「亜貴(アキ)、藤本先輩来てるぞ」

「え!?」

 賢(ケン)に言われてローカを見ると、そこに伊織(イオリ)が立ってこっちを見ていた。

 今日は、先生の話が長くてホームルームが長引いてしまったから、きっといっぱい待たせてしまっている。僕は慌てて鞄をつかん

で、ローカに出た。

 賢が、また明日って言ったような気がしたけど、僕の意識はもう賢にはなくて、伊織にしかなかなくて、返事もしないでローカに

飛び出す。

「伊織、ごめんね。先生、話長くて」

「大丈夫。そんなに慌てなくていいよ。亜貴は、すぐ躓いたり転んだりするから」

「なっ!大丈夫だよ」

「心配なの。僕の知らないところで怪我なんかして欲しくないから、ね」

 うっ。

「えっと、今日も、生徒会だよね!?」

 僕は、どきどきを隠すように慌てて言った。そんな僕の事なんて、全部わかってるみたいに、伊織はくすくす笑う。

 伊織は、僕のいとこでひとつ年上の、この私立四條学校の2年生。彼は1年の時から生徒会に席を置いていて、この春の生徒会

選挙で、前生徒会長の推薦を受け会長に立候補、見事当選をした人。

 ふとした時に黒髪をかき上げる仕草がかっこいい。

 普通に見て、かっこいい部類に入るなぁて思う人。 

 すらっと伸びた身長に、均等のとれた体躯で、どこにいても目立つ。無表情の綺麗な顔に宿る、黒のキツそうな切れ長の瞳が、

怖そう、近寄りがたいって言われる事もがあるけど、僕は知ってる。

 伊織がどんなに優しそうに笑うか。

 ずっと、一緒に育ってきたから。





 僕の実家は埼玉にあって、伊織はお隣さんで、小さい時からずっと一緒に育ってきた。伊織が中学にあがる年に、お父さんの仕

事の都合で、彼は静岡に引っ越してしまうまでは。

 あの時は、悲しくて寂しくて、つらくて、いっぱい泣いた。

 別れの朝、やっぱり泣いてしまう僕を、伊織はぎゅって抱きしめて、ちょっとの辛抱だよ、なんて言って慰めてくれて。あの時は、た

だの気休めだと思っていた言葉、気休めなんかじゃなくて。

 僕が中学3年になる春休み、伊織が遊びにやってきた。

 この春から、東京の高校に入学する事になったって。凄い有名校で進学校だから、親も喜んで、一人暮らしも許してもらったって。

 その時、僕は純粋に"凄い"って思った。

 東京なら、ちょこちょこ遊びに行ける!なんて喜んで。

 そしたら伊織は、僕にも来いって言ったんだ。

 僕も、頭はそんなに悪い方じゃなかった、というよりむしろ出来はいい方だった。だから、もうちょっとがんばれば、合格圏内ってと

こ。

 それになにより、東京で一人暮らし――正確には伊織と二人暮らしだけど、なんかそういうのって凄いかっこいいって思って、あこ

がれて、ちょっと背伸びもしたくて、がんばって両親を説得した。

 当然、伊織も説得してくれて。

 最後には、親も認めてくれて。

 僕は晴れて、この春から東京で伊織との新しい生活が始まった。

 そう、僕にとっては同居。

 でも、伊織にとっては、同棲だった。

 僕は全然しらなかった。

 伊織が、そんな風に僕をずっと想ってくれた事。

 離れ離れになったあの時から、この計画を考えて、3年かけていい子を演じて、親や先生の信頼を勝ち取って、一生懸命勉強もし

て、準備してくれていた事。

 けど、

 いきなり、そう言われて、

 好きだって言われて、

 僕は正直戸惑って、最初はちゃんといい返事は出来なかった。

 近すぎて、その存在の大きさに気付かなくて。

