サンタの災難・後




 一方、タクシーに押し込められた響は、今更ながらに抗議の声を上げた。
「服!」
 っていうか、荷物も全部置いてきてしまった。
「明日も出勤するんだから、明日取って帰ればいいだろう」
「原付だって!」
「明日持って帰ればいい」
「行きはどうすんのさっ」
「タクシー乗れば?」
「不経済!!」
 もう、っと響は頬を思いっきり膨らます。
「じゃあ、あ、そうか送ってくよ」
 いい事を思いついた、と咲斗が嬉しそうに言った。
「出勤時間違うじゃん!!大体仕事だってまだ終わってなかったのに」
「小城はいいって言ったよ」
 シレっと言われて響はますます頬を膨らます。確かに、引き止める気は無いらしく笑顔で手を振って見送られたけど。
 でも、あの片付け大変だと思う。今日は特に忙しくて洗えないで流しに置かれたままになっているグラスも相当あったし、料理のお皿だってソースがなかなか取れない・・・・・・
「ああ!!」
「今度は何?」
「小城さんの料理お裾分けしてもらえるハズだったのにーっ、忘れてた!!食べたかったのにっ」
 帰りに貰えるハズだったのに咲斗さんの所為だ!!と、響はじとーっと咲斗を見る。仕事の間中、ずっとずっとずーっと楽しみにしていたのに。赤ワイン煮。
「もっと美味しいモノ食べさせてあげるから」
「そういう問題じゃないのっ」
「響」
「何!?」
 キっと睨んだら、咲斗の顔がどんどん近づいてきて――――耳打ちされた。
「あんまりゴネると、ここで押し倒すよ?」
 ―――――ヒ・・・ィっ
 え、笑顔が怖い。咲斗ならやりかねない、ということは響には十分わかったらしい。凄く凄く不本意ながらも黙ってしまった響を、咲斗はクスクスと笑みを浮かべて見つめた。
 まったく響は、わかっていないと思う。
 頬を膨らませて、キっと上目遣いに見て来る赤いサンタの格好がどれだけエロいか、可愛いか。こんな姿を仕事中していて、他の客にも見せたのかと思うと腸が煮えくりかえる。もちろんさせた小城にも思うところはあるのだが。
 それはそれできっちり仕返ししてやろうとは思っているが。
 自覚の無い響も悪い。
 だから女なんかが勘違いして抱きついたりするんだ。
 まったく。
「・・・咲斗さん?」
「なに?」
「なんか、怒ってる?」
「え?」
「ここ、皺寄ってる」
 そう言って響は眉間を指差した。その顔が怒っていたはずなのに、おろおろしててかわいい。
 ああ、かわいい。
 だから思わず、咲斗は響にちゅっとキスしてしまった。
「咲斗さん!!」
 途端に響の顔が怒り顔になる。眉がきりきりとつり上がっていく。
 ああ、可愛くてホントたまらない。
「お客さん、着きましたよ」
 思わずぎゅーっと抱きしめてしまおうかと思った矢先、そんなものは見たくないとでも思ったのか、咲斗からすると、とても悪いタイミングで運転手から声がかかった。
 ここまで掛かった時間もなんだかいつもより早く感じられるが・・・それはまぁいい。
「どうも」
 咲斗はそう言うとさっさと金を払って、響の腕をつかんでエントランスをくぐった。
 家に着いたのだったら、早く部屋に戻って思う存分抱きしめた方がいい。誰の目にも邪魔されないところで。そう、タクシーの運転手にだって響のこんなかわいい格好は見せたくないんだ。
 エスカレーターをイライラしながら待って、直ぐに飛び乗った。
「咲斗さんっ」
「なに?」
「・・・腕、離して」
「なんで?」
「ちょっと、痛い」
 ぎゅーって掴まれた腕は、ホントはちょっとじゃなくてだいぶ痛い。その痛さの分だけ、咲斗はなんか思うところがある、それは響にもちゃんと伝わったけど痛いものは痛くて。
