『Luca,
early
summer
view!』
なにが悪いかと言えば、急激に気温を上げた季節である。ついで、温い空気に対抗するため無防備になる服装である。
「……その服はどうした」
「あー、衣替え、終わったんだよ。やっと!」
などと笑う子分兼専業主婦の、しばらくぶりに見る半袖半ズボン姿、うなじに二の腕膝小僧である。露出の分
、全体に明るい色合いとなった彼の人は、赤茶の髪すら柔らかに光をふくんで見えた。まったくもってけしからん、と魔王兼夫は内心うなる。あげく、薄手のシャツは腹部のラインを透かして、これではめくれと言わんばかりではないか。かといって、幼年男子のようには直裁にことに及べない事情のため、そろそろ欲求不満が暴発しそうなスタンである。
ルカは、今週いっぱいをその「衣替え」に費やしたらしい。衣装だけでなく寝具も暑気に向くものに切り替えるため、いつもの倍ほどの洗濯をこなしたという。道理で連夜寝落ちし続けたわけである、洗濯板と手回し脱水、干しに取り込みたたんで収納、を繰り返すそれは重労働だ。その成果を単純に欲の糧としてしまえば、任された家事にそれなりの誇りを持つ子分は、それはもう機嫌をそこねることだろう。
だから、知恵を絞らねばならぬ。どうやったらこの、すんなりとした手足の獲物を、白昼堂々美味しく頂けるのかと。仕掛ける側の役割を持つ同性の恋人として、そして邪淫をつかさどる魔王として、ここが不埒な知技の見せ所である。
ようやく訪れた週末、午前に仕入れた食材での昼食を、豪快に平らげて作り手を喜ばせながら、男がそ知らぬ顔で考えていたのは大体そんな内容だった。
「おい、服に何かついてるぞ」
「え? 何かって、あーっ!」
食後の片付けが済んだタイミングで、気づけば少年の腹部にオレンジ色の点ができていた。
「さっき飛ばしたのだろうが、そそっかしいやつめ」
「あー、パスタのか。あーあ……この服、出したばっかだったのになぁ」
と嘆息しながらシャツの染みを注視する姿を前に、魔王の目はあやしく光った。おあつらえ向きである。
「うむ、そういった場合はすぐに、ええとアレだ……そうそう、”ツマミアライ”とやらをするべきではなかったか?」
「あ、すごい、そうだよ! こないだの話、おぼえてくれてたんだ?」
ルカの顔がぱっと輝く。当然だと鷹揚にうなずいた。夫たるもの、妻の話は価値がよく分からないなりに小耳にはさんでおくのが円満な共同生活の鉄則である。
(まあ、知識を張り切って教えてくれようとするこれが愛いだけなのだが……)
という色ぼけた思考はつゆ知らず、シンクに立った相手はいそいそと実演をはじめている。
「水をすこしだけ付けて、石鹸をすり込んで、と。あとは、たたくようにしてね……」
「うむ、貸してみろ。こうか?」
「えっ」
そこに背後から忍び寄り、一気に小柄な体を囲いこんだ男は、汚れた裾を奪い取った。そして身長差ゆえに、作業しやすい高さまで布地を引き上げると、言われたとおりに染み抜きをはじめる。
「すっ、すたん!?」
結果的にシャツを胸の辺りまでめくりあげたことになるのだろう、見下ろす角度では布地が邪魔で確認できないが。
「おお、どうなのだ、ルカ? なにか間違っているか?」
ひっくり返った声に、確信犯はそらっとぼけて教えを請うた。すっぽり抱え込んだ身が硬直しているのを愉快に思いながらも、あくまで不思議そうな態度は崩さない。
「あっ、い、いや、その……あ、あってるよ? うん、だいじょう、ぶ……」
子分は肩をすぼめて答えたが、どうしても嫌というほどでもないらしい。そのまま染み抜きに熱中して見せれば、きまりわるそうにしながらも腕の中に留ったままだ。
(仕込みは上々)
と大人しい肩口で魔王はほくそ笑む。
処置が早かったおかげか染みはすぐに落ちた。若干名残惜しい男の腕から、解放された少年はどこかほっとした様子である。そしてふと腹部を見下ろし、どうしようかな、と首をかしげた。
「うん? どうした」
「うーん、ほんとならすぐに着替えて洗濯したほうがいいんだろうけど。きれいに落としてくれたし、逆に迷っちゃって。かといって着てるとちょっと気になるというか……ひんやりするんだよね」
話しながら無意識にか肌にはりつく裾をひっぱるので、白い腹部とへそが丸出しである。吸い寄せられるように目線を向けそうになって、男はあわてて意識をそらした。
(ええい、焦るな……ことを仕損じれば、実入りどころか手痛いしっぺ返しを食らうぞ……!)
