麻帆良都市内で行なわれる夏祭りは、学園祭でもわかるようにとても盛大である。
都市内の通路には提灯がつるされており、その光が普段は月明かりに照らされて歓声な面持ちである通りをその独特な光で照らし、そこを歩く人達のほとんどが浴衣を着ていた。喧騒がいつもより倍に聞こえてくるのは、その人数の多さのせいであろう。
私――――桜咲刹那自身も浴衣を着ている。
着付けてくれたのは、もちろん木乃香お嬢様。浴衣は、裾がほのかに桃色であとはほとんど白。名前はわからないけれど、花が足もとの方に大きく一つ描かれている。帯の色は桃色。これもお嬢様が選んでくれたものだ。
髪も浴衣に合わせて、横で結っていない。横の髪を少し残して後ろの髪を持ち上げて髪留めで留めてある。これも……もう誰がやったか言うまでもないだろう。
浴衣もそうなのだが、この夏祭りというのも久しぶりのことである。
本来ならば心躍らすものなのだが、どうしても私にはそれができなかった。
着付けた人がお嬢様なのなら、当然出掛ける相手もお嬢様なのが当然のことと言っても過言ではない。もう一度言う。
過言ではない。
なのに――――
「長瀬、射的があるぞ」
「お、真名殿。勝負するでこざるか?」
「なら、ワタシもやるアルネ!」
――――なんで私はこの三人と祭に来ているのだろうか。
嗚呼、別れ際見たお嬢様の浴衣姿と笑顔がとても恋しい。
武道四天王×夏祭り
お嬢様と行かずに彼女達と祭に来ているのか。
そう聞かれてしまうと、実に簡単な理由だったりする。
当初は、アスナさんはいいんちょさんとネギ先生は宮崎さんと夏祭りに行くことになっており、お嬢様と私も二人で行こうかと言う事になったのだ。夏祭りに行ってきっと微笑ましいお嬢様の姿を見て一緒に金魚すくいしたり、射的をしたり、お面被って笑いっこしたりとそれはそれは楽しい一時を過ごす予定だった。
というのに。
一緒に居てはいかんとでも神は言いたいのか、お嬢様の方に断りきれない急用ができたのだ。
お嬢様が所属する占い研究会が夏祭りに占いの出店をやっているのだが、担当の子が食中りにより出られなくなってしまいお嬢様に助っ人要請がきてしまった、というわけである。
その時、丁度私もその場に居合わせていた。
お嬢様は初め、先約だった私の顔を見ながらどうしようかと悩んでいるようで、その姿を見てしまったらついつい言ってしまったのだ。
「私のことはいいですから、どうぞ行ってください」
今思えば、なんでこんなことを言ってしまったのだろうと後悔が後を絶たない。
いや、どちらにしてもお嬢様が困っているのならばやはり自分が身を退くのだろう。
もっと自分の意思をはっきりと主張すべき、かな。
なんて少し自己嫌悪に陥っていると、
「刹那。お前もやらないか、射的」
お嬢様ではない声が私の耳に入ってきた。
これが夢だったらどんなによかったことか……いや、夢でもちょっと嫌かもしれない。
私は顔を上げる。
そこには、仕事仲間である龍宮真名と麻帆良祭の際いろいろと世話になった長瀬楓、そしてこちらも麻帆良祭でお世話になった古菲。龍宮とは元から仕事でそこそこの付き合いがあったから呼び捨てし合う仲であったけれど、他の二人は麻帆良以降に交流を深めて今では気軽に名を呼べる仲となっている。
本当にいろいろあった麻帆良祭だが、親しく名を呼び合う友人ができたということは喜ばしいことだと最近よく思う。
だが、其れと此れとは話が別。
お嬢様と一緒に出掛けられずに落ち込んでいる私を夏祭りへと連れ出したのは、もちろんこの三人。筆頭は龍宮である。
ルームメイトでもある龍宮にお嬢様と一緒に夏祭り行けなくなったことを話すと、
「なら行くか」
随分とはしょった言葉を放ち、あれよあれよと言う間に四人で出掛けることなってしまったのだ。
龍宮達は皆、浴衣を着ている。これを着付けたのもお嬢様だ。あ、楓は忍という立場なのかどうかわからないが彼女は着付けができるため、正確には私と古菲がお嬢様のお世話になった。龍宮のは楓が着付けた。
