海の上の籠の中で 後編32





 ―――――ベッドはそこにあるのに、なんでラグの上なんだろう。
「なんだ?」
 ふっと笑ったアオイをデュークが見下ろしている。
「ううん、なんでもない」
 でもいいや。どこでもいい。
 デュークがいるなら、どこでだって。
「変な奴だな」
 デュークはそう言うと、やっぱりクスクス笑いながら鼻の頭にキスをした。
 衣服は既に無い。
 お互い何も着ていなくて。
「・・・んっ」
 アオイの鼻から声が洩れる。
 するとデュークがわざと身体を動かした。
「はぁっ―――――まだ、だめって・・・」
 アオイの背中がピクっと浮く。
 さっきイったばかりなのに、また熱が身体を走り始める。
 飲み込んだソコが、くちゅっていってもっとって言ってる気がして耳が熱くなった。
「もう、我慢出来ない」
 デュークの少し掠れた声に、アオイは切なくて嬉しくてまたぎゅって締めてしまった。
「アオイも、だろ?」
 そう言われて欲に指を絡められたら、もうそこが濡れているのがバレてしまう。欲しくなってるのはもうバレバレなんだろうけど。
 ―――――やっぱりベッドにすれば良かった。
 そうしたらこんなにあからさまに全部見られなかったかもしれないのに。ラグの上にでは隠すものが無い。
「アオイ」
「ん?」
 ちゅくっと、胸を吸われて腰が揺らいだ。
 物足りなくて思わず膝を擦り付けてしまう。
 けれど、デュークははしたないと思うどころか嬉しいらしくて、笑ってる。
「―――――っ!」
 腰を揺らされて思わず息を飲んだ。
「ああっ!!」
 抜けていくデュークを、引きとめようと締まっていくのがわかる。
 気持ちいい。
「ふっ―――はぁあっ」
 中にまた入って来て。
 思いっきり擦られて、それだけで声が上がって思わす手の甲を口にあてた。
「ダメ」
「ああんっ」
 その手を奪われてラグに押し付けられて。
「あああっ・・・・・・・・・あああ」
 デュークが激しく動き出す。
 押さえつけられて。
 薄目を開けたらデュークの顔。
「デュー・・・クゥ」
 気持ちいいよぉ。
「イイぜ」
 僕も。
 もう全部、溶けそう。
 ずんずん入ってきて、押し上げられて。
「はぁ・・・あああっ!」
 奥を突かれて、背中がしなった。
 汗が伝うのがわかる。
「デュークっ」
 なんだかいつもより良くて、恐くなって思わず呼ぶと。
「熱いな」
 声が耳元にやってきて。
 ぎゅーって抱きしめられた。
 その拍子に違うとこを突かれて、背中はもっとしなった。
「あああっ、イイ・・・よぉー。デュー、ク・・・」
「俺も、めちぇめちゃイイぜ」
 声が、愛おしかった。
 それはもう、言葉になんかならなくてただあふれ出す気持ちを表す様に目尻から涙が零れた。
 デュークは、さっきと違う角度でどんどん突いて来る。
 もうなんかわからなくなってきて。
「デュー、ク・・・っああああっ!!」
 メチャメチャ感じてて。
 デュークを離したくなくて、足を絡めた。
「イィ・・・、―――――あああぁぁぁっ」
 背中に、爪をたてた。
「あああっ!!ダメ・・・・」
 中でデュークがグンって大きくなった。
「イク――――――――あああああぁぁぁ・・・・・・・っ!!!」
 デュークを感じて。
 一瞬意識が遠のいた。
 倒れこむような感覚。実際は床があるのに、何か深いところに沈むような感じに襲われた。
 その背中を、デュークの腕が支える。
 背中に回っていた手から力が抜けて、床に落ちると同時にデュークの唇に口を塞がれた。
「はぁ・・・っ」
 舌を絡めて、キスを味わう。
 何度も。
 唇を噛んで、舌を吸って。
 唾液が唇の端から零れ落ちた。
 運動の後の濃厚なキスに、酸欠に陥ったアオイは意識を休息に手放していく。
 だって、物凄く気持ちよくて。
 いい気分だったから。
「デュー、ク」
 声が少し、眠そうでデュークは思わず笑ってしまった。
「ん?」
 さっきまでの色っぽい空気は本当にアオイだったのかと疑いたくなる、子供っぽい声だったから。でもそれが、アオイなんだろう。
「・・・んー・・・」
 瞳がとろんとして、ゆっくりと閉じられていく様をデュークは諦めた様な、それでいてどうしようもないほど甘い瞳で見つめていた。
「はは」
 もうダメらしい。
「・・・ぅー・・・?」
 それでもなんとか答えようとしている姿が、狂おしいほど愛おしい。
 本当に。
 あいつの血などで汚れなくて良かった。
 アオイも海賊船に乗っている以上、いつか人を傷つけるかもしれない。きっとそれは避けては通れないかもしれない。けれど、その最初の相手が、あの男になるのだけは許せなかった。
 もしそんな事になったら、アオイはきっと忘れられないから。
 ずっとずっと心の中にその存在を生かしておかなければならくなる。それだけは我慢出来なかった。
 そんな傲慢なあの男の望みを、叶えてやれるはずなど無い。
 だから、アオイ。
「寝る?」
 ―――――もう、忘れてしまえ・・・
「るー・・・」
 ―――――忘れて、いいのだから。
 腕に抱いていた身体が、ずしりと重みを増した。どうやら完全にドロップアウトしたらしい。半開きの唇、その端から流れた唾液が、ヨダレに見えた。
「ククク・・・、しょうがないな。もう1ラウンドしたかったのに」
 そう不穏に囁いてほっぺを押してみても、まったく起きる気配が無い。
 デュークは肩を竦めると、未練たっぷりに自身を抜き出した。