「そうだな、今日の気温ならしばらくすれば乾くのではないか? 今あたらしいものを着てもどうせ汗をかくだろうし」
「そっかぁ。それもそうだね」
流れで台所からリビングに移動しつつ、
「しかし、少々食いすぎたか……腹が重いな」
とくちくなった腹をさすってみせると、ころころと笑いが返ってくる。
「そっか、よく食べたもんね。ちょっと休む?」
「そうだな」
ここでスタンは、ルカがソファに腰掛けようと目線を向けたのを確認するが早いか、即座にリビングを大股で横断して、寝室のドアをばんと開けた。
「え? あの、」
ばふん。
距離を隔てた戸惑いの声に聞く耳持たず、ベッドに頭からダイブである。ぴんと張られたシーツは一瞬で皺だらけだ。
「あっちょっ! もー、せっかくきれいにしといたのに! せめて部屋着に替えてから寝てよ!」
と、目論見どおり寝室に駆け込んできた子分のむくれ顔に向けて、
「なんだ? こうすればいいのか?」
「わぷっ!?」
魔王はすかさずシャツごと黒着を脱ぎ捨て、ぽいと放った。舞台の早着替えのごとき瞬間芸であった。飛んできた布地に頭から絡みつかれ、あたふたとほどきにかかり、どうにか顔から衣を引き剥がした少年が我に返れば、目前には恋人の裸の上半身である。色黒の、しっかりと筋肉のついた大柄な体が、カーテン越しにもまぶしい初夏の日差しを受けて存在を主張して、
「わああ!?」
ルカは悲鳴をあげて目をつぶり両手を顔の前に突き出した。とっさに放り出された黒衣がばさりと床に落ちる。
「ち、違うってっ、なんで、ぜんぶぬい、で、うわあ!?」
ぼふん。
「ぶはっ、な、なに、すんのぉ!」
「いや、ちょうど目の前に手を出されたから、おまえもこの心地よさを味わいたいのかと」
「ちがうううぅ!」
いきなり手首をつかまれ引きずられ、シーツにうつぶせに倒された子分は、わめく以外当座の対処を思いつかないようである。チャンスと見てスタンはルカの背中に、のし、と加減しつつも体重をかけた。身動きするたびに立ちのぼる洗い立てシーツの香りが場違いにさわやかだ。
「う、お、重ぃー……っ!」
「ククク、こうして寛げるのもおまえの頑張りのおかげだな? よくやったぞ、ルカよ」
「いくらなんでもそれじゃごまかされないよ!?」
率直な褒め言葉も、あやしい手つきで髪を撫で回しながら発すれば台無しである。少年は男の手のひらを振りほどこうとぶんぶん首を振った。
「んっ、もう、早くどいてよ、ほんとに汚れちゃう……!」
「ふふん、今さらだなぁ。ほれ、シャツの濡れがうつってシミが……」
「あ、わ! どいて! どいてったら!」
「うおっ?」
とうとう子分が自らを省みないほどの勢いで暴れだしたので、魔王は拘束をゆるめることにした。怪我をさせたいわけではない。胴に乗せていた体重を手足に移すと、組みしかれていた体はその隙にうつぶせから仰向けへと身を転がし、ひじを使ってどうにか這い出ようとしたが、
「逃がさん」
「!?」
両手首をつかんでシーツに縫いとめれば簡単に阻止できてしまう。同時に、暴れたはずみで開いた脚の間に陣取ることに成功し、結果的にマウントを取った男はそこで、ああ、と感嘆の声を上げた。
「いい眺めだ……」
欲しかったところがすべて見渡せるのだ。うなじに二の腕膝小僧、そして腹部までもが。すべて白く甘そうで、歓喜にくつくつと笑みがこぼれて止まらない。その顔を前にようやく事態を悟ったらしい少年は、大きく息を
呑んだ。
「……やっ、ま、まって……!」
「ククッ……手遅れだ」
「ひやあっ」
恋人の哀願する声にも確信犯はにやにやしているだけである。おもむろに身を乗り出し、まずはシャツから覗く鎖骨に挨拶代わりに口付ける。やっと想い人の身体に触れられる喜びを味わうように、何度も吸い付き、時々いたずらにしゃぶりたてる。
「は、う……!」
小さな獲物はぞくぞくと震えながら、捕食者の腕からどうにか逃れようとかぶりを振り続ける。が、