 一度は、拒否してしまった伊織の手。

 その想い。



 今は、何より伊織が好きで、伊織のいない生活なんて考えられないけど。

 伊織を拒否するなんて、絶対出来ない事ないけど、

 一度、してしまった事は、後でどんなに後悔しても、取り消すことなんて出来ない。



 きっと、それは今でも、僕と伊織の間にある溝・・・・・・・・・・・







「なんで?」

「いいから、ここで脱いで。全部」

 ホームルームの終わった教室から、まっすぐ連れてこられたのは、生徒会室ではない、体育館のステージの奥。どん帳や、垂れ

幕、式典で使われる椅子や机がごちゃごちゃと置かれている、暗くて奥まった場所。

「伊織・・・」

 しかも、放課後体育館は、バレー部が練習で使う事になっているのだ。

 僕は、こんなところで、脱ぎたくなくて、なんとかならないかと、上目使いで伊織を見る。けれど、ぶつかった伊織の瞳が笑ってな

い。

 こういう時の伊織を僕は知ってる。これが、溝。

「僕、なんかした?」

「今日、美術の時間、スケッチだったよね?亜貴がいた場所、俺の教室から丸見え」

「・・・・・・・・っ」

 なんとなく、思い当たった。

「わかったみたいだね。あの時、亜貴はお友達の賢クンに抱きしめられて、いちゃいちゃしてた。それを俺がどんな思いで見ていた

かわかる?」

「ちがっ、いちゃいちゃなんてしてないよ!ただふざけてただけ」

「ふざけてただけで抱き合うの?」

「抱き合ってないっ!あれはっ」

「亜貴、言い訳は後で聞く。俺も時間ないから、早く脱いで」

 有無を言わさない伊織の声に、僕は、泣きそうな気持ちになりながら、どん帳の陰になるように立って制服を脱いだ。もし、ここ

で断固拒否しても、伊織の手で剥ぎ取られるだけ。そして、お仕置きの時間が長くなるだけ、それが分かっているから。

 全裸になった僕は座らされ、頭上で手をひとつにくくられ、肘を伸ばされた状態で、天井から垂れている、普段はどん帳をしばっ

たりする紐にくくりつけられる。余裕がないのが、ちょっと痛い。足は膝を立てて思いっきり広げさせられ、そこら辺にある適当な椅

子の足に縛られた。

「いおりぃ・・・・・・・・」

 手が、痛い。足の関節も、キシキシ言う。

「いい眺め」

 伊織はポケットからローターを二つ取り出して、僕の左乳首にテープで止め、もう1個は僕のモノの幹にくくりつけ、スイッチを入れ

る。

「やっ!やめ、あ、ああぁ・・・・・・・・っ」

 さらに、右乳首には、洗濯バサミでつける。

「ひぃっ・・・・・・いた・・・・・・いっ・・・・ん!」

 なんでそんなの持ってるんだよっ!って怒鳴りたかったけど、小刻みに動く振動と痛みに、身体が震えてきて、すでに言葉がうま

く紡げない。

「イキたかったらイッていいよ。ま、それぐらいの刺激でイケるのは、最初くらいだろうけどねぇ。淫乱になっちゃった亜貴には」

「あぁ――・・・ん・・・はぁ・・・・・」

「それとも、誰かを呼んで慰めてもらう?」

 そんな事、言わないで。

「や・・・・・・だぁ・・・・・・・・ひぃっ―、んん・・・・・・・」

「ここからじゃぁ、ステージからは見えないけど、呼べば聞こえるかもよ?」

 伊織、伊織は僕が誰かにやられちゃっても平気なの?

「いやぁ・・・・・・・ふっ・・・ん・・・・」

「ボールが転がって来たら、どうなるのかな?見つかっちゃうかもね?」

 伊織は、誰かに見つかってやられたらいいって思ってるの?

