| ♪あおげば とうとし わがしの おん…… |
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| やや時季はずれに咲いた桜の花びらが舞い散る中、たぬき学園の校舎から生徒達の歌う『仰げば尊し』の合唱が聞こえてきます。 そしてその様子を校庭に佇みながら見つめている人影がありました。……どこか満足げな、そしてどこかさびしげな瞳で。 「とうとうこの日が来たんですネ。たぬき学園の卒業式が」 ふと背後からかけられた声に、『彼』は校舎を見つめたまま答えました。 「ええ。この学園の、最初で最後の卒業式です。帆村先生」 |
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| 「この学園を立ち上げてから約6年半の間、自分の学生時代に叶えられなかった夢……というより妄想ですか……を幾つも幾つも叶えてきました。その妄想を自分以外の数多くの人にも楽しんでもらえたようで、本当に楽しかった」 感慨深げに呟く『彼』に、帆村先生は尋ねます。 「もう満足した……というわけですか?」 「いえ」 彼は頭を左右に振りました。 「まだ満足とは言えません。心残りのほうが大きいかも知れません。でも……」 「でも?」 「正直ちょっと疲れました。この世界を維持し続けることに」 「……………………」 「もう潮時なのかもしれません」 ざっ、と一陣の風が二人の間に桜の花びらを舞い踊らせました。 「私は、この学園を閉じることにしました」 「そうですか。結構ワタシにとっても棲み心地のいい場所だったんですけどネ」 帆村先生は小さくため息をつきました。 「……可愛いオトコノコやオンナノコといっぱいい〜っぱいたのしやらしいことさせてもらえましたしネ。本当に毎日がお祭りのようでしたヨ♪」 微笑みを浮かべながらお互いを見つめ合う二人。 「この世界に存在していた、ワタシとあなた以外の人々はどうなるんです?」 「今度は、彼らがそれぞれに自分の世界を生み出していくことでしょう。私の生み出したこの箱庭のような世界の中で踊らされるのではなく、自らの意志で、自らの思うままに」 「そう………」 「もしかすると、そんな彼らの新たな物語を、今度は傍観者として覗かせてもらうこともあるかも知れません」 「あなた自身は……?」 「そうですね……ここを去ったあと、またどこかで新しい世界を形作るかも知れません。まだそれがどんな風になるかは私自身全く見当もつかないのですけどね」 いつしか、校舎から聞こえてくる『仰げば尊し』の合唱も終わりを迎えていました。 「終わりましたネ」 確認するように呟く帆村先生に、『彼』もまた、確認するように頷きました。 「終わりました」 「では……」 「はい。この学園を閉じます。さようなら、帆村先生」 「……………………」 |
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