「ひゃうう!」
やわらかい二の腕の内側にかぶりつかれ、とうとう泣き声を上げた。
「か、噛まないで、やだあ……っ」
「うん……? なぜだ……?」
「明日から、もう、半袖、なのに……っ。着れないよお……」
「……、着なければいい」
「それじゃ出かけらんない、ってば……っ」
「出かけなければいい。何なら強制的にそうしてやろうか……?」
「も、うっ、困るってわかってるくせに、ばかぁ……っ」
と、涙目でなじられるところまでが様式美である。男は一度低く笑って、つかんだ腕をそっと解放しながら、
「では、跡は残さん。そのかわり、暴れるなよ?」
と悪役然たる台詞を嬉しげに吐いた。
「うう……」
こうなれば、物理的にはどうあれ拘束されたも同然である。所在無くさ迷う目ぐらいしか自由にできず、少年は両腕を投げ出したまま呻くほかない。
それをいいことに魔王はいそいそと無防備なシャツの腹部に手をかける。濡れているところを押し付けるようにして、ゆっくりと親指でなぞると、ぶるりと震えが返ってきた。
「ひゃ! やめっ、つめた……っ」
「嫌か」
「くっついて、気持ち、悪いんだって、ば……」
「では」
不快げに眉を寄せるのを見て、男はそれは悪かったと思いながら裾をめくり上げ、
「にゃぎゃっ!?」
へそに吸いついて奇声を上げられた。そのまま舌をねじこんでやると、頓狂な叫びと共に、視界のはじで白い脚が跳ね上がる。蹴られないようとっさに足首をつかんだ。
「暴れる、なと、言ったろうっ」
「むり! 無理っ! なんでおへそ!? こしょぐったいぃっ!」
子分は律儀にも腕はシーツをつかんで動かないようにしているが、下半身は大暴れである。じたばたする太ももの内側に、ぐいと片腕を差し込み体重をかけて押さえ込んだら、より悲鳴が高くなった。
「やだっそこっ、離してぇ!」
「ここもか。どうしろと言うのだ、ええ?」
「うー、うー、だってえぇっ」
魔王はあえて呆れ笑いを浮かべる。でなければ今の視界は色々と刺激が過ぎた。
半べその顔が懇願する目線と共に向けられ、その手前には石鹸とほんのり汗のにおいのする空間が広がっているのだ。その奥に見え隠れする胸が、浅い呼吸のたびにゆるやかに上下するのが生々しい。いっそこの魅惑空間にぐりぐりと顔を突っ込んでやりたい衝動に駆られたが、こらえた。さすがにがっつきすぎな気がする。
かわりに、足首をつかんだままだった手を離し、するするとふくらはぎや腿の内側をたどって、脚の付け根まで手の甲でなぞる。
「んんっ……」
そこで手をかえし、むに、と内股をつかんだ。
「ふや!?」
ぐいぐいと、指をマッサージするかのごとく食い込ませる。
「うっ、あ、くうっ……」
さらに親指をずらしていき、押し込むポイントの版図を下腹部へ広げていく。
「あ、っ、ひゃう! ゃ、ううっ……」
押されるたび、びくびくと少年の身体がつっぱり震える。何度もそうしているうち、抵抗する脚の力が弱まったので、それを固定していただけの腕も役割を変える。すなわち、半ズボンの上から局部に腕を押し付けるようにして、ゆるゆると。
「ん、んんんっ、ふ、う……!」
みるみる赤くなっていく顔をルカは必死でそらそうとした。これ以上あばかれまいとするように、目をきつくつぶっている。呼吸すらも忘れていそうだったので、
「おい、息はしろよ、ゆっくりでいいから」
と心配すれば、濡れた翠がいっそ恨めしげに見上げてくる。
「や、やめ……っ、それ、んぁ……っ!」
「うん? やめてよいのか?」
「あ、あああっ、きゃ、うぅーっ!?」
今さらなことを言うので、押し付けたまま腕を抜く、ついでにゆるくこぶしを作り、ぐりっと摺ってやると、細く泣き声が聞こえ腰が反る。
「だめ、だめ、そんなのっ」
「なにが駄目なのだ、こんなにしておいて……」
