その日は、剛から電話がかかってきて―――もちろん咲斗が出かけた後の時間だが―――響は剛の誘いに応じて外で会って久しぶりに一緒に酒を飲んだ。
 あの時ちゃんと説明することの出来なかったことを、改めて響は剛に説明して。
 義父の事に剛は響以上に怒ってしまって、響は宥めるのが大変なほどだった。
 それ以外には、たわいも無い話。他の旧友のことや剛の近況からばか話まで、久しぶりに飲んで笑って楽しんだ。
 終電に飛び乗って、帰宅したのは深夜。
 それでももちろん咲斗が帰宅するよりもだいぶ前。酒の匂いがばれるとまずいと、響はちゃんとシャワーも浴びて、歯も何度となく磨いて。口臭予防のガムも噛んで、ドラッグストアで買った飲むタイプの口臭消しも飲んでからベッドにもぐりこんだ。
 完璧だと思っていた。

 ―――けれど。

「なんで酒臭いの?」
 咲斗が帰ってきて、本当なら2人して抱き会ってベッドで仲良く寝ているはずの時間なのに、咲斗は今、かなり不穏で恐い空気を漂わせて響を押さえつけていた。
 響はといえば、寝ている中を起されたので、やばい状況を認知しながらも今ひとつ頭が回っていない。寝て、僅かな時間しかたっていないというのも、まずかったのかもしれない。
「・・・・あっと・・・酒、臭い?」
「臭いねぇー」
 とっても匂うと咲斗はその鼻を響の顔に近づけてくる。
「・・・そんなはずは・・・ないと思うけど・・・」
 うまい言い訳が、なかなか響の頭に閃いてこない。だいたいにして飲んだ後というのは眠りも深い。呂律がちゃんと回ってないのも自覚してるのになんともならない。
「ふーん。じゃぁ、響は、お酒を、飲んでいないんだね?」
 だからかもしれない。にっこりと笑う笑顔が、底なしに恐ろしいのに。
「うん。飲んでないよ」
 寝ぼけた頭の響が悪いのか、誤魔化そうとしたその精神がまずかったのか、思わず咲斗の言葉に頷いてしまった。それが、運のつき。
「・・・僕に嘘つくんだ」
 次に発せられた言葉は、地を這うように暗くて。
 最近になってようやく与えられた響のパジャマ。その前を無造作に咲斗は掴んで、思いっきり引きちぎった。簡単に縫いとめられているボタンはあっけなくはじけ飛んで、ボタンがフローリングに跳ね返る音が、やたらうるさく響く。
「あ・・・っ、咲斗さん!」
 そのあまりの乱暴な仕草に、響が思わず青ざめるのもおかまいなしに咲斗はそのパジャマをそのまま脱がしにかかり。身をよじって逃げようとした響は、偶然にも咲斗の動きを助ける格好になってしまう。
 咲斗がずらしたパジャマが腕に絡まり、響には運悪く、咲斗には都合よく、響は腕の自由を奪われてしまった。
「響は、俺に黙って剛と会った。そして、お酒を飲んできた。未成年なのにね。その上、俺に嘘をついて誤魔化そうとした―――よね?」
「っ・・・、・・・黙って、じゃない」
「―――」
「ちゃんと・・・言ったじゃん。ただ・・・」
 咲斗は「うん」とは言わなかっただけ。二人で会う事に、頑なに拒否した。だからこっそり行ったのだと、言い訳がましく呟く響を咲斗は見下ろして。
「じゃぁ・・・俺が悪いっていうんだ?」
 見てる方が痛く苦しくなるくらいに切ない顔を咲斗は響に向けて言う。そんな顔で見つめられたら、響はなんと言っていいのかわからなくなって黙ってしまう事しか出来なくなった。
 罪悪感は、確かに自分の中にもあったからだ。
「恋人に嘘つかれるなんてね―――――それとも、恋人って思ってるのは俺だけなのかな?」
 自嘲気味に笑う咲斗に、響はハッと顔を上げる。
「ごめんなさいっ」
「響・・・」
「そんな、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ・・・」
「・・・反省してるんだ?」
 微かに笑顔を浮かべた咲斗にホッとして、許してくれるのかと顔を明るくして響は頷く。
「でも、言葉だけじゃ、信用できないな」
「え!?」
「だって、響が俺に隠れて彼に会うのって2回目だよね?」
「う・・・、あの時は・・・っ!」
 あの時と今とでは事情が違うと思う響なのだが、咲斗の切なく揺れる瞳で真っ直ぐに見つめられると、申し訳なさもあって言い返すことができなかった。
 時々見せる、不安そうな頼りなげな表情が、響を混乱させているのかもしれない。理由がわからなくて。
「これ覚えてる?」
 咲斗は右手に持った、確かに響にも見覚えがあるローターを目の前にかざした。それは、ここに来てすぐの頃に、響の中に埋められていたモノ。
「・・・何、するの?」
 恐怖に引きつられた響の顔を咲斗は楽しげに見つめて。
「お仕置き・・・かな」
「やだっ・・・」