龍宮は白い帯びに黒い浴衣に蝶が大きく描かれているもので、楓は紫の帯に淡い青で桃色の小さな花が全体に散らばっている浴衣だ。古のは全体が赤くて白っぽい小さな金魚が浴衣の中を泳いでいた。彼女の帯の色は、黄色。皆、それぞれにらしい浴衣を着ており、とても似合っていた。
三人の中で髪を弄っているのは龍宮のみ。彼女も横の髪を残して……なんといっていいのかよくわからない。普通のポニーテールではないのは確かだ。私より髪の毛が長いので上につんつんと上げた髪が散らばらず、綺麗に髪の先が下に垂れていてなんだかいい感じなのは確かである。
もう一度言うが、別れ際見たお嬢様の浴衣姿と笑顔がとても恋しい。
そんなこんなで、私達はこうやって祭の色に染め上げられた通りを闊歩していたわけで。
龍宮のことは前々から少々強引なところがあると言うかいまいち性格が掴みきれていないと言うか……そんな印象を持っていたのだが、今回のことで更にそれが倍増した。いや、たぶん純粋に夏祭りに興味を持っただけなのだろうけど。
どうやら私は、彼女の好奇心に運悪く巻き込まれてしまったらしい。
「私はいい」
短く答える。
別に射的が全く出来ないと言うわけではない。『神鳴流は武器を選ばず』である。たとえ使うことのない銃でも、なんとか使いこなせるようにしているつもりだ。まぁ、扱った経験は正直言って皆無なのだが。
それになんとなくだが、この射的の結果というか事の末路がわかるというか。嫌な予感がすると言ってもいいのだが、私が参加すれば更に悪化するような気がしたので拒否しておいた。
「ふむ。残念でござるなー」
別に残念そうには聞こえなかった。
そんな楓を見て、思わず溜息が漏れる。
射的に限らず、他のことでも嫌な予感がする。なんせ加減を知らない方たちだ。何か起こってもおかしくない。そんな自分も何か起こしそうな気がしてならなかった。せめてアスナさんが居てくれればよかったのだが……麻帆良祭以降いがみ合うだけでなく、二人きりで遊びに行くことが増えたいいんちょさんとの邪魔するのもどうかと思ったので、一緒に行かない? というお誘いは断った。今では後悔の念を抱かずにはいられない。
「それならワタシ達だけでやるアルヨ」
古の言葉により、皆が射的に挑戦。
因みに龍宮は夏祭り初体験者である。
古と楓は、友人と言ったことがあるらしい。古はともかく、楓は少し意外だった。祭は休日に行なわれる。いつもなら山篭りする彼女が、それに参加しているのはちょっと珍しい。
お金を店主のおじさんに払って三人は揃って銃を構える。
ライフルみたいな銃なのだが、やはり龍宮が一番様になっていた。
本物の銃のように乾いた音を聞き慣れていると、出店の銃の音はなんとも気抜けた音に聞こえてしまうのは、たぶん私のような人間くらいなものだろう。
意外や意外。
やってみると一番うまいのは古だった。
戦利品は三個。
次に楓。戦利品は一個。
そして最下位なのが龍宮。当然のことながら、戦利品は0……なしである。
嫌な予感がしたものの、案外に普通に終わってほっとした。
―――――だが、自分の得意分野で負けるというのは、かなり悔しいものである。
もしかしたら龍宮の悔しがる顔を見れるかもしれない……なんて思い、彼女の顔を覗きみたのだが、
「ふっ……」
余裕の笑みを浮かべていた。キザっぽい――――というか、少し気色悪かった。
もう一回だ、という龍宮の言葉に元々向上心というか対抗心というか……そういうものがある二人が断るはずもなく、二回戦目へと突入した。
さて、この射的というものは、五発分の弾を渡してくれるものである。
よって普通に考えて一回で取れる最大景品数は五個。
しかし、プロを普通という枠に収めて考えはいけないのだ。
空気が抜けるような音がする。