「ああ、ごめん」
「・・・・・・」
 腕を掴んだ手は、緩められたけど離されなかった。
 ―――――逃げないのに・・・
 なんで掴んでるんだろ。響はそう思ってチラっと上目遣いに咲斗の顔を見た。
 その咲斗は上がっていく階表示をいらいらしながら見つめて、着いた途端、扉もまだ開ききらないうちに出てマンションの部屋に入った。
「!!・・・んん――――っ」
 その場で響は壁に押し付けられて、咲斗に唇を塞がれた。舌が潜入してきて、歯列を舐められて割って入られて、響の舌を絡めて。
 響は咲斗の仕立てのいいスーツをぎゅっつ掴んで深い皺を刻んでいく。
 予想もしてなかったいきなりの濃厚なキスに、響の口の端からは唾液が流れてポツポツっと赤いサンタの衣装にシミを作った。
「はぁ・・・っ」
 濡れた音がして、響は息苦しさに咲斗を引き剥がそうと抗う。
「響」
「苦しい・・・よ」
 ようやく離れた咲斗に今日は抗議の声を上げて、再び唇を重ねようとする咲斗を止める。
「こんなとこで、ヤダよ」
 玄関先なのに。
 別に誰がくるってわけじゃないけれど、やっぱり響は落ち着かない。
「じゃあベッド?」
「ん・・・、先にシャワー・・・」
 お酒とタバコのにおいが付いているのが自分でもわかる。咲斗からも同じようにお酒とタバコのにおいがする。その合間に香る香水も。
 それが嫌だ。それなのに――――――
「それはダメ」
「え?」
 けれど咲斗は響のささやかな望みをあっさりと却下して、そのままベッドへと抱えるように連れて行った。
 バフっと音がして響の身体がベッドに倒される。
「咲斗さん!!」
「――――エロい」
「はぁ!?」
 いきなり言われたその言葉に、響は素っ頓狂な声を上げた。
 ―――――なにが、エロいって・・・?
「サンタの格好。なんか、やっぱり許せないな・・・」
 白いシーツに、赤いサンタの衣装を着て瞳を潤ませて見上げる響が可愛すぎて、咲斗は少し忘れていた気持ちが蘇ってきて腹が立った。
 そんな格好を人に見せ続けてたなんて。
 改めてそう思うとなんだか咲斗は気持ちの収まりが付かなくなってしまってきていた。自分の傍にいない時間、響は誰とどんな風に接していたのだろう。
 その中にもしかしたら響に、いらぬ気持ちを抱く者が出てしまうんじゃないだろうか、と。
 そんな想像をした瞬間胃がカっと熱くなってしまい、突き上げる衝動のまま咲斗は響の肩を押してベッドにその身体を押し付けた。
「咲斗さんっ」
 咲斗の瞳の色が、暗い。
 響は、腕を伸ばして咲斗の頬をびよーっと横に引っ張った。
「ひょう?」
「なんか今、マイナス思考だった?」
 もうっと響が怒った様な、それでいてしょうがないなぁと口元には笑みを浮かべている。
「何考えてんのか知らないけど、怒ってるのは俺だよ?仕事の途中で引っ張って来て。俺の人権無視してさ」
「―――――ごめん・・・」
 響は言ってる言葉は怒ってるけど、顔は怒ってなくて。その顔を見ていたら咲斗は自分の中に渦巻き出していた気持ちがゆっくりと霧散していくのを感じた。
「これだって小城さんに言われて仕方なく着たんだから。ホントは俺だって着たく無かったよ・・・」
 情け無さそうに言う響が、やっぱりかわいくて咲斗はその顔に知らず知らずのうちに笑みを浮かべている。
「それは小城に抗議しておくよ」
 咲斗の言葉に響は真っ直ぐ咲斗を見つめてから、クスっと笑みを零した。
「じゃあさ、シャワー浴びてきていい?着替えたいし。その方がいいだろ?」
 響がこれでこの話は終わりとばかりに起き上がりかけて、咲斗は再び響の肩を押してその動きを止めた。