 目覚めは唐突だった。
 ドンドンドンドンドン!!!!
「ひゃっ!?」
 けたたましい音にアオイはびっくりして飛び起きた。
「るせーぞ!!」
 デュークの怒鳴り声。
 ―――――えー・・・と?
 何がどうなって自分は今ベッドの上で寝てるんだっけ?とアオイは首を傾げて。
「!!!」
 思わず目を見開いて、瞬間顔が真っ赤に染まった。
 エッチを思い出したからじゃない。
 一糸纏わぬ自身の姿、その胸の赤い点々、点々、点々・・・
 ―――――なにこれ!?
 絶対こんなにつけられて無いはずなのにっ
 ―――――腕にまである。
「デューク!?」
 思わず傍らに眠るデュークに視線を向ける。しかし問いただす前に、扉が再び大きく叩かれた。
「だから、うるせーって」
「もう港です!!」
 なんと声の主はミヤ。
 その声は呆れと安堵が入り混じっていて、たぶんみんな同じだろう。
「え!?港!?」
 アオイがピクっと反応して思わず窓を覗く。するとそこには眼前に迫る港の風景。しかもなんだか、いつもより大きい街の景色。
 ―――――すごーい・・・
 船も他に止まってるし、まだ小さくだが人がたくさんいるのも見える。その奥に見える色とりどりのは、あれは市場だろうか?
 向こうに見える白い丸い屋根のは、なんだろう?
 たくさん鳥がいる。
「降りないんなら俺達行きますから、船番よろしくお願いしますね!!」
 ミヤはそう言うと、向こうへ遠ざかっていく。
 ―――――船番・・・?
「ダメ!!!」
 アオイは慌てて飛び起きて、そこら辺に脱ぎ捨ててしまった服に袖を通した。慌てすぎてパンツが上手く履けなくてもたもたしてしまう。
「アオイ?」
 そのドタバタした音にようやくデュークが顔を上げる。
「僕、降りるからね。港、見るんだから!!」
 そう言うと、やっと通った首を衣服から出して宣言する。
 それにデュークは少し不満そうな顔を浮かべる。
「いいじゃないか、降りなくても」
「なんで!?」
「そうしたら二人っきりでずーといられる」
「――――」
 思わずアオイの動きが止まってデュークの顔を見る。それはどうも、思案しているらしい。どっちがいいだろうか、と。
「な?だから、戻っておいで」
 思案につけいる様に甘い声でデュークはそう言って、傍らをぽんぽんと叩く。
「―――――」
 アオイが空を見て思案する事、十数秒。
「ダメ。デュークとはこれからずーっと一緒でしょ?でも港は今しか見れないもん。だからダメ」
 にっこり笑ってそう言うと、アオイは慌しく扉を開けて駆けて行ってしまった。
 取り残されたのは、デュークただ一人。
 開け放たれた扉を見て、思わず笑ってしまった。
「ったく」
 敵わねーな、と小さく呟いて。
 その顔に、幸せそうな笑みを惜しげもなく浮かべてベッドから抜け出した。
 もちろんアオイを追いかけるため。
 しょうがないから船番か交代制にして。
 一人で港なんか歩かせたら迷子になる事間違いないのだから、こりゃ大変だなと息を吐いてやっぱり笑った。
 そう。
 確かにこれからはずーっと一緒だ。
 デュークの瞳が窓を捉えてその先の港を見る。
 この港だけじゃない。
 ここから始まる、果てしない旅路。その行く先、ずっと一緒で離さないだろう。その命が終わる、何十年先まで。
 何が待ち受けているかわからないけれど。
 今は疑いようも無く信じている。
 夢と冒険と、そして幸せに満ちた未来を。
 それを、信じる事が出来る。


「デュークー!!お前まじで船番か!?」
 横着に甲板から叫んでるヒデローの声に急かされる様に、デュークは甲板へと向かった。

 外は快晴。
 甲板には、7人の笑顔。

 未来は、間違いなく明るい。










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あとがき。
長かった。こんなに長くなるハズじゃなかったのに。そしてもっと上手く書きたかったのに…
今回は色々力不足を感じながらの連載で、更新も滞ったりしてしまいました。ゴメンナサイ。
多々分かりにくい部分があるかもって思うので、質問とかあったら全然聞いてください。ほんと、すいません。

彼らはこれから、新しい一歩を踏み出していきます。未知の世界への恐怖よりも、ただチャレンジ出来る喜びだけを感じて。
壁にぶつかったり喧嘩したり、危機になったりするかもしれませんが、彼らなら何にも負けないのではないでしょうか。
ここまでお付き合いいただきました皆様、本当にありがとうございました。
読んだ感想などをいただければ大変嬉しく思います。今後の糧にしたいですっ。
また、キリリクを頂いているので、その時再びお目にかかれれば幸いです。

ayuki