いつも明かりがついていた。
 20年以上、この森の中心にあったその家は、ずっとずっとその明かりをともし続け、その存在を示していた。
 けれど、今日からはもう灯ることはない。―――たぶん、永久的に。

 主人のいない家は、シンと静まり返って。昨日までは、とてもいい匂いがしていたのに、今は何の匂いもしなくて。ここ5年、毎日のように焼かれたケーキの甘い香りもしなくて、微かに木々の匂いが篭るだけ。
 綺麗に整頓された部屋は、返ってしらじらしくて。もう、この箱は死んでしまったのだ、思い知らされた。
 ―――思い出が死ぬほど詰まっているのに。
 親子というよりは、友人に近い関係を上手く築いていた。たまに叩く憎まれ口に、無言で睨んでくるあの瞳が、かわいくて好きだった。
 たくさん泣いて、たくさん悩んで、その時、オレには何もしてやれなかった。孤独に影が揺れて、いつしか全てを悟って、諦めた様に笑う笑顔がさまになるようになって。その何一つ、変える事が出来なかったから。変えれるのは、あいつしかいないと分かっていたから。だから、これは望んでいた結果なのに。
 心の中にぽっかり開いた穴はなかなか埋められそうにない。
「やっぱり、ここにいたんですね」
 シンと凍るほどの静寂を押しのけて、見知った声がした。けれど、俺はそれを無視してやる。一人でいたいんだと、無言で返せばきっと伝わるだろうから。
 そっとドアを閉めて出て行くに違いない。
 そう思ったのに、ルカは出て行くどころか、一歩中に入ってきた。
 俺はその時初めて男を見て、無言で睨みつける。この部屋は、ルーのテリトリーであって、あれがいない今は俺のテリトリーなのだ。無断で入る事なんて許せない、と。
 けれど、ルカはそんなオレの視線を無視して静かに言い放った。
「行ってしまったんですね」
 その告げられる言葉が、むしょうに頭に来て、思わず手を振り上げるとが、それがルカに届く前に絡めとられて。そのまま腕を引かれて、抱き締められる。オレよりも僅かの高いその背で、抱きすくめて見下ろす目が気にくわないのに、その唇を耳に押し付けて。
「私がいます」
 真摯に告げられる言葉に、心が苛立ってくる。
「止めろ、触るな」
「ダメ・・・・ですか?」
「ああ」
 ことさら冷たく言ってやると、ルカは途端に俺の身体から手を離す。そして、今にも泣き出しそうな顔をして、悲しそうな瞳をオレに向けてくる。
「一人になりたいんだ」
 暗に、向こうへ行け、と、無常にも告げる。
「・・・・お側にいては、いけませんか?」
 案の定返って来る言葉は、押し付けるものでも、自分の意思でもなくて、お伺い。
 こいつを、遠ざけるなんて簡単な事だ。一言、いらないと言えば、どこへなりとも消えてしまう。
「ああ。ダメだ」
 だから、言ってやる。そういえば、黙ってでていくだろう。いつもそうだから。
 そう思ったのに、いつまでたっても空気は動かず、ルカはじっとその視線をオレに向けてくる。肩までかかる、色素の薄い、日に当れば金に光る茶色の髪が少し風に揺らいで、月の光にさらされて立つ姿は、美しいと思う。
 こんなにも美しくて、まっすぐな男はそうそういないと思う。
「もう、私には側にいる事も許されないんですか?」
 泣きそうに、顔を歪めて俺を見つめてくる。
「もう、用なしですか?」
 ―――なんでいつもそうなんだ。
 何故、もっと・・・・・・・・・・もっと、かっさらってくれないんだろう。
 オレは、イライラして、たぶん半分は八つ当たりなんだと分かっていても、キツい瞳でルカを睨みつける。
「私には、もう、飽きた?」
「お前はどうなんだよ?」
 尋ねる言葉をそのまま返してやる。もうずっとオレなんかの側にいて、お前はどうなんだ?オレに飽きたんじゃないのか?と。答えはわかっているのに。
「私が貴方に飽きるわけがないでしょう?そんなこと・・・・そんなことあるわけがないっ」
 微かに口を歪ませて、笑って首を振る。そんな姿に、ちょっと満足して。
「オレだって、そうだぜ。ただ、今は一人になりたいだけだ」
「あの子を想ってですか?」
 返って来た言葉の語尾が意外とキツクて、オレは微かに驚いた顔をしてしまう。
「ルカ?」
「・・・・もう、いいでしょう?あの子は自分の意思でここを出て行ったんですよ。貴方もそれを認めていた」
「ああ」
「望んでいる事でもあった。そうですよね?」
「―――ああ」
 そうだ。オレはこうなることはわかっていた。あいつが、初めてここに訪れたあの日から、予言はあったのだ。
 そして、俺はそれに逆らおうとは思わなかった。逆らうことなんて、出来なかった。
「だったらもう、いいじゃないですか」
 何が?