「シャワーは後でいいよ」
「咲斗さん!?」
「サンタを抱くなんて、こんな機会じゃないと無いしね?」
 そう言って浮かべた咲斗の笑みは、すっかりいつも通りで。
「ダメだって。借り物なんだかから!」
「かまうもんか」
 ―――――というより、こうなる事は小城もわかってると思うけどね。
 と思ってみても咲斗は、一応それは口にしないでおく響のために。そうして響を押さえつけたままサンタの服の上から乳首をくにっと掴むと、
「んっ――――ああんっ」
 響がビクッと身体を揺らして甘い声を上げた。
 サンタの衣装はそんなに厚い生地じゃなくて、つままれれば刺激がダイレクトに響に伝わった。その反応に咲斗は何を思ったのか、今度は指の腹でゆっくり撫で始め、そして揉みこむように弄り出す。
「やぁ・・・っ、だめって・・・」
 快感に流されそうになりながらも、響はまだ抗おうと些細な抵抗の姿勢を見せる。しかし咲斗は押さえつける力を緩める事は無く、緩慢にも感じる緩い愛撫を繰り返すと、響の身体にもどかしい快感がじわじわ広がっていく。
 思わず、焦れったさに腰が浮くと今度は咲斗が指先で強弱をつけて、尖ってきていた先端を弾いた。
「ああ・・・っ」
 響は止めさせようと咲斗の手首を掴む。
 それと同時に濡れた瞳が咲斗の瞳とぶつかった。それだけで、ドクンと脈打ったのが響にもわかった。
 もう、シャワーが先なんて、言ってられない。
 その熱は十分咲斗にも伝わったらしい。響の上に乗っかかっていた身体を一瞬浮かして、素早く響の下半身を剥き出しにした。
「――――っ」
 外気にさらされて、ヒヤっとして響の身体が一瞬竦む。
 裸を見られるのは、もう何十回目かわからないけれどやっぱり少しばかり恥ずかしくて隠したくなるけれど、すっかり咲斗に上に乗られていてはそれももう叶わない。
 咲斗の手が響の立てられた膝にかかって、ゆっくりと開かれた。
 クスっという咲斗の小さな笑みが聞こえて。
「勃ってる」
 いちいち言わなくて言い事を口にするから、響は耳を赤らめながらただぷいっと顔を横に向けた。
 咲斗はそんな響の仕草にますます笑みを深めて、くるりと響の身体をひっくり返した。そうして、双丘に指をかけてしばらくその肌触りを楽しむように揉んだ後、左右に割り開いた。
「・・・・・・っ!」
 普通なら人の目になんか触れられない場所に視線と、外気を感じて響の背中が揺れた。
「やだ・・・っ」
 そこに、濡れた柔らかい感触を感じて響は思わず声を上げて、逃げるような抵抗を見せた。けれど、咲斗にしっかり抑えられていて逃げる事など出来るはずも無い。
 ぴちゃりと音がして、襞を濡らしていく。それは、咲斗の舌だった。
「やだって・・・っ。普通に、ジェルとか――――っ」
 これに激しい羞恥を憶える響は、とかくこの行為を嫌がるのだが咲斗はしたいらしい。咲斗は響の抵抗などまったく気にせず、舌先を中に入れる。
「いやぁぁ・・・っ」
 響は逃げようとベッドをずり上がろうとするが、中に入ってきた舌は簡単には出て行かない。唾液を垂らし、執拗なまでに濡らして行く。
 響は、嫌なのに行為に慣れて快感を欲する身体は自分の気持ちとは裏腹にどんどん熱くなっていくのがわかる。舐められて、堪えられない蜜がシーツを濡らしていた。
 それに満足したのか、咲斗はやっと舌を抜いて代わりに指を入れた。
 響はすでにぐったりとしてその胸をぺたりとシーツに押し付け、咲斗にされるままに腰だけを高く突き出していた。
 咲斗はすぐに指を2本にした。
 快感を知っている中はその指を奥まで導こうとするようにヒクついて、締め付けた。咲斗は2本の指で中を掻き回して広げていく。
