――――」 どう言えばいいのか。 言えば翔が言った言葉を伝えなければならない。兄に言うのは、どうなのだろうかと薫は悩まざるを得ない。 第一、確証の無い事で。 『電話で言いにくいなら、今度会う時でどうだ?相談に乗る。それまでにはもっとはっきりする事もあるだろう?』 「春休みですか?」 それで大丈夫だろうか? 『何言ってるんだ?バレンタインに帰るって言ってるだろ?』 「え!?本当に帰ってくるんですか!?」 『お前なぁっ!』 怒鳴られて、慌てた。 「だって」 『嬉しくないのかよ』 その聞き方はずるいと思う。だって、会いたくないはずが無い。 でも。 「そんなに往復してたらお金もかかりますし」 『嬉しくないのかよ』 嬉しくないはずがない。 『薫?』 「会いたい・・・です」 物凄く。 冬休みはいっぱい会えなかったから。 『よし!』 透の声が満足そうに笑う。 それに薫もつられて笑ってしまう。 なんか、とりあえずいいかって思える。 「ノカのチョコレートがいいです」 『了解』 バレンタインの日、甘いチョコレートと一緒に透がやってくる。透が傍にいてくれることこそが、神様がくれた最高のプレゼントだと思う。 奪わないでいてくれて、ありがとう。 『学校のほうは順調か?』 「はい。でも新学期が始まるので、忙しいですね」 薫は、長電話は料金がかさむから早く切らなくては、と思うになかなか切れないで。近況の事や、近い未来の話をした。 楽しい、ささやかな夢も混じっていたかもしれない。 こんな風に晴れやかな気持ちで透と話せたのは本当に久しぶりだと思う。 それもこれも、認めてくれた翔のおかげ。 薫は今ある幸せを大切にしようと、改めて心に強く思った。 こんな気持ちのまま、幸せでいられたらいいと思った。 |