コルクのような材質である射的の弾は、実弾とは違って貫通することなんてないため、物に当たると跳ね返ってしまう。
龍宮の撃った弾は、景品を飾っている上段の角に跳ね返って後ろから景品を倒す。ようは、景品が私達側に倒れると言う事だ。
こういう時の対処のために、次の段の景品は上の段の景品と景品の間に置かれているのだが、倒れた景品が大きめだったせいか、次の段の景品も倒れてしまった。
これが一発目。
店主もはじめはすごい偶然だと豪快に笑っていたものの、これが二発三発と続くごとに顔が青くなり始めてきていた。
「た、龍宮……?」
人だかりも出来始めくる。もちろん一般人だらけ。
さすがにこれはまずいと思い、龍宮に声をかけたのだが、
「黙っていろ」
一刀両断……いや、胸を打ち抜くような鋭い声で言い放たれた。
隣にいる楓と古も珍しく困惑顔。
最終的には、龍宮は五発の内に十個景品を撃ち取った。ダントツ一位。オンリーワンと言っても過言ではない。
角度を変えて段の角に当てることにより、景品の倒れ方を操作するものだから一発で二個という私でもおかしいと思う射的の成績を残していった。
「やりすぎだぞっ」
そう咎めるが龍宮は、平然とした顔で、
「そうか? これでもかなり抑えたんだがな」
と言った後、満足気な表情をして見せた。
――――――……すごく悔しかったんだな。
龍宮から貰った手の平サイズの不細工な火星人のぬいぐるみを眺めながら、私はそんなことを思った。
たぶん二度と来ることのない射的の店から去って、ぷらぷらと四人で歩く。なんとなくだが、やはりまた何か一騒動起きそうで歩くたびに気分が落ちていくのが悲しいところだ。しかも帯のところにつけた不細工なぬいぐるみがゆらゆら揺れているのが、なんとなく不快である。
久しぶりのお祭。私も屋台に興味があった。見回してみると、ふとあるものが目にとまる。
「そんなに見ているのなら買えばいいでござる」
なんて言葉と共に、足が止まっていた私に気がついて戻ってきた楓が手をぐいぐいと引っ張って屋台の前まで連れてきた。丁度いい具合に人はおらず、すぐに頼める。
奢ってくれると言う楓がお金を払い、あんず飴を二個貰う。
それだけで終わるのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
「よし。それじゃあ、ジャンケンだ」
射的の店主より若く、どちらかというとお兄さんと言った感じの男性がそう言ってくる。
何故ジャンケン?
首を傾げていると、楓が説明してくれた。
「買ったらオマケでもう一個もらえるんでござるよ」
あ、そう言えばそんなルールがあったか。長い間こういうのに出なかったせいか、すっかり忘れていた。
やってみるといい、と言われ少しどきまきしながらもジャンケンをする。
……なんだか、ジャンケンするのもかなり久しぶりな気がした。
ジャンケンの結果は私の勝ち。
私達はあんず飴を三つ手にして店から離れる……が、あることに気が付いた。
「あれ……龍宮と古は?」
辺りを見回しても龍宮と古らしき人は見当たらない。
あの2人は容姿もいいし外見的特徴が多いからすぐに見つかるはず。だというのに彼女達は見つからない……ということは、近くにいないということだ。
「ふむ……どうやら逸れたようでござるな」
暢気にのたまう糸目のくノ一。
私の中には、これはいけないと警報が鳴りっぱなしだというのに。
「さ、探すぞっ」
あいあい、といつも通りの返事を受けながらも一緒に走り出す。楓とも離れたら大変なことになるので、彼女がきちんと傍にいることを確認しながらも人にぶつからないよう注意して龍宮達の姿を探す。
けれども2人の姿は見つからず、なんだか泣きたい気分だった。なんであんず飴を両手に持って、こんな人込みを走らねばいけないのだ。
嗚呼、お嬢様と来ていればきっと綿飴を食べ合いっこしたりとさぞかし楽しい一時を過ごせていたというのに……!