改めて指先で、くいくいと抑揚をつけてあやすそこはひどく熱く、湿りかけていた。もうとっくに罠の中なのだから、いい加減観念して身をまかせてほしいものだが、とスタンは思う。そうしたら、ただどこまでも気持ちよくしてやれるのに。
「いきたければ、好きにしてよいのだぞ……?」
その羞恥心ごと自分の中に取り込むように、獲物をゆっくりと飲み込むように、熱を帯びた声でささやいた。が、まだ羞恥の捨てきれない少年は頑固にかぶりを振るばかり。そして、
「だって、だって……っ、これ、まっしろ、なのに……っ。だめだよぉっ、よご、れちゃうの、だめだよぉ……っ!」
今にも快楽に溺れそうにせっぱつまった声で、自らを捕らえ追い込んでいる相手へ、訴える。
「……」
とっさに男は顔をそむけて対処した。鼻の奥が熱い、危ないところだったと自覚する。
(これで天然なのだから、本当に恐ろしい……)
一度大きく息をついてから、
「……そうか、そうだな。汚したくなければ脱ぐしかないな」
「ひえ!?」
まじめくさった顔で魔王はうなずき、いっそてきぱきとルカの腰を上げさせ、半ズボンごと下着を引き下ろした。とっさに抵抗した足首に、中途半端にひっかかってしまったそれはひどく扇情的だ。
「あうっ、ちがっ、服じゃなくてぇ、シーツが……!」
少年が身をよじると半勃ちのそこが、男の目の前で揺れる。
「……、ああ、それなら余が始末してやる。 だからいい加減認めろ、我慢は体に悪いぞ……?」
意識して軽く笑い捨て、ふう、とことさらに息をふきかけてやる。
「んっ、いやっ! だ、誰のせいだよっ」
「……ほう、嫌なのか……? ……本当に?」
「やだよ、そこで、しゃべんないで、ぇ……っ!」
泣きごとと共に必死に後ずさろうとする腰を片腕でやんわりと抱きとめ、もう片方の手で太ももをがっちりと抑え込む。さらに下肢に顔を近づけ、ひくん、ひくんと震えて潤んでいくのを、ほとんど慈愛のようなまなざしで見つめた。
「そうは、見えんがなあ……」
「……」
「ん?」
急に相手の息遣いがこもった音に変化したのを感じて視線を上げると、ルカはぎゅっと目をつぶり、両手でかたく自分の口をふさいでいた。子供のようなしぐさに苦笑がもれる。まったく、家族の合意も得て、結婚したも同義の関係で、このベッドの上で何度したと思っているのだろう、この子分は。
「おまえのこれは、」
それを思い知らせてやりたくて、今にも決壊しそうな先端を、人差し指で、柔らかく、押すように、至極軽く、
「っ」
はじく。
「もう、我慢できなさそうだが。どうだ? 心の方の準備は」
「……っ」
「準備がよければ、……そうだな。胸までシャツをめくってみせろ」
「……!!」
ルカが目をむく。口をふさいだままぶんぶんと大きく首を横に振る。髪先がばさばさと頬を打つ。
「恥ずかしいか?」
今度は即座にぶんぶんと縦に。おい、髪、もうくしゃくしゃだぞ。
「……そうつれないと、余計にいじめたくなるのだがなあ」
大げさにため息をついてみせると、分かりやすく目前の肩がびくんと跳ね上がる。
「今なら特別大サービスでそりゃもう優しくしてやるのになあ〜」
「……うそつき」
「あん?」
「そう言って、僕がどうしたって、いっぱい意地悪するくせに……」
「……、」
ふてくされた調子で小さくこぼして、伏せた目が視線をそらす。あきらめたように手がシーツに落ちるのを見、男はむずむずと胸の奥がくすぐったくなった。本当に、こういうところが、たまらない。
「……ああ、そうだな。それこそが余の愛情表現だからな?」
スタンは言いつつなだめるように、恋人の髪をある程度整えてやった。どうせ今からまた乱れるだろうが、気分の問題だ。
「ええ〜……」
わざとらしくしかめられた顔が最後の悪あがきをするので、結局自分から乞う。
「いいから。待ちきれん」
「……はぁい」
はちり、と一度まばたきをして、ルカは気を取り直したらしい。髪、ありがと、照れくさそうに笑った。