「んんっ・・・・・・・・・・ふっ」

「そしたら、どう思うだろうね?こんな所で、裸で縛られて、よがってる亜貴をみたら」

「わ、ないでぇ――、いわ、ないで、よぉー・・・・・・」

「ふふ、いい子にしててね。バレー部の練習が終わったら、迎えにきてあげるから」

 行かないで。行かないでよ、伊織。

「あ・・・・・・はぁ、おり・・・・・・・いおりぃ・・・・・」

 一人にしないで。

「じゃあね」

 伊織は僕の頬に、軽いキスをして、行ってしまった。

 僕の、思いは届かなかった。

 伊織は、時々、こんな事をする。

 僕には、その理由が分からない。

 怖くて、聞く事もできなくて、いつも心で叫んでる。

 でも、いつも、届かないけど。

 いつか、届く日は、来るのかな・・・・・・・・・・・










 あれから、どれくらいの時間がたったのだろう。

 バレー部の練習が始まって、最初はびくびくしてたけど、今はもう全然余裕がない。

 声も、遠くて、もう、苦しくて。

 伊織の言ったとおり、イったのは最初の2回だけ。1回目はすぐイっちゃったけど、2回目は時間がかかった。でも、イケただけ、楽

だった。ローターの単調な動きに慣れた身体は、それくらいの刺激では足りなくなって、もっと強い刺激が欲しくなって。イクにいけ

ない快感に、ただ、たらたらと雫が流れるだけ。 

 全然足りなくて、後ろも疼いて。

 終わる事のない、中途半端な快感の波に、唇を噛み、声を殺して、ただ、身体を震わすだけ。

 手は痺れて感覚がないし、足の関節も凄く痛い。

 僕は何もしてないのに。

 あの、美術の時間、好みの女の子の話になって、きゃしゃな子がいいねぇーとかぽっちゃりもいいよとか言って、抱き心地がいい

のはぽっちゃりだろって真治が言ったら、賢がこれくらいがちょうどいいーって僕に抱きついてきて。

 ただ、そんなたわいもない会話、なのに。

 ただ、ふざけてただけなのに。

 ・・・・ふいに涙がこぼれた。

 伊織のバカ!バカバカバカバカバカっ!!もう、早く、迎えに来てよ・・・・・・・・

 僕の、股の下あたりに、たらたら垂れる雫と汗で水溜りが出来て、ぬるぬるして気持ち悪い。

 お願い、早く、迎えに来てよ。

「いおりぃ・・・・・ひっ・・・・っ」

 腕、痛いよ。

 足も、痛い。

 ねぇ、抱きしめてよ。

「うえぇ・・・・・」

 優しく、キス、してよ。

「はぁ・・・・・・・・・ひっ・・・・・ひっく・・・・・・・うう」

 伊織、伊織、伊織。

「いおりぃ・・・・・・・・うえ・・・・・・・・・ひっ、ひっく・・・・・・・」

 1回、声が洩れたら、もう止まらない。

 もう、バレー部の声聞こえないのに。

「いおりぃ・・・・いおっ・・・・・・・うえ・・・・ん・・」

 伊織、まだ来ないの?

 もしかして、僕の事忘れちゃったのかな?

「ふっ、えっく・・・・・・い、おりぃ・・・・」

 忘れて帰っちゃった?