どれくらい探しただろう。
随分たった気がしたのだが、二人は見つからなかった。
「少し休まぬか?」
そんな楓の提案を受け入れて、通りの裏側にあるベンチに腰を下ろす。
後ろの方から、喧騒が聞こえてくるが……それはそれで風流なものだった。
ふぅ、と一息。
「これを食べ終えたら、また探しに行くでござるよ」
「そうだな」
正直小腹も空いているし、丁度いい。
横には、ニンニンいいながらもあんず飴を食べている楓の姿。
妙な感じだった。
横にいるのはお嬢様ではなく楓で……仕事関係のことではなく、遊びで一緒にいるというのがなんだかとても不思議だ。
自分は改めて幸せなんだなと思ってしまう。
「どうしたでござるか?」
「いや―――――」
そんなことを楓に言うのもなんだか気恥ずかしい。……一度ネギ先生相手につい自分の気持ちをストレートに話してしまい、カモさんにからかわれてしまうという失敗談もあるので、口は堅くしておこう。
空を見上げると、夜空がとても綺麗だった。
「今日は花火もあるでござるからなぁ」
それまでに二人が見つかるといいのでござるが、と楓が零していた。彼女も空を見上げているのだろう。どこかしみじみと溜息をつくような声だった。
私は、空を見上げたまま楓の言葉に答える。
「そうだな……」
私の口から出た言葉は、あんず飴の匂いがした。
楓に式神のことを言われ、本当は使いたくなかったのだがしぶしぶちびせつなを呼び出して龍宮達の捜索をさせた。
さすが式神と言ったところか、龍宮達はすぐに見つかった。ただ気になるのがどうもちびせつなが念話がなんだか慌ただしいと言うか怯えていたというところ。
不安だったので、急いでちびせつな達の元へ向かったのだが――――――
「おお、これはこれは……」
感嘆する楓。
口をあんぐりな私。
嗚呼、これが幻だと切に願う。
人だかりで龍宮達の姿が見えないが、いるのは確かだった。
だって、他にいないだろう。
――――――あんな豪快に金魚すくいをする人間なんて。
水飛沫と共に宙を舞う金魚。
びちゃびちゃいう豪快な水音。
見物者達の歓声。
おかしい。私の知る限り金魚すくいは、まほら武道会のような騒ぎ方はしないはずだ。そもそも現物する人間などいない。というか金魚をあんなに高く上げて、ポイは破れないのだろうか。
金魚“救い”という冗談を聞いたことがあるけど、今正に救いが必要であろう金魚達を眺め続けて数分後。
歓声を受けながら龍宮と古が金魚が入った大量の小袋を手に私達の元へやってきた。
「お、刹那。一体何処へ行っていたんだ。探してたんだぞ?」
ならばその金魚達と気に留めないでいた綿飴やらお面やらのお祭グッズの説明を求めたい。
古も楽しそうに面を被ってはしゃぐな。そのひょっとこのお面は些か似合いすぎている。
「こっちだって、式神を送って探してたんだぞ……って、ちびせつなは?」
ちびせつが見当たらない。確かにここにいるはずなのだが……近くに存在を感じるし。
けれど、何処にいるかはすぐにわかった。
というか、楓が気が付いてくれた。
「ん、それは……」
楓の指差した先、そこは――――
「ち、ちびせつなぁっ!?」
―――――龍宮の持つ、金魚の入った小袋の中だった。
「アイヤー。直接袋に金魚を入れてたから巻き込んでしまたアルね」
半泣きなちびせつなを救出後、言うまでもなく私は龍宮と古に説教した。
説教しながらも思う。
……私達グループは、ギャグではなく戦闘担当ではなかったのだろうか。