そうして、おずおずとした手によってあらわにされた胸に、満を持してしゃぶりつく。
「あぅっ……!」
1週間ぶりの明瞭な嬌声に、スタンの耳殻はじん、と熱くなった。ああ、やっと。やっとだ。報われるのだ。
天窓から真白な陽光が降り注ぐ午後の寝室に、ちゅぱ、ちゅぱと小さな水音と、互いの息遣いが響く。無心に吸いながら片手でどことなくやわらかい腹に触れ、へそを探り当てると、そのまわりをくるり、くるりとなぞった。
「ん、あぁ……っ」
切ない声と共に脚が自然と開き、腰がもどかしげに浮く。わかっていながら、男は小さなしこりに押し付けていた唇を、一気に、上へとずらす。結果押しつぶされたそこは、
「あっ! ふっ、う……!」
狙い通りに恋人の身体に電流を走らせたようだ。びくん、びくんと二度大きく震えた身体を抱きとめ、濡れた跡を残しながら鎖骨へ、首筋へ、耳朶へ、頬へと、じりじり這い登ってゆき。
「んぅっ……!」
期待に溶けた翠を射抜くように、目線を絡み合わせたまま唇に噛みついた。小さい舌をもて遊び、思うさま口内を蹂躙する。ひく、ひくと揺れる腰、哀願の色濃い息づかいと、どこか戸惑いの消せない上目遣いに、うっそりと笑むことで返し。
「んむうううーっ……!」
待たせていたそこへ手をのべる。裏筋を、つっと爪の背で撫でただけで、少年はぞくぞくと震えた。当然もどかしいであろうそれを、何度も、
「ふ、むぅ、んん、んー……!」
何度も、繰り返す。口腔全てを不埒な舌で埋め尽くされたまま、まともに声も出せない唇の端から、唾液が伝って生白い喉へと落ちてゆく。
く、と少しだけ先端に押す力を加えると、ついにあふれだした先走りが爪先を濡らした。く、く、と繰り返す。そのたびに、
「んんっ、んんっ」
と喉を鳴らし、少年の身は律儀に震える。腰がぎこちなく揺れはじめ、比例するようにきつく腕を締め、無意識に擦り寄ってくる身体がいとおしい。そのまま、口も手も容赦しなかった。休ませはしない、堕ちてこい、と強く念じる。
「――――!」
仰け反る喉からは間断なく喘ぎが放たれ、だがそれは男の喉に受け止められ、飲み込まれ、無為に消えていった。
頃合いで口を解放した。ちゅぱ、と塗れた音、垂れる銀糸。溶けきった瞳、赤く燃える頬が視界の端に焼きつく。わざと少し、距離を離し確認した。自分が溶かした全てを、見たいのだ。。
まくれたシャツから覗くほの赤い乳輪。ひくひく動く生白い腹、胎から下肢へとつながるライン、そして懸命に立ち上がり震える性器。ああ、これだ。これが欲しかった、魔王は笑う。
「……してほしいか?」
思い切りいやらしくした声色で少年をなぶる。だのに涙目でこくこくと頷き、すたん、と縋るようにささやく、素直なルカは健気で、どこかはかない。男はぐっと胸をつまらせる。
「……」
無言で荒っぽく前を開き、スタンは熱くたぎった己を取り出す。先端を相手の亀頭にあわせてすりあわせ、まとめて握り込むと、少年のまぶたは震え、そして静かに伏せられた。涙が一筋頬をつたう。ぐっ、と身を寄せながら舐め取った。ほのかに塩辛い、だけど、どうしようもなく、甘い。
「ふ、うっ……!」
震える腰をきつく抱き寄せる、はずみで手の中で互いがこすれあう、そのたびか細くルカは鳴く。くぽくぽと手の中で抜いているはずが、その声を聞くとまるで犯しているような気分になり、男は目を細めた。
「痛くは、ないか……?」
どこか臆病に伺う声色にも、
「ないっ、あっ、は……っ、いいっ、きもちいい、よぉ……!」
息継ぎの合間に必死な答えが返ってくる。
ルカはぎゅうとスタンの首にしがみついていたが、そのうち焦れてきたのか、額や頬、首、ぴんと立てた乳首を己を閉じ込める胸板にすりよせはじめた。しまいにはぐりぐりと首元につむじを押し付けられて、動きを止めないままに、スタンはさすがに肩をすくめる。
「って、くくっ、……こら、さすがにっ、こそばゆい、ぞ?」
「だって、だって……っ」