 その言葉に反射的に首を横に振って、響は顔をひきつらせてなんとか後づさろうとするけれど、咲斗に足首をしっかり押さえられていてそれも叶わない。
「悪いことしたら、お仕置きするのは当然でしょ?」
 悪魔のような笑顔を浮かべて、ゆっくりローターを響の身体に近づけていく。響は、それから視線を外すこともできずに、ただその行き着く先を見つめる。
 そして、とうとう咲斗は、ローターを鎖骨付近押し付けた。
「やめっ!―――あっ!」
 緩く振動したソレを、ゆっくり鎖骨辺りから胸の突起へと滑らせて、赤く色づいたそこの周りを円を描くように響の肌の上を滑らす。そしてそれを追うように、咲斗の舌が響の身体の上を滑る。
「あん、いやぁ・・・ぁぁ、っ・・・ああ」
 響はその快感から逃れようと身体を捻って揺らす。けれど、腕の自由を奪われて、咲斗にのしかかられていて逃げることはできなかった。
「いい声」
「やめてっ、咲斗さん―――ああっ!」
 円を描いていてしばらく遊んでいたローターを、咲斗は直接突起へと移して。響がその刺激に喉を仰け反らせる。ローターで、胸の突起を押しつぶしたり摩ったりと虐めていくと、触れてもいない響の中心が徐々に勃ちあがっていく。
 快感に反らした胸も、微かに震えていて。
「触ってないこっちも、もう硬くなってる」
「ひぃっ、ああ・・・ふぅ、んん―――ああぁぁ・・・・・・」
 触れていない方の突起に咲斗が舌を這わして、硬くなったソレを甘噛みすると響の身体が跳ねる。響は快感を散らす様にいやいやと首を横に振って、髪がぱさぱさと音をたてた。
 舌で、胸をいたぶりながら、今度はローターをそっとわき腹へと滑らせると響が腰をくねらせて逃げようとする。
「いやぁぁ――・・・ぁぁ」
 そんな仕草も誘っている以外の何物でも無いのに。
 うっすら色づいている身体に、汗が滲んでくる。そのなんともいえない色香に咲斗はゴクリと喉を鳴らして、割った足の付け根にローターを押し当てた。
 今度はそこで、円を描く。
「ああっ!・・・いやぁ・・・もう、んん―――咲斗、さんっ」
 咲斗は突起から舌を離して。目じりに涙を浮かべる響の顔を除きこむ。
「色っぽい顔してる。そんなにイイ?」
「もう・・・やだぁ・・・っ、はぁ・・・んん」
 半開きになった口の端から、唾液が流れ落ちている。咲斗はそれを舐めてやって、耳元でそっと呟く。
「何が嫌?」
「―――っ・・・それ、動かさないでぇ・・・・・・」
 とうとう涙が、目の縁では耐え切れずぽたりと流れ落ちる。咲斗は今度はその涙を舌で拭い取って、惜しげもなくさらされる響の首筋に赤い痕を残していく。
 首筋から鎖骨へと点々と、わざと見えるところに無数に散らしていく。
「だめぇっ!」
 そんなところに痕をつけられたら、外に出られなくなると響はがんばって身体を捻るけれど、それはすでに何の意味もなしていない。
「あああぁぁぁ――――・・・・・・」
 咲斗がフイにローターを響の中心で勃ち上がっているものに、押し当てた。
 響はその刺激に胸を大きく反らして震える。
「そんなにイイんだぁ?俺としてるより感じてるんじゃない?」
「ひぃ・・・・・・っ、ああ―――ああぁぁぁぁ・・・・・・」
 咲斗は意地悪く言いながら、ゆっくりと上下に動かしていく。
「やぁ、やだぁ、・・・咲斗さんっ、ああっ!」
「嫌?こんなにだらだらこぼれてるのに?」
 咲斗からもたらせる快感に、響のモノはすでに先端から雫がだらだらと零れ落ちて、それはローターや咲斗の手も濡らしていく。
「ああ、ひぃん・・・んん――――、ぁぁぁぁ」
 眉根を寄せて、快感をやり過ごそうとしている響の顔は壮絶に色っぽくて。頭を振るから、汗にはりついた髪がまた扇情的だ。
 咲斗はその媚態に息を飲んで、ローターを今度は先端の小さな穴に押し付けた。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ――――!!」
 ひときわ大きく背中をしならせた響は、押し付けられたローターの隙間から白濁を飛び散らした。
 それは、響の腹や咲斗の手、響の胸元にまで飛んで。肩で息をしている響に見せ付けるようにして、咲斗はそれを舐め取った。
 その視覚からくる刺激は、やけにリアルで、その仕草だけで響の奥が疼いた。そこで得られる快感に慣らされて、それ喜びを知らされているから咲斗が欲しい。
 本当は腕を伸ばして、咲斗に抱きつきたくても、今の響にはそれは叶わないから微かに勇気をだして声をあげる。
「咲斗さん・・・」
「ん?」
 見つめてくる咲斗の瞳は、響には相変わらず表情を読み取ることができなくて。
「―――まだ、怒ってる?」
「え?」
 窺うように、じっと見てくるその目は、まだまだ濡れていて。
