プレゼント・後




「なぁ、由岐人」
 剛の指が由岐人のものをゆっくり扱きだすと、由岐人が一瞬息を詰めて背中をヒクリと浮かせた。
「言ってくれよ」
 中を弄られる快感と、前を扱かれる快感に、由岐人の理性が徐々に奪い去られて思考がどんどんフリーズしていく。
 でもそれだけじゃない。
 由岐人にだってそれはわかっていた。
 ただ、言い訳が欲しくて、剛はその言い訳をくれただけ。快感を理由に、考えられなかったんだという言い訳を、剛がくれただけ。
「んん・・・っ!!」
 剛の指の腹が、由岐人の先端をさすった。もっと欲しくて思わず浮いた腰に言い訳なんかいらないのに、言葉にするには言い訳が欲しい自分が嫌だ。
「剛・・・ちゃんと」
 触って。
「いいぜ。でもその前に他にいう事あるだろ?」
 ―――――・・・っ。
「なんだった?」
 もっと快感でぐちゃぐちゃになれれば口走ってしまえるかもしれない言葉を、剛は今言えと言う。その事を恨みがましく思って由岐人が剛をチラっと睨んでみても、剛はどこ吹く風。
 悔しい。
 主導権は、こっちにあるはずなのに。
「ここ、指じゃあ足らないだろ?」
 そう言われて、ちょっと乱暴に指で掻きまわされて由岐人のモノがビクっとまた震えた。
 もう、イきたい。
 中をぐちゃぐちゃに掻き回して欲しい。
 だから――――――――
「見たんだ・・・っ」
「何を?」
「Loversの、前で」
「Lovers?・・・Lovers、ああ!!」
 その名前を言われて剛は、記憶に少し沈んでいたその名を思い出した。
 クリスマスプレゼント、色々悩んで考えて、確かにそれも候補で見に行った。
「なんだ、見られてたんだ」
 剛はちょっと照れたような、バツの悪そうな顔をした。
「ごめん、あっちのほうが良かった?」
 別に、そうじゃない。
 ―――――あの店のは、あんまり僕の好みじゃないし。
 でも。
「見に行ったんだけどさ」
 ―――――なに・・・
「迷ってしまって」
 剛はそう言うと、両手で由岐人の身体をぎゅーっと強く後ろから抱きしめた。
「美貴さんにも」
「誰・・・っ」
「え?」
「それ、誰?」
 ―――――あの時一緒にいた女は、誰?その人に買ってあげたんじゃないの?
「え?あれ?憶えてない??」
「・・・え?」
「あ・・・顔は合わせて無かったっけ。そっか」
 ―――――ということは、会ってるような会って無いような人・・・?誰だ?
 由岐人はもう1度女の人の顔を思い出して、自分の記憶の中にその顔が無いかどうか考えてみるが、どうしても思い出せない。
 由岐人はその女が誰だったのか知りたくて、自分を抱きしめる剛の腕をちょっと引っ張った。
「あの人は俺の兄貴の恋人。まぁ、結婚を前提にしたお付き合いだから、婚約者って言っていいのかな」
「・・・剛のお兄さんの?」
「そ」
 出来ることのなら口にしたくは無い、由岐人が林という男に身体を差し出そうとした時助け出した現場に一緒にいた人。
 由岐人はどうやらその顔までもは覚えていなかったらしい。
「あの店でさ、ペアリング買おうかなって思ったんだけど」
 ―――――そうだと、思った・・・その前にそんな雑誌特集読んでたしね。
「俺ああいうの良くわかんないし美貴さんに付き合って貰ったんだよ」
「そうだったんだ?」
 剛の、気負いの無い嘘の無い言葉の響きに由岐人の身体からふっと力が抜けた。
 今から一月近く前、Loversの前で女連れの剛を見てから、由岐人はいっぱい色んな事を考えた。でも、剛の態度から浮気は無いだろうと思っていたのだ。剛はそんなに器用に嘘をつけるタイプじゃないから。
 だからきっと、クリスマスプレゼントを選ぶのに付き合ってもらったんだろうと思っていた。
 思っていたけれど、実際やっぱり少しの不安も無かったわけじゃなかった。
 それなのに、出て来たプレゼントはまったく違うものだったから。