空に花が咲いている。
肌で感じる花開く音がなんだか心地いい。
楓と一緒にあんず飴を食べた場所で、横一列に並んで空を見上げていた。
「綺麗……」
正に花の火。
時間すら忘れてしまう闇に、時間を持ってくる大輪の花と言うべきか。
時が止まったり動いたりとなんだか不思議な世界が空にはあった。
「たまには、いいものだな」
龍宮が呟く。
確かにそうかもしれない。因みに彼女の方に顔を向けることをしていないは、金魚が入った大量の小袋とお祭グッズを視界にいれないためである。ついでにいうとおまけで貰ったあんず飴も今は彼女の手の中で、がっつりと食べられてしまっている。せめて舐めてくれ。齧るな。音でわかるから。
「来年もこうやって四人で見たいでござるなー」
―――――いや、それはちょっと。
なんてことは口に出せなかった。できれば避けたい。
とは思いながらも、私達にも進路がある。
三人がどんな進路なのかはわからないが、こうやって四人が同じクラスになることは冗談抜きでもうないかもしれない。
お嬢様と私は学園長の計らいで同じクラスになれるが、四人とはそうもいかないからだ。学園長が三人を必要とするのならば話は別だが。
そもそも三人が麻帆良の高等部に進学するかわからない。
龍宮だっていろいろな仕事があるし、楓も忍者である。古は……高等部に進学していそうだけれど。
それでもやはりこうやって四人で遊びに出掛けると言うことは滅多にないだろう。
なんだか感傷的に―――――
「お腹空いたアル」
―――――ならなかった。
蛙かあひるが鳴いているような音をお腹から発する古。
見ればひょっとこの面が花火に照らされている。
全てが台無しだった。
「そうだな。まだ食べ物は制覇していないし、行くか」
龍宮、お前は現在進行形であんず飴をむさぼっているではないか。
そんな私の心中を察することなく楓が相槌を打つ。
「そうでござるなー」
お祭グッズをゆっさゆっささせながら闊歩し始める三人の後ろ姿を見て、私は心の決める。
―――――この三人とは、二度と祭に行かない。
なんて思った矢先というか帰宅後。私には、まだ地獄が残っていた。
背に感じる壁を忌々しく思いながら私は目の前の敵に顔を引き攣らせる。
「じょ、冗談だろう? 龍宮」
「いや、至って本気だ。因みにマジと読むほうの本気でもかまわないぞ」
どちらでもいい。
一歩、龍宮は歩を進める。私は下がれない。なんせここは私達の部屋。二人部屋であるここはそこまで広くない。こんな狭いところで瞬動なんて使えない。退路は絶たれていた。
中途半端な己の危機に正直私は戸惑っている。
別に命を狙われていたりしているわけではない。
そんなわけではないから質が悪いのだ。
「別にいいじゃないか―――――帯を取るくらい。通称『よいではないかごっこ』」
「誰がそんなことやらせるかアホッ!!」
平然と変なことを申し出てくる龍宮に怒鳴り散らす。
つまりあれだ。
どっかのお代官様とかが町娘とかと戯れるときに帯引っ張って「よいではないかよいではないかー」とか言いながら着物を脱がし、町娘が「あーれー」とか言ってくるくる回るあれを目の前にる奴はやりたいと言うのだ。しかも私で。
因みに、私がくるくる回る町娘役。龍宮はよいではないかーと言うお代官様。
絶 対 嫌 だ 。
「大体何故私なんだ! 楓や古がいるだろう!?」
龍宮が眉を顰める。
何言ってんのこの人みたいな顔をするな。なんか嫌だから。
龍宮は先ほどと同じように平然――――いや、とても真面目な顔をして、