「反省した?」
 本当は、もっと虐めて泣かせるつもりだったのに、そんな瞳で見つめられてたら咲斗の方が我慢できそうになくなってしまった。
「した。―――もう、内緒ごととか、嘘は絶対つかない・・・つかないから・・・っ・・・」
 ちゃんとして、と小さく呟かれた声に、咲斗の僅かに残っていた理性はどこかへはじけ飛んでしまう。
 その唇に噛み付くように激しいキスをして。
 キスの合間に、腕が痛いと響はつぶやいて。咲斗は後ろ手で絡んでいたシャツをちゃんと抜いてやると、響の腕が咲斗の背中にしっかりと回してくる。その強さに、響を抱く咲斗の腕も強くなってしまう。
 抱き合える互いの温度に、より強い安堵を覚えたのは響の方か咲斗の方か。
「あ・・・、俺、酒くさい?」
「平気。俺も飲んでるから」
 何度も何度も、確かめ会う様にキスを繰り返して。
「そう?」
「うん、それに、響の匂いだったら、酒臭くても汗臭くても全然気にならないよ」
「え?」
「―――全部、響の匂いだからね」
 全てを愛してる、そんな睦言を繰り返しながら咲斗はいつのまにか手に絡めたゼリーを響の一番奥へと伸ばす。
「ああっ!」
 回りをほぐすように襞を確かめて、指はかすかな引っかかりだけで身体の奥へと沈められていく。
「凄い・・・絡みついてくるよ?」
「―――言う、なぁっ・・・・」
 言葉で苛められると、響のそこは反射的に締め付けてしまって、響は指の刺激を生々しく感じ取ってしまう。イイところをゆっくりとかき回されて、いつのまにか指も2本に増やされている。響の口からは、とめどなく甘い嬌声があがっていた。
 ぎゅっとしがみついてくる響の身体を、咲斗がそっと引き剥がして、片足を咲斗の肩にかけるように抱えあげると、指が今までとは違うところにあたるのか響は大きく腰を揺らした。
 再び立ち上がった響は、また新たな先走りをとめどなく垂らす。
「咲斗、さんっ・・・もう・・・、もうっ・・・」
「もう、何?」
「・・・っ、咲斗さん!ああ―――、っ・・・」
「言って?――――響も、俺が欲しいってちゃんと言って」
 どことなく自信無げに言われる言葉に、響は閉じていた目を開いて咲斗も見つめる。
「咲斗さん?」
 なんとなく頼りなげに見えて響は思わずその名を呼ぶ。何故、そんな顔をするの――――、と。
「・・・どうして欲しい?響の望む事をしてあげる」
 そんな咲斗に響は、切なさで胸が苦しくなる。なんだか、咲斗が遠い気がして、もっと近くに感じたくて手を伸ばず。響の指先が咲斗の唇にそっと触れると、咲斗はその指先を口に含んで舐め上げる。
 それが、あまりに淫らな色香を漂わせていて。
「・・・・・・入れて。――――咲斗さんので、イキたいっ」
 響が真っ赤になりながらその言葉を言った瞬間、咲斗は我慢できないと、少し乱暴な仕草で指を引き抜き、自身のモノを響の中へと埋めていった。
「あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――・・・・・・っ!」
 奥までいっぱいに入ってきて、淫らにうごめくソコが満たされていく。響はシーツをギュッと強く握りしめてその反動に耐えた。その手を咲斗はシーツから剥がし自分の背中へと回し、耳元で擦れた声で呟く。
「・・・動くよ」
 響が声をかける間もなく、咲斗はもう待てないと大きく腰を打ち付ける。中を擦りあげて奥を突くと、響が絡み付いて来て、その感触にまた咲斗はどんどん自分が高ぶっていくのを感じる。
「ああ―――、っ・・・ああ・・・・・・うっ・・・」
「イイ?」
「いい、よぉ―――」
 咲斗は、響自身にも指を絡めてやると、響の背中がしなって震えた。そして、もっととねだる様に腰が揺れ動く。
 咲斗はゆっくりと上下に、追い上げるように扱いてやる。
「はぁ、っ―――あん・・・、っ・・・」
 先端も撫で回すように触ると、ギュっと強く咲斗のモノを締めつけてきて。そのたびに咲斗は強引に腰を引いては、打ち付けていく。
「あああ――――っ、も、・・・もう・・・っ・・・!」
「イク?」
 響は快感に大きく喉を仰け反らして、がくがくと首を振る。
「イ・・・く――――っ」
 その言葉に咲斗は一層大きく腰をグラウンドさせて、一層奥へと打ち付けていく。
「あああぁぁぁぁ・・・・・・・・・」
 限界にまで大きくその喉をさらして。
「いいよ。一緒にいこう・・・」
 咲斗は響のイイところを的確に擦り上げながら一気に突き上げて、前も大きく扱き上げた。
「あああああぁぁぁぁ――――ぁぁぁぁ・・・っ・・・」
 響の身体が大きく仰け反って、ひときわ背中を反らして精を放った瞬間、咲斗自身も響の奥に、その精を放った。