 一番考えたくない、ありえないって思うとしていた考えに気持ちが傾斜していってしまっていた。そんな気持ちを、止められなかった。
 ―――――でも・・・
「じゃあなんで・・・」
 ぽろっと、由岐人の口からその言葉が出てしまった。
 あっ、と由岐人が我に返ったときには既に取り消せない。
「なんか・・・あそこのってペアで1万〜2万くらいなんだよ」
「うん」
 ―――――知ってる。
「あぁ〜〜、なんかその、格好悪いけどさ、俺には結構その金額がいっぱいいっぱいつうかさ、だけど由岐人から見たら安いんじゃないかなって。それに、ああいうのって好みもあるし。由岐人はどうなんだろうって思って色々考えたら買えなくなって」
 剛は一気にそこまで言うと、耳まで真っ赤にして由岐人の肩に顔を埋めた。どうやら、かっこ悪いと思っているらしい。
「もう全部言っちまうけど、ホントはこれから由岐人からそれとなく色々聞き出して、その間に金貯めてバレンタインかホワイトデーあたりに買おうかなって思ってたの!」
 ―――――なんだ・・・
 心配して損した。
 なんだ。
 なんだよ、ばか。
「はは・・・」
「由岐人?」
 突然笑い出した由岐人を、剛は首を伸ばしてその顔を覗き込む。
「バカ」
「・・・悪ぃ」
 由岐人の態度に思うところがあったのか剛は素直に言葉を受け止めて謝った。そしてそのまま、由岐人の頬に、キスをした。
「ペアリング、次は絶対買うからな」
「っ、―――――別にっ、・・・そんなの」
「あんま高いヤツ買えないかもしれないけど」
「だからっ」
 ―――――高くなんか無くていい。
 安物だって、いいんだ。
「ああ!!」
 剛が由岐人の乳首をいきなりきゅっとつまんで、由岐人の声が跳ね上がる。
 そのまま親指と人差し指できゅっと挟んでくにくにと弄りながら、もう一方の手を再び下へやった。
 指がまた由岐人の中に入ってきた。その所為で、少し忘れ去られていた快感が蘇ってくる。
「つよし・・・っ」
 さっきと違うのは、指先に焦らそうという意図が無い。剛の指は躊躇う事無く由岐人のいいところを突いた。
 ぎゅっと乳首が潰される。
「あっ、・・・んん・・・ああ」
 剛の指が、由岐人の中をほぐしていく。
 もうすっかり消えかけていた火が、燃えあがっていた。指が奥まで入っては出て行くのがもどかしくなって、由岐人は当たってるのが欲しくなって腰を揺らしてしまう。
 触られなくても、どんどん硬くなっていくのがわかる。
「入れていい?」
 囁きが耳に聞こえた瞬間、由岐人は頷いた。
 中から指が引き抜かれて腰を少し抱えあげられて、落とされた。
「あああ・・・っ!!」
 一気に入ってくる。深々と貫かれて、由岐人の背中がしなった。
 下からの突き上げは、抉るような深さで由岐人の頭から理性や建前や、強がりを根こそぎ奪っていく気がする。
「やっ、・・・やめっ」
 さっき弄られていたのとは違う方の乳首を引っ張られて、由岐人は頭を振った。
 ひくっと中が震えて、一層剛を締め付ける。
「胸弄ると、中がすげー締まる」
「バカ・・・っ」
 言われなくてもわかる。
 その締め付けられて狭くなったそこを、剛が無理矢理上下に動くから中の襞がいっぱい擦られて、由岐人をどんどん追い詰めていく。
 剛が由岐人の腿に手を掛けてさらに足を開かせた。
「ああっ!!・・・ん――――ふっ、く・・・ああ・・・」
 さらに、深いところに届く。
 由岐人のものは限界まできていた。
 熱の所為か、快感の所為か頭がボーっとしてきた。
 もう、イキたい。
「気持ちいい?」
「もう・・・っ」
 ずんずんと、脳天にまで届きそうな振動。腰を回されて、由岐人の身体がのけぞった。
「由岐人、いい?」
 剛の、快感に掠れた声が堪らない。
「いい・・・っ。いいよ――――・・・っ」
 ずっと触られなかった前に、剛の手のひらを感じた瞬間。
「―――――っ!!」
 放ったと同時に中をぎゅーっと締め付けた、その奥に熱いものを感じた。









