yoinimakasete 4 「悪かった」 東城は、酔って脱力した重い譲の身体を起こして自分の方へ向かせて、その頬を両手で優しく包んで上を向かせて。 瞳が合った瞬間、譲の瞳から新しい涙が零れ落ちた。 「会いたいよ」 父さんだもん。 「ああ」 「でも、会えないよ」 会えない。 東城は譲の身体をぎゅっと抱きしめた。 譲の中に閉じ込められた思いをぎゅっと全部外へ出させようとするかのように、強く。 「お父さんに会うの怖いのか?」 "怖い" その言葉が譲の心にストンと落ちてきた。 そうだ、怖かったんだ。 「うん、怖い」 父が。 変わってしまった、今が。 それを認める事が。 何かが変わってしまいそうで。 「新しい人、会わなきゃいけないんだってわかってる。みとめなきゃってわかってる。でも、どうしたらいいのかわかんないんだ」 僕は、母さんに愛されてた? 父さんは僕を愛してくれてる? 母さんの嫌いになった父さんの子の僕。 父さんの嫌いになった母さんの子の僕。 そんな僕を、誰か愛してくれる? 僕はここにいていいの? 「新しい人が僕の事ことどう思ってるかしらない」 母さんは、父さんの血を引く僕なんかもういらない? 「父さんが今、僕になんで会いたいのかわかんない」 父さんは、母さんの血を引く僕をまだ必要っておもってる? 「何言われるか怖いよ」 会って、何かが変わるのが怖い。 「譲」 会って、知りたくない事を知らされるのは怖い。 「譲、俺がいるやん」 ―――――あ・・・ 東城のぎゅっと抱かれてる手のひらから、熱さを感じた。 「誰に何言われても、俺は譲のことめっちゃ好き」 東城を、傍に感じた。 「愛してる」 顔を上げた途端、東城の熱い瞳にぶつかった。 真っ直ぐな、強い。 「ほんと?」 僕でいい? 「ほんとだ。愛してる。譲は俺の、全部やで」 「・・・うん」 涙が、頬を伝って落ちた。 いつまで?とか。 それ、変わらないの?とか。 疑問はいっぱいあったけど。 でも今はそんなのいい。 「譲がいつかお父さんと会う時は、俺も傍にいるからな。ずっと手を握っててやる」 「・・・いいの?」 いいの?そんな事して。 「当たり前やろ」 「―――うん・・・っ」 嬉しかった。 嬉しすぎて、僕は自分から東城の唇に口付けた。 それはちょっと、塩っからくて苦かった。 クチュって濡れた音が凄く恥ずかしいのに、今はお酒の所為なのか考えられなくて。それよりもずっと、その音に煽られてしまった。 キスが欲しくて無意識に口を少し開いたら、東城のキスが直ぐに落ちてきて唇で上唇を挟まれて、舌で口の中いっぱい犯された。 身体が熱いのが、酒の所為かそれとも与えられる熱の所為か分からない。 でも、分かっている事が一つだけある。それは、身体の奥が熱いって事。 「―――っ」 きゅっと思わず唇を噛み締めてしまう。東城の指が、腰から内腿を辿って行くから、ビクっと感じてしまったのだ。 ――――もう・・・っ。 動いて欲しい。 足を持ち上げられて、中に入って来て、動かない。それがじれったくてたまらなかった。 「東城・・・っ」 弄られて、ベタベタなのが自分でもわかる。 「イキたい?」 僕は頷いて、足を東城の腰に絡めると、ふっと東城が笑ったのがわかった。 その笑いがどんな意味か知りたくてぎゅっと閉じていた瞳を開けると、めちゃくちゃ甘い、甘ったるい顔をしてたから―――――――――― 恥ずかしくなってもう1度ぎゅっと目を閉じた。 そのタイミングをまるで見計らっていたかのように、東城が動き出した。中を擦りながら抜け落ちそうなくらい引いて、ドンって奥に突き上げてくる。 その度に快感が駆け上がって、頭の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられなくなっていく。このまま、頭の中にこびりついている色んな考えや気持ちが全部剥がれ落ちて消えてなくなってしまえばいい。 「譲」 「―――っ、ああ!」 甘い東城の声が耳にかかって、ビクンっと身体が跳ねて中をぎゅっとしたのがわかる。 熱い。 「気持ちええ?」 「う・・、ああ―――いい、よぉ――――」 ぎゅっと掴んだ東城の肩は逞しくて、少し汗ばんだ感触や骨ばった感じに自分には欠落している男くささを感じる。 それに頼りがいを感じて甘えて、いいのだろうか? 「もう・・・っだめぇ――――」 なんでか我慢出来なかった。 中をちょっと強く擦りあげられただけで、あっけなく弾けてしまった。 「ごめ・・・っ」 中のは、まだ硬いままで東城を置き去りにしてイってしまって恥ずかしくなって謝ったら、泣きたくなるくらいの優しい眼差しで見つめられて。 「いいよ」 東城のキスが顔中に振ってきた。 「ごめんな」 「んで・・・?」 なんで謝るの? そう言いたいのに口がちゃんとい回らなくて、さらに東城のキスが邪魔をする。 