「咲斗さん・・・っ」
 響が、熱に犯された様な声で咲斗を呼ぶ。
 指がもどかしくて、早く欲しくなっているのだ。
 咲斗は響の耳元の唇と寄せて、そっと
「欲しい?」
 と、囁く。
 響は、躊躇うでもなく頷いた。イイところをゆっくり擦られて、感じる前立腺は微妙に外された咲斗の愛撫に、響の頭の中はすでに何も考えられなくさせられていた。
 ただ、欲しくて仕方が無い。
 それしか、今は考えられないから。
 そんな響に、咲斗はゆっくりと指を引き抜いた。
 上半身はまだサンタの衣装のまま。下半身だけ脱がされたその姿をしっかりと見ていたくて咲斗は再び響の身体をひっくり返した。
「――――」
 ゴクっと咲斗の喉が鳴る。
 潤んだ瞳と、真っ赤な衣装。膝を立てさせれば、濡れたものが赤い服の合間から見える。
 咲斗はまだ衣服を着たままだった自分も、下だけを脱ぎ捨てて響の膝を抱えた。
「入れるよ」
 咲斗はそう言うと、言葉どおりゆっくりと響の身体を開いていく。
「んん・・・っ、はぁ・・・ああ」
 一瞬の痛みの後、待っていた見知った快感が響の身体を侵食していく。ゆっくりな動作がじれったくって、もっと奥に欲しくて響は身体をくねらせた。
 けれど咲斗は奥に入ってくる前に出て行き、そうしてまた入ってきた。その動作を何回も繰り返しながらゆっくりと奥を犯されていく。
 やっと奥まで届いたとき、咲斗の動きが止まって代わりに指がサンタの衣装のボタンにかかった。
「あ・・・」
 胸が、晒される。
「ああ・・・んっ――――やぁ・・・っ」
 咲斗の唇が、響の乳首に押し当てられて舌先で転がされた。その所為で、中がぎゅっとしまったのがわかる。
 胸から、ジンっとした快感の波が広がっていく。
 歯で甘噛みされれば、背中が浮いた。
 乳首がジンジンする。けれど、それだけじゃあ物足りない。
 強請るように腰を動かしたら、
「ん?」
 咲斗はとぼけるような顔で響を見た。それが物凄く腹立たしいけれど、そんな事は言ってられない。
「シテ・・・」
 もう頭がおかしくなってしまう。
「動いてよぉ・・・・・・っ」
「いいよ」
 咲斗は響の言葉に満足したのか、とっても嬉しそうににっこり笑うと響の唇にチュっとキスをしてから、膝を抱えなおした。
 ぐっと腰が引かれる。
「あああ・・・っ」
 その瞬間、奥まで一気に貫かれた。
 また引かれて、また奥までくる。
「ああ――――、ふぅあ・・・、ああああっ」
 何度も何度も繰り返されるそれに、響は咲斗の熱さを感じて、
「――――あああっ、・・・あああ!!」
 耐え切れなくなって、放った白濁が赤いサンタの衣装やはだけた胸に飛び散る。その瞬間、響の中に咲斗が果てた。
 その感覚に響が息を震わせた。
 身体が、熱い。
 ゆっくりと咲斗が出て行くと、中に放たれたものがとろりと響の腿を伝い落ちた。
「響・・・」
 咲斗がそっと響の髪に触れて、汗に張り付いたそれを掻き揚げる。指先が、響の頬を掠めた。
「・・・咲斗さん」
 イッたばかりの余韻に濡れた瞳と上気した頬で響は咲斗を見上げて、その名をそっと呼ぶ。そしてゆっくり腕を持ち上げて咲斗の肩に回す。それに引き寄せられるように咲斗は顔を寄せて、響に甘いキスをした。
 キスが離れると響は、
「シャワー・・・」
 と咲斗に強請る。仕事の後で汗かいて、セックスまでしたんだからなんだか身体がベタベタしてて気持ちが悪い。
「いいよ」
「良かったぁ」
 本当は疲れてて、なんだかこのまま眠ってしまいそうな響は咲斗の返事にほっとしてふにゃっと笑った。