「お前だとからかい甲斐があるだろ」
……なんてことをのたまった。
真面目な顔をしたからと言って少し気を静めた自分が腹立たしい。
「なっ……龍宮、いい加減にしないと―――――」
言いきる前にそれは起こる。
がっしりと掴まれた帯と腕。
しまった、なんていう声を上げよりも早く私の視界は流れた。
「や、止めろ龍宮!」
無駄にある遠心力に翻弄されながら抗議するが、止めてくれるはずもなく私はぐるぐるとまるで駒のように回り始めた。
「よいではないかよいではないか」
なんとも棒読みチックな台詞に私は心の中で小さく呟く。
……あーれー。
帯に巻きつけていた不細工なぬいぐるみが、宙を舞っていた。
そんなこんなで次の日の朝。
澄みきった空の元、私はお嬢様達と一緒に登校する。
この時の話題は、もちろん昨夜のことである。
「ネギ。あんた本屋ちゃんに迷惑かけなかった?」
「だ、大丈夫ですよっ!」
相変わらず保護者なアスナさんとネギ先生の会話。
どうやら宮崎さんとの夏祭りデートは成功のようだ。
アスナさんもアスナさんで、いいんちょさんと楽しんできたらしい。
羨ましい限りである。本当に。
「せっちゃん、昨日はどやった?」
アスナさん達の後ろで走っている私の横をお嬢様がローラーブレードで小首を傾げて走っている。
不覚にも少しだけドキリとしてしまった。
にしても困ったものだ。昨日のことはどう説明したらいいものやら。
でもとりあえず、
「楽しかったですよ」
とだけ答えておこう。嘘偽りはない。……楽しいだけではなかったけれど。
私の言葉を聞いて、お嬢様はよかったなーと笑みを零してくれる。
「でも、うちの店にも来てほしかったわー」
えへへ、と眉を寄せて笑ってくるお嬢様。
実を言うと、行こうとは思っていたのだ。思っていたのだが、どうしても龍宮達の様子を見ているとお嬢様の所に連れて行くのは、さすがにちょっと。
とはいえお嬢様に楽しかったと言った手前、行かなかった理由を言えるはずもなく、
「そのすみません……何処にあるかわからなくて」
微妙な嘘をついた。
けれどそこは心優しく純粋無垢なお嬢様。笑顔でそかーと言ってくれた。
くそ、何故昨日私のお嬢様と祭に行っていないのだ!
……でもまぁ、お嬢様に言った通り楽しかったのは事実。そういった想いは忘れよう。うん。
「にしても……何処行ってもほとんどが売れ切れだったり準備中だったりしてたわねー」
「あ、そうでしたね。お店の人に聞いたんですけど、なんでも女の子2人が大量に買っていったとかで」
――――――いや、やっぱり無理のようだ。
「そうそう。射的も誰かが大量に商品取ったからってスカスカだったのよー」
すみませんアスナさん。それは龍宮がやりました。
「食べ物関係はほとんど準備中とかでした」
すみませんネギ先生。それは古がやりました。
2人の会話を聞きながら心の中で謝り倒す。
申し訳ない。本当に申し訳ない。
きっと教室に行けば、同じような話題を聞くこととなるだろう。
唯一の救いは、クラスメイトに一度も合わなかったということ。罪悪感が消えることはないけど。
できれば、あの出来事はなかったことにしたい。
何時ぞやのアスナさんの言葉と重なるが――――忘れさせてください。
お嬢様達と共に教室へと向かいながら私は――――――
―――――――それでもやっぱり、あの時見た花火は忘れないんだろうな、なんて思う自分がなんだか幸せいっぱいな感じで、嬉しく感じていた。