 バフっと音がして、剛の顔にクッションがクリーンヒットした。
「由岐人〜」
「僕はこれから仕事なのにっ」
 怒った声でそういう由岐人がどうしているかといえば、ソファで伸びている。正直、1日に必要な体力を朝の時間で全て使い切った気がする。
「・・・ごめん。でもさ―――――、・・・いや、俺が悪かった」
 剛は言い訳を口にしようとして、由岐人に強く睨まれて慌てて謝罪の言葉に切り替えた。
 目が、怖いったらない。
「水、もう1杯入れてこようか?」
 剛はそう言うと、そそくさと立ち上がってキッチンへと向かう。その後ろ姿を由岐人は少々怒った顔で見送った。
 けれどたぶん、本当は怒っているのではなく照れているだけだろう。
 というのも、伸びている理由が、
 ―――――のぼせた・・・
 からであり。
 ―――――1回で止めれば良かったのに・・・
 その後、シャワーを浴びると言いながら再びシテしまったから、である。
 そしてやはり冷静になってみると、風呂場で口走った自分の妬いているかのような―――実際妬いていた気がするのだが―――言動の数々に羞恥を憶えずにはいられないからである。
 ―――――あれじゃあまるで僕がペアリングをねだったみたいじゃないか・・・
 恥ずかしい。
 由岐人は激しい自己嫌悪に襲われて、思わずクッションに顔を埋めた。出来ることなら吐き出した言葉を全て取り消してしまいたい。
 剛の頭から今朝の記憶を消去してしまいたい。
「由岐人、水。・・・大丈夫か?」
「大丈夫だよっ」
 クッションに顔を埋める由岐人に窒息するんじゃないのか?と剛は思わず思ったのだが、由岐人はパッと顔を上げて剛の手から水を奪い取った。
 耳が赤い。
「はぁ」
 一気に飲んで、由岐人は大きく息を吐いた。
「剛、今日休み?」
「ああ」
「・・・じゃあ店まで送ってって」
 由岐人はそう言うとパッと立ち上がった。言われた剛は言葉をまだ飲み込めないのか、由岐人の顔をまじましと見ている。
 その視線から逃れるように由岐人は剛に背を向けて、リビングの扉に手をかけた。
「あ、着替えてくるからベーコンエッグとパン焼いておいてね」
 それだけ言うとさっさと廊下に出ていった。そそくさ、と。
 由岐人は、"送って"なんていうのは相当根性がいったのだけれど、今日は色々恥ずかしい事いっぱいなので今更一つくらい増えたっていいさ、と開き直ってみたのだ。
 ―――――だって今日は、25日だし。
 ずっと運転させなかった自分の車を、運転させてやってもいい。
 そんな言い訳を、由岐人は自分にしてみた。
 だから、いいじゃないかと。



 一方剛は、由岐人が出て行ってからゆっくりとその顔に笑みを浮かべた。
 ―――――さすがクリスマス、いい日だ。
 そう思って。
 ペアリングが、由岐人にとってまだ重いんじゃないかなんて危惧した自分の顔をパンと叩いた。
 考えすぎて、回しすぎた気遣いが返って由岐人を心配させてしまったから。
 だから明日から目一杯バイトして、かっこいいペアリングを送ろうと心に誓って、剛は由岐人のためにベーコンエッグと、サラダくらいは作るためにキッチンに立った。
 ―――――玉子はサービスで、二つにするか。









end

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