 何がもういいと言うんだ?
 ―――何が?
「もう、私だけの王でいてください」
 密やかに、だけれどはっきりと告げられる言葉に、一瞬意味がわからなくて、たぶんバカみたいな顔をしてしまったと思う。
「ルカ?」
「私を1番にしてください」
「1番って・・・・・・・」
 いつも、お前が1番だろ?
 何を言ってるのかわからないと、首を振ると、ルカは切なげに眉を寄せる。
「・・・・・無意識なんですね。わかってますけど、そういうのってある意味、罪ですよ」
 罪?
「貴方の側にいたのは、私なのに。ずっとずっと私が側にいたのに、貴方の1番はいつも私じゃなかった」
 一瞬、泣くかと思うほど、顔を歪めて。
「昔は、貴方の1番はあの子の父親でしたよね?貴方の一方的な、片思い・・・・」
 突然言われる、昔の話に一瞬眉をひそめる。
 ―――確かに、そんなときもあったな。
 それは、遠い過去の話。
 ルカと出会った頃の話。オレは、あいつに片思いだった。人間には珍しいくらい純粋でいいやつで。ちょっとイイ人過ぎた。反逆の目を疑うこともできないくらいにお人好しで。
 ―――あの時も、オレは何も出来なかった。
 人間界への関わりを制限されている中で、助言も出来ず、手助けも出来ず、ただ定められた運命の傍観者でいるしかなくて。
 苦しくて、悲しくて、つらくて。もう狂ってしまいたいとさえ、思った。
 その全てを、目の前の男が受け止めて、包み込んで―――許してくれた。
 救い出してくれた。
 だから、オレは今こうしてここにいられるというのに・・・・・・・
「今度は彼の息子を引き取って、あの子が貴方の1番になった」
 ―――ああ・・・・・・そうか。
 苦しげに、そう告げらてくるルカを見て、ああ、そうか、と、突然答えが胸に落ちてきた。
 そうだったんだな、と。
「泣く貴方の側にいたのは、私だったのに。いつも私を見てくれなくて」
 ―――ばかだな
 自然と苦笑が浮かび上がる。
 やっと、お前が何にこだわってるのか、わかった。
「やっと独占できると思ったのに、貴方の心はまだあの子に囚われたままっ」
 そして、それはオレの所為。
 オレが悪かったんだよな。お前に甘えて、お前の不安も全部、気付かなかった。いや、気付かないフリしていたのかもしれない。ちゃんとわかってるだろうなんて、勝手に甘えて、都合よく思って。
「いつも、私だけの人でいてくれない・・・・っ・・・」
 ―――ずっと、もうずっと昔から、オレの中はお前で一杯なのに。
「こんなに、こんなにも、愛してるのに―――っ」
 その手が伸ばせないのは、オレの所為なら、オレがお前を捕まえて、この腕の中に捕らえてやる。
 オレは、頼りなげに立つ愛しい男に手を伸ばして、しっかりと抱き締めてやる。
「王?」
 オレの突然の行動に驚いてるのか、誤魔化されまいとしているのか。僅かに身じろいで、腕の中から抜け出そうとしてくるから、だから、言ってやる。
「愛してる」
「・・・・・・え?」
「だから、愛してる」
 少し身体を離して、その瞳を覗き込む。鼻先が触れ合うくらいに顔を近づけて、とびっきりの笑顔を浮かべて。
「ずっとずっと、お前が1番だった」
「嘘」
 すぐさま言い返してくる言葉に、思わず苦笑が浮かぶ。
「嘘じゃねーよ」
 けれど、ルカは信用できないのか、不審そうに覗き込んできて。ばかだなぁ、と思う。オレもお前も。
「あいつは、息子みたいなもんだぜ?あいつに抱かれたいとも、抱きたいとも思ったことはない。そう思うのは、お前だけ。・・・・・俺の身体を熱くすんのは、お前だけだ。そんな事わかってるだろ?」
 ちょっと恥ずかしくて、照れ隠しにニヤっと笑ってやると、噛み付くみたいにキスされた。
「んん・・・・ふっ・・・んん・・・・・」
 舌が遠慮なく刺し込まれて、歯列を嘗め回して。その合間に股間を押し付けてくる。
「はぁ・・・・んっ・・・・ぁ・・・・・まっ・・・・・・・・ルカっ」
 そこが、すでに熱く高ぶってて、オレは焦って引き剥がそうとした。
「逃げないで」
 キスの合間に、囁いて、ルカはオレの身体をそのまま、テーブルに押し倒してくる。その背中に伝わる硬い感触に、ブルっと身体が震える。