 けれど響の望みは半分だけしか叶わなかった。
 シャワーには当然咲斗もくっついてきて、響は結局シャワーの途中でイかされてドロップアウトしてしまったのだった。
 その響を咲斗がどんな顔で受け止めたか、響は知らない。








 朝、厚いカーテンの向こうにはお日様が昇っている時間。けれど2人のとってはまだ睡眠時間半ば。一般の人にとっては夜中にあたる時間。
 何故か不意に響は瞳を開けた。
 別段、嫌な夢を見ていたわけでも、トイレに行きたくなったわけでもなかったのだが、パチっと瞳が開いて目が覚めてしまったのだけれど。
「・・・・・・あ・・・」
 その瞳に見えたのは、すやすやと寝息をたてる咲斗の顔。
 ―――――睫毛長い・・・
 スーッと通った鼻筋と、綺麗に生え揃った長い睫毛。
 穏やかな寝顔。
 ―――――ん・・・そういえば俺、いつ寝た?
 響は今の状況と自分の記憶が繋がらないことに気づいて、思い返してみること数秒、その耳を真っ赤にして考えるのを止めた。
 ―――――シャワーちゃんと浴びたかったのにっ。まったく。
 ホント咲斗さんは時々よくわからないよな、と響は一人心の内で呟いた。普段は普通に優しくて、ちょっと過保護すぎる気がするけどでもまぁ、心配性なんだなって思える範囲内で、ちょっと贅沢しいだけどたぶん稼いでいるお金からしたら全然普通なのかもしれないと思う。
 だけど時々物凄く嫉妬深くなって、手に負えない。
 俺の事信じて無いんじゃないらしいんだけど。
 じゃあなんでこんなに嫉妬するんだろう。そりゃあ俺だって咲斗さんがサンタの衣装でフロアに立って、お客さんに大人気だったとか言われたらさ、ちょっと気にはなるけど。
 ―――――エロいって・・・
 なんか違う気がする、と響は大きく息を吐き出した。
 咲斗はやっぱりすーすー言いながら眠っている、ぐっすりと。その寝顔見ていたら、響は少し笑みを漏らしてから、まぁいいかっという気持ちになった。
 咲斗と由岐人の根底にある、どうしようもない寂しさと不安。それが、響にもわからないわけじゃないから。
 親に愛されなかった事。
 初めて心から愛した人に、裏切られてしまった事。
 傷付いた事。その傷が、決して浅くは無かった事。
 響はその全部を知っているから、響はもぞっと動いて手を伸ばして咲斗をぎゅーっと抱きしめた。
 いつかそういう気持ちが全部無くなってしまえばいいと思う。
 良い意味で過去を忘れて、ただこうして出会うために全部必要な事だったんだなって納得して、思い返してみても胸が痛まなくなればいいと思う。
「ん・・・」
 ―――――あ・・・
 ぎゅーっとしたら咲斗が腕の中で小さく声を漏らした。響は、起こしてしまったかと息を詰めて咲斗を見つめると、咲斗はそのまままた穏やかな寝息をたてだした。
 ―――――良かった。
 起こさないで良かった。
 良い夢を見ていると、もっといいけど。
 ああでも、疲れているから夢を見ないでぐっすり熟睡してるほうがもっといいかな。
 響はそう思いなおして、咲斗の胸の顔を寄せて瞼を閉じた。
 起きたら、おはようって笑って言おう。
 それから、ちょっと怒ったふりをしてみようかな。
 そうだな、そうしないと咲斗さん全然反省しないし。
 でも、朝ごはんは咲斗さんの好きなモノにしよう。
 こないだ咲斗さんが貰ってきた朴葉味噌を出そうかなぁ・・・。

 あ、それより河豚の一夜干しにして――――・・・・・・

 たらこを軽く炙って・・・・・・

 ・・・・・・いや、それよりネギ入りの卵焼きの方がいいかなぁー・・・

 お豆腐をあったかくして湯豆腐風の、あれ・・・好評だった、し・・・・・・

 ――――味噌汁の具は・・・だいこん――――――・・・・・・・・・


「――――――すぅー・・・・・・」




 そのあと響は、ちょっと豪華な朝食を咲斗と二人で囲む夢を見た。


 それは、ほんのすぐ先の、現実へと繋がっている―――――――――








end



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