 もう、いらないから捨ててかれちゃったのかな・・・

 そう思うと、不安で不安で仕方なくなる。

 ただ、待ってることしか出来ないから。

「いおりっ、いおりぃ・・・・・・・・・」

 僕を、救ってくれる唯一の名前を、呼ぶ。声が、届いて。

「いおりぃ、いおっ・・・・・・いおりぃっ」

「はぁい」

「伊織!」

 待ち望んだ、声に僕はパッと顔を上げる。そこには、伊織が立ってた。ちゃんと迎えに来てくれた。

「いおりぃ・・・・・」

 僕の両目から、新しい涙がぽろぽろこぼれる。

 この時の、僕の気持ちをうまく伝える事はできない。

 ただ、うれしくて、凄いほっとして。

 迎えに来てくれたうれしさ。

 忘れられてなかった、うれしさ。

 まだ、その手が僕にむかられるうれしさ。

 苦しいのも悲しいもの、取り除いてくれるのは、伊織だけだから。

「何!?泣いてたの?え、どっか痛い!?」

 あまりにもぼろぼろ泣く僕を見て、伊織は慌てて拘束を解いてくれた。

 僕は、伊織に手を伸ばして、抱きしめたかったのに、腕が痺れてうまくあがらない。

「ふぇ・・・・ん・・・・・・・うえ・・・・えーん・・・・・・・・・」

「泣かないで。泣かないでよ。ね?ごめん。腕、引っ張りすぎてたね。ごめんね?」

 伊織がおろおろしてる。

感じすぎて泣くのはいつもだけど、これはそうじゃない涙。伊織にもそれは伝わってるらしい。

 でも、泣いてるのは、腕が痛いからじゃないよ。

 心が痛いから。 

「も、はずしてっ」

「ああ、うん」

 伊織は、僕の胸についている、洗濯バサミとローターを取ると、下についてるローターもはずしてくれた。

そこは、信じられないくらい熱くなって、反り返って、どくどく脈打ってる。

「ここ、つらいでしょ?」

 伊織は、勃ち上ってるぼくのモノを優しく撫で上げる。

「あぁ!ダメ・・・・・・・・ひぃ・・・・・・・・はぁ、ああっ―――」

 指で絡めて、上を緩く円を描くようにいじって、根元から、扱きあげえるようになで上げる。くぼみのあたりをくりくりと、いじられる。

「あっ・・・・・・・・・いっ・・・・あぁぁ――・・・っ」

 筒状に丸めた指で、何度も上下にしごく。

 ぬるつく指が、敏感に感じる部分でうごめいて、快感が駆け上がってくる。

「あぁ――っ、ダメェ・・・イク・・・・・・・・ああああぁぁぁぁ――――っ!」

 長い快感の果ての絶頂は激しくて、全身がしなる。身体がビクビクとはねて、気が遠くなりそうになった。

 そのまま、僕は力が入らなくてぐったりとしていると、伊織が手早く飛び散ったものを拭いて、後始末をしてくれた。

「亜貴、大丈夫?ごめんね?」

「・・・・ん」

「立てる?ほら制服着て、帰ろう」

「い、おりが迎えに来るの遅いから」

「ごめん、僕ももっと早くくるつもりだったんだけど、色々あって長引いちゃったんだ。ほんとごめんね」

「もう、来ないかと思った。忘れて、帰っちゃったのかなって・・・」

 また、涙が頬を伝う。

「ばかだな。俺が亜貴を忘れるわけないだろう?」

 伊織が、そっとその舌先で僕の涙をぬぐってくれる。

「ほんと?」

「本当。なんで、そんな心配するかなぁ。ほら、立って、パンツはいて」

 僕はのろのろと立ち上って、パンツをはいて、ズボンもはく。立ってるとちょっとふらふらするから、伊織に支えてもらう。

 こういう時、学校からマンションまで近いのが助かる。こんな状態で満員電車なんて絶対乗りたくない。

「伊織・・・・・・・・」

 伊織は、もう怒ってないのかな? あれは、誤解だけど、伊織をこんな風にしたのは、きっと僕の所為。

「うん?」

 僕が、好きなのは伊織だけだからね。

「ううん、早くかえろ」

 何も、聞けない。何も、言えない。

「うん」

 聞きたいけど、聞けない。伝えたいけど、伝えられない。

 怒ってるって言われたら、

 あの時みたいに思ってないって言われたら、

 思いを、拒否されたら。

 僕はもう、立ち直れない。

 



 伊織が、ちょっとした事で怒って、こんな事するのは、

 まだ、僕を怒ってるから?

 僕が、好きって言ったの信じてないから?

 僕のこと、飽きてきてる?

 優しく抱きしめて、キスして、好きだよって言ってくれるのに。

 それはしてる時だから・・・・・・・・なの?

 全然自信ない。

 一緒にいればいるほど、伊織みたいになんでも出来てかっこいい人が、僕のそばにいてくれる事が信じられない。

 何も、知らなくて、わかんなかった子供の頃には感じなかった痛み。

 不安。

 後悔。

 焦り・・・・・・・




 同居、初日、伊織に告白された日。

 僕が、拒絶してしまったあの日。




 あの日から、僕は色んな事された。

 ―――絶対、離さない。

 色んな思いをした。

 ―――その身体にわからせてあげる。

 そしてわかった事。

 ―――俺の、思いを。

 僕も、伊織が好きって想い。

 伊織がそばにいてくれないと、僕は僕でいられなくなるって事。



 伊織は、伊織はどう思っているの?今でも、あの時と同じ想いでいてくれてるの?

  ―――亜貴、亜貴・・・好きなんだ。好きなんだ・・・・・・・・・

「伊織」

 不安になって、その名前を呼ぶ。

「ん?どうしたの?」

 僕が呼ぶと、絶対振り返ってくれる伊織。

 僕は、まだ伊織の心を傷つけたままなのかな?

 その傷が癒える頃、僕は許されるかな?

 ちゃんと迎えに来てくれるって事は、まだ僕の事、好きって事だよね?

 そばにいてもいいんだよね?

「亜貴?」

 僕は、伊織の背中に抱きついた。

 捨てないで・・・・・・・・・・・・・・



 お願い、そばにいて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 許されなくても、いいから


















短編へ        top    novels






*よければヒトコト感想をお願いします*
好きな登場人物は?   感想  





あとがき
   200hitキリリクー学園物、羞恥物という事でしたか、羞恥物,,,,,,,じゃないですね、放置モノでした(ゴメンナサイ)
   この子達はは、前から私の中にいて、たまたまリクと合うかなって思って書いてみたのですが
   本当はちゃんとラブラブで落としたかったんですが、落とせなかった。。。
   短編モノ自体が、苦手なので、状況や気持ちがうまく読者様に伝わったか心配です。
   亜貴目線で書いたので、特に伊織の想いがうまく伝えられなくて、何回も書き直したんですが,,,,
   いつか、ちゃんとこの子達の恋も書けたらいいなぁ、なんて思います。