「ちょっ・・・ここでは、やめろっ」
「やめれません」
「ルカっ」
「貴方の所為だ。貴方が、素敵な言葉を言ってくれるから、それだけで」
 そういって、自分のモノをオレの手を無理やり押し付ける。
「それとも、・・・・・・・・・やっぱり、あの子の方が、あの子との思い出の方が大事ですか?」
 ふと真っ直ぐに見つめてくる目が、どこか縋ってくるようで、そうだとは言えなくなる。いや、別にルーの方が大事というわけではない。ただ、あの子が20年以上食事していた場所で、抱かれる事に抵抗があるだけで。
「家で、やればいいだろっ」
「そんなに、我慢できない。ここで、今すぐ貴方を抱きたい」
 そんなにって、すぐそこだろうがっ!そう、言ってやりたいけど、その言葉にルカが何にこだわってるのかわかるから、オレは仕方ないなと小さく息を吐いた。ここで拒めば、ルカを傷つけるだろうし、好きな男にこんな顔されて、拒めるやつなんていないと思う。
 まぁ、ルーには黙っていればわからない事だし。と、自分にいい訳して。
 オレは無言で起した身体をもう1度横たえると、それを肯定と取ったのか、ルカは微かに笑って、本格的にオレにのしかかってきた。
 服の前をはだけさせられて、胸にルカの手の感触を感じて、身体が震える。
「んっ」
 のしかかる重みは、よく知ったもので。そこに、生暖かい舌の感触が降りてきて、軽く歯をたてられて。
「ふっ・・・あぁ・・・・・っ・・・」
 ルカの手が、胸を弄って、押しつぶしてきて、その快感に腰が痺れる。そのまま、ルカは手をゆるゆると下へ下ろしていきながら、首筋や鎖骨あたりに唇を押し付けてくる。
 感じるところを、忠実に吸い上げられて。
「んんっ・・・はぁ・・・・」
 ルカの手が、中心で勃ち上がってきているものに絡まれた時、ビクっと背中が揺れた。下から上でと扱かれて、亀頭を指先で擦られて。
「あぁぁっ・・・・あぁぁ・・・・・、んんっ・・・・・」
「イイ声」
 うれしそうにクスリと笑うと、手の動きを一層激しくしてきて。
「い・・・・ぁぁ・・・・んん、ああっ」
 ルカが動いたかと思ったら、ソコに息がかかるのを感じて。ルカはオレの膝裏に手をかけて思い切り持ち上げて、足は大きく割り開かれる。腰が完全にテーブルから離されて、天を向いたオレのアソコがさらされる。
「やめっ・・・・ルカっ・・・・・・・・・やめ、ろっ」
 その姿勢が、あまりに恥ずかしくて、オレは何とかしようと動いてみたけれど、足をしっかり掴まれていては、ただ腰を揺らしただけの様になってしまう。
「もっと、鳴いてください。あの子に聞こえるように」
「バっ・・・ああぁぁぁぁ―――・・・っ」
 そこに、舌先を感じて、嬌声が上がった。襞の1枚1枚を確認するように丹念に舐められて。
「ああっ・・・・・やぁ・・・・あああ・・・・・・」
 指が、そこを押し広げるようにして、舌先が・・・進入してくる。
「ひぃっ、んん・・・・・・・ああ・・・・・・・・・あぁぁっ」
 唾液が、中を伝って落ちてくる感触に下肢が震えて、かっこ悪くビクビクと腰が跳ねるのを止められない。そこにどんどんと快感が溜まっていく。
 その快感を追う様に腰が自然と揺れる。
「はぁっ・・・・、ああぁっ・・・・・あぁぁぁ・・・・っ・・・・」
「凄い、ヒクヒクしてる」
「ばかっ・・・・言うなっ」
 何度身体を重ねても、そんなところを見られるのは恥ずかしいのに、わざわざ声に出して言う男が憎らしくてねめつけると、そこにはいやらしく笑う、上機嫌の顔があって。
 再び、ルカの手がオレのモノをなで上げる。
「あーあ、こんなに漏らして」
 先走りが、しどしどと流れて、腹にぽたぽたと落ちている。
「我慢できない口はここですか?」
「ひぃっ、ああああぁぁぁぁ――――――っ」
 亀頭の口を指でくりくりと嬲られて、悲鳴に近い声が洩れた。
「イキたいですか?」
「・・・・ルカっ・・・・・・・・お前っ・・・」
 余裕たっぷりに、憎たらしいくらいにうれしそうに笑っている顔に、思いっきりかけてやりたくなる。
「そんな欲しそうに見ないでください。視線だけで、イキそうですよ」