「日曜、一人にして」 言われてびっくりして目を開けた。だって、なんでわかるんだろって思うから。 別に謝って欲しかったわけじゃないけど、一人でいて、電話の後も一人でいて、心細くてどうしていいのかわからなかったのは本当で、傍にいてほしかったのも本当だから。 それを、今言うなんてなんかずるい。 見上げた東城の顔に手を伸ばしてその耳を、引っ張ってやった。 「イてててっ、ゆずるっ」 「いつか、さ」 耳が、ちょっと赤くなった。 引っ張った証。 僕の、証? 「会えるかな、普通にさ」 「――――ああ」 「ホント?」 理解出来るのかな。 違うか、理解は出来てるんだよね。ただ、心がまだついていけないだけ。 わかってる。 わかってるんだ。 「ああ、絶対大丈夫や」 絶対、なんかわかんないじゃん。そう思うのに、東城に言われると不思議だ。本当に大丈夫だと思えてくるから。 「僕がさ、父さんや母さんに捨てられても、東城はそれでもいい?」 涙が、一筋零れ落ちた。 そしたら東城はぎゅぎゅうって抱きしめてきた。 「痛いヨ」 「譲は譲のままでおって。俺はその譲を大好きやから」 「――――うん」 嬉しくって、ぎゅって東城をしちゃったら東城がちょっと呻いた。 「喰いちぎる気―か」 ふん。 「後悔させちゃる!」 「はは――――あんっ!!」 笑い声が、喘ぎ声に変わった。 だっていきなりグラウンドするんだもん。 「ちょっ―――東城」 腰が浮くぐらい足を抱えあげられて、さっきより奥まで届いてきた。足を思いっきり開けさせられたこの格好は結構恥ずかしい。 「ああっ・・・んん――――やぁ・・・」 いきなり猛ダッシュさせてしまったらしい。肉の当たる恥ずかしい音が聞こえるくらい責めたてられて、その強さに怖くなってつい身体が逃げ腰になる。 「あっ!とう・・・じょう――――強いっ」 逃げた腰をグイっと引き寄せられて、さっきより強く奥に当たってきた。イった後だからだろうか、それとも酒の所為かわからないけれど、なんだかいつもより感じてしまうのが怖い。 「ダメ―――・・・っ、おかしくなるよぉー・・・っ」 好き。 どうしようもなく、僕は東城が好きなんだ。 それが悔しくて、掴んだ腕に爪をたててやる。 「ふ、あああ・・・っ、あああ―――――」 「腰」 ――――な、に? 「動いてるな」 「やだ・・・っ!や――――っ」 恥ずかしい。でも、止められないっていうかもう、止め方がわかんないよ。だって勝手に動いちゃうんだもん。 どうしたらいいのさ。 「すげー・・・いい」 「ひゃぁ・・・っ」 乳首を噛まれて変な声が出ちゃった。 もうやだ。 わけがわかんない。気持ちよすぎて熱くて頭の中はもうスプラッタになってる。今まで考えた事とか憶えた知識とか全部ぶっとんじゃったんじゃないだろうか? 「もう、もう――――・・・ああ・・・いく――――イっちゃう・・・・・・っ」 快感が脳まで駆け上がった。 イった瞬間に中に熱さを感じて、身体がビクビクと震えた。でも、その全てがぼんやりとした先にあってなんだかまだわかんない。 良すぎて、熱すぎて。 身体全部が心臓になったみたいに、ドキドキと脈打ってるみたいで。 それなのに。 「ああ!!―――――や・・・っ、ちょっと・・・・・・っ」 「まだ、やで」 信じられない。 まだ脳が普通に戻って無いのに、身体が全然動かない感じがするのに、東城は繋がったままのそれを抜くんじゃなくて、揺すりあげてきた。 「まっ・・・まって――――だめだよ・・・っ、――――ああ・・・っ」 抗議の声なんか、聞き入れられるはずもない。 それに、思考が追いつく前に身体が反応してしまって、東城に答えている。 その後は何がなんだったか、本当に覚えていない。 ただ、快感の波に抗えずに溺れていたことと、東城の言った言葉だけが微かに憶えている。 "今は、何もかも忘れてしまい―――――" GW、譲は家には帰らなかった。家からの電話もあれっきり無かったし、自分からも出来なかった。 「譲!」 淡路島までドライブに来て、東城に奢ってもらったお寿司でお腹がいっぱい。通りかかった海岸にはまだ人気は少なくて、海からの潮風が気持ちいい。 「ありがと」 東城の飲みかけのお茶を受け取って、飲んだ。 「疲れたか?」 「全然。だって運転してないし」 「乗ってるだけでも疲れるやろ?――――って、おい!」 僕は靴を脱いで、波打ち際で足を濡らした。 「気持ちいい〜」 大きく伸びをすれば、身体中に海の香りが満たされていく。 「ったく」 東城が、しょうがないなという顔で笑って、タオルを取ってくる、と車に戻っていった。その後姿をじっと見つめていた。 不安になったりはしない。 すぐ、タオルを持って戻ってくるって知ってるから。 ――――ねぇ、東城。僕・・・夏には家に1回帰ろうかな・・・・・・ 終 |