 何度目かの絶頂の後響は意識を一瞬手離すが、ゆっくり咲斗が響の中から出て行く、その感触が微妙な刺激を生んで響は背中を震わせて意識が微かに戻る。
 しかし、けだるい身体と疲労感に響の意識は堕ちて行きそうになりながちで、現との狭間をボーっと漂っていると、咲斗が背中から響を抱き締めて、肩口に顔を押し付けるように埋めてきた。
 微かに咲斗が震えている感覚が、響の身体に伝わってくる。
「―――響・・・」
 搾り出される言葉が、僅かに涙を含んでいるように響く。
「ごめんね・・・」
 何に対して謝っているのかわからない言葉。
 響は振り返って咲斗を抱き締めていいのか、知らないふりをしている方がいいのかわからない。呆然とした頭では、そこまで考えられないと言った方がいいのかもしれない。
「―――わかってるんだ。響が彼の事大切なのも、大事な友達なのも。全部知ってる。だから―――だから、会わせたくなくて・・・」
 咲斗が、響の意識が戻っているのを分かっていて言っているのか、分かっていないで言っているのか響には判断ができない。
 ―――――剛と咲斗さんは・・・全然違うのに。
 何故かいつも、剛の事には過剰反応を返す咲斗の気持ちが響にはわからなかった。友人と、恋人は全然別の次元なのに。剛の変わりは誰にも出来ないけれど、咲斗の変わりも誰にも絶対出来ない存在なのに、何故か咲斗には伝わらない。

 たぶん、泣いてる。
 そんな気配を背中から感じるのに、響にはどうすることもできなくて。


 切ない思いを抱えたまま、二人は朝のまどろみに堕ちて行った。










プラチナ    トップ    ノベルズ      






アトガキ
もっと明るいお仕置きエロの予定だったのに・・・
お仕置きエロと、愛ある鬼畜路線でいく予定だったのに・・・
なんだか暗くなってしまいました。それもこれも全部咲斗の所為です!!咲斗が全て悪いんだぁ〜T_T