 そう言うと、指をねじ込んできて。
「いいっ・・・・・・んん、ああぁぁ―――っ・・・」
「凄い、絡み付いてくる」
 すぐに2本に増やされた指で、中を好き勝手に蹂躙していく。
「ああぁぁっ!!」
 感じるところを突かれて。
「はぁ・・・・ああ・・・・んん、ああぁぁ・・・・・・・っ」
 腰が揺れて、ねだってるみたいな声が洩れて、止まらなくなる。
「イイですか?」
 嬉々と尋ねてくる男に、快感でどうになりそうな頭を振って、なんとか冷静に息を整えて。
「さっきの、泣きそうな顔はどうした?」
 負けてばっかりはいられないと、言い返してやる。すると、お仕置きとばかりに、オレを握った手に力を込めてくる。
「ああっ!・・・・い・・・・やめ・・・・・・あぁぁぁ」
「欲しくないんですか?」
 ―――ここに。
 言いながら、中に入れた指で、イイところを擦り上げて来て。入り口に、チュっと音をたててキスをする。
「ル・・・カ・・・っ・・・・・」
「もうこんなに、とろとろに溶けてるのに」
 今度は、中に入れた指を、ことさらゆっくり抜いていこうとする。オレの中は、無意識にそれをきつく締め上げて。
「おま、え・・・さっきと、態度・・・・・・違いすぎっ・・・・」
 殊勝な顔してたくせに、その余裕の笑顔が腹が立つ。主導権を握られて、おもしろくなくて、後で覚えてろよと呟くと、ルカの顔に笑顔を広がっていく。
「だって、言ってほしかったから」
「・・・・なに・・・・・・?」
「わかってましたけど・・・・・・・言って欲しかったんですよ。1番が私だって」
「おまえっ!」
「だって、あんまりあの子がいなくなって寂しそうにするから、ちょっと腹が立って。ちゃんと私がいるのに」
 ―――ハメラレタ!!
「私だって八つ当たりされたんだから・・・おあいこでしょう?」
 ふてぶてしく笑うルカの顔が腹立たしい。けれど、その瞳の奥が、やはり微かに不安にゆれてているのも見つけて。ドキっとする。
 好き勝手しといて、何がいまさら不安なんだと、怒鳴りつけてやりたいけど、愛しいほうが先になって。
「―――早く、しろっ」
「何を?」
「てめぇ・・・・・っ・・・・・・」
「言って」
 そう言った途端、中の指がイイところをかすりながら抜き取られて、背中がしなった。そして入り口を、今度は指の腹で撫で回されて。もう、これ以上、1秒も待てない。
 言いたくないけど、その恥ずかしい言葉を、怒鳴るみたいに言ってやる。
 すると、ルカのその瞳が微かに細められて、笑みが広がる。幸せそうな笑み。
 たぶんこいつは全部知ってる。全部分かってる。
 愛して育てた息子を、大嫌いな男の息子にやるしかなくて、それが1番いいとわかってても、腹が立って。あんなに真っ直ぐだと、意地悪もできなくて、うじうじ悩むルーの背中を押して、2人をくっつけてやるしかなくて。
 その全部に腹立たしくて。
「ああああぁぁぁぁぁ――――っ!!」
 待ちわびたモノが、ゆっくりと中押し入ってきて。中を、擦り上げて、絡みつく襞も全部絡めとって、奥まで入ってくる。
「ああぁぁ・・・・んんっ、ひぃ・・・・・あああああああ!」
 オレの身体の全部を知ってる男が、イイところを突き上げてきて、オレはもう腰を回してその与えられる快感全てを受けとろうとする。
 だんだん何も考えられなくなって、ルカがもたらす快感だけに頭が洗脳されていく。
「もっと、感じて。私だけを感じて」
 快感に濡れて、それでも優しく響く声で。
「何も、考えないで」
 オレはその言葉通り、もううだうだと考える事を全部放棄して、ルカからもたらせる快感に全てをゆだねて。


 欲しいだけ、搾り取ってやった。  







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アトガキ
ノロケ・・・・???
前回までで、何故か人気高い精霊王なので、当初の予定を変更して書いてみました
予定変更で、4.5回書き直して・・・まだちょっと、なんだか、中途半端な気もしなくもなく・・・
ただのバカップルを書きたかったんだけどなぁ〜どうでしょうか?・・・・ある意味1番強いのはルカ?