少年は困りきった目で恋人を見上げた。どうにかより近くへと、深く触れあいひとつになろうとする、無意識からの衝動らしかった。
――――これ以上接触を深くする方法はもうあれしか思いつかないのだがな。
――――果てて、まだ余力があるならそこまで行ってもいいな。
――――なだれ込んでしまえばシーツは目も当てられないことになるだろうが、許してくれたら、嬉しいな。
もう、魔王にもさほど余裕はない、脳が心臓がばくばくと音をたて、ただ熱い。わずかに残った理性で益体もない思考を転がしながら、
「いくぞ」
と返事を待てず駆け足で言い捨てると、腰を動かしはじめた。手ひらの中は互いのものでぬめり、じゅば、じゅぷっ、と遠慮なくはしたない音を立てる。荒くなる息遣いがそれに重なり、寒気にも似た快感をさらに増幅させていった。性交を模した動きは、大きく緩やかに始まり、やがて細かく早く。
「は……っ、ああぁ……っ、んんっ、んっ、ふ、あ! あっ、あっ、あっあっあぅんっ、あ、あ、あ、あー……っ」
己の身体に押し上げられるようにして、かくかくと揺さぶられながら、欲にかすれて上ずってゆく愛し子の喘ぎを聞き、スタンは甘く、そして邪悪に笑む。ぬめる親指の腹で先端を時折からかいつつ、もう片方の手の甲をシャツの内部に滑らせて、腰から背にかけてのなめらかな肌を楽しんだ。
(ああ、いい季節だ)
恋人を胸に抱きしめながら、性とシーツの清潔な香りが交じり合っていく中で、心の底から思う。
そうしていると、目の前でゆれる耳殻が桃色に染まり、ひどく旨そうに見えた。唾液に満ちた口内に嬉々として迎え入れると、
「やあんっ! だ、めぇ……!」
ルカはひどく反応した。焦って抱きついた手が、スタンの裸の背で、きゅーっ、と握り締められる。
「……!」
お返しにきゅう、と耳朶を吸い上げると、
「あ、あ、あ」
とろけきった声が、手痛い反撃として魔王の鼓膜を焼いた。思わず口を離してしまう。
「……くそっ」
どうしようもなく、唇を噛む。痛みは麻痺してほとんど感じなかった。めちゃくちゃに動く手はもう勝手に走ってゆき止めようもない。なんだか負けた気がして、逃げた耳朶にもう一度かぶりつき、耳端をこりり、と噛んだ。
「きゃんっ、あああっ!」
かん高い悲鳴はほとんど女の子みたいだった。そうだよな。余の、妻だものな、お前は。
「あ、あ、あー……っ!」
びくびくびくびくびく、と長く痙攣したあと、腕の中の小柄な身体からくたりと力が抜ける。涙と汗でぐちゃぐちゃになった中に、安堵したような表情を見つけながら、
「っ……!」
スタンもとうとう己を手放した。手の中で二人の白い熱が混ざり合い、シーツにぼたぼたっ、と滴る。
「っ、は、っ、は、ぁ……」
嵐のような息を逃がす。ごうごうと血流の鳴る脳内に、力なくくずおれる白い獲物が映る。すぐそばにいるはずなのに、その気配を肉体をもっと感じたかった。寒い、遠い、足らない、ぜんぜん、だ!
苦しいような気持ちで、火照った体をひときわきつく抱き寄せると、それは小犬のように喉の奥で、喜びの声を鳴らした。からみあったまま、泥濘のような疲れに沈みこむ。シーツは染み汚されながら、それでも恋人たちをやわらかく受け止めた。残滓に混じって、かすかにまだ、石鹸の香りが漂う。
「……気持ちいいな」
「う、ん……」
「眠いか……?」
「ねむ、いぃ……」
「いいさ。……疲れていたのだろう? 眠ってしまえばいい」
「よる、ねれなく、なるー……」
「それは好都合だな!」
「……もう、しないもん、ばかぁ……」
この調子では語尾が寝息に代わってしまうまでさほど時間もかからないだろう。サイドテーブルからタオルを引っ張り出し、ざっと汚れを拭き取ったスタンは、苦笑しつつルカの服の乱れをきっちりと直してやった。
次はこのけしからん衣装を、どうやって脱がせてやろうかな、そう心躍らせながら。
あんだーにもどる