Act1-2

 

【刹那】


「なーなー、せっちゃん。恥ずかしがるってことはー、もしかして…男の人の話?」

「えぅっ?!! そ、その…うぅ…」

違うのだが、思い出していたことはあの男の子のことがほとんどを占めていたため、そうなってしまうのかもしれない。
そうだと言えば私が困ってしまうし、違うと言えばお嬢様に嘘をついてしまうことになる。
答えは決まっているが、何と言えばいいのか返答に窮してしまい、しどろもどろになってしまう。

「えー?! 当たりなんー? 聞きたいー、聞きたいー!」

「ちょ、ちょっと、このか!」

彼のことに興味を持ったお嬢様を、アスナさんが止めている。
ふと、お嬢様も幼い頃にその彼に出会っていたことを思い出した。
ならば彼のことを話しても、特に問題は無いだろう。

「あ…いえ、お嬢様も覚えているかもしれませんし…お話ししますよ」

「え…ウチも知ってる人なん?」


『…俺のバカー!』


「…? 何か、交番辺りで叫んでる人いますけど…。…あ、待ってくださいよー!」

アスナさんとお嬢様、そしてネギ先生の部屋に着くと、お茶とお茶菓子を用意して机を囲む。
私はお茶を一口飲んでから、ある少年との出会いの話を話し始めた。


――――それは、お嬢様と出会うほんの少し前。

孤独だった私を拾ってくれた詠春様が急な所用で信州近くへと呼ばれ、京都の本山へ戻る前にしばらく預けられた里。
本当ならば本山に私を置いていった方が良かったのだが、ある理由から詠春様が連れて行くことになったのだ。
そこは信州のある森の奥深くに作られた里で、『二次大戦時の兵隊が隠れている』だの、『鬼が棲まう森』だのと噂されていた。
しかし、当時の私にとっては恐怖どころか、何の感情も無かった。

『白い羽』

それ故に忌み嫌われ、遠ざけられていた私に、敗残兵であろうが鬼であろうが、関係は無かった。


〜朧月〜


深い森の中に作られた里へ入ると、途端に人々の視線が突き刺さる。
白い髪と、紅い眼を持った私が珍しいのだろう。
好奇と嫌悪の視線を潜り抜け、里の奥にある一際大きな屋敷へ入ると、詠春様の知り合いらしき男の人が姿を現す。
上下を黒で統一した服を着た鋭い眼光を持った男の人で、私は一瞥されただけで体が呪縛にでもかかったかのように硬直してしまった。

「急にこちらでの仕事を頼まれてしまってな…。しばらく、この子を少し預かってもらえないか?」

「ふん…烏族と人のハーフ、か…。詠春、我々の『退魔衝動』を知らない訳ではあるまい」

「…それは承知の上だ。…黄理、頼めないだろうか?」

黄理、と呼ばれた男の人は、目を閉じ腕組みをして黙り込んでいる。
しばらく静寂が続いた後、大きなため息をつきながら口を開いた。

「…ふぅ…ま、お前からの頼みじゃ仕方ない…。…わかった、預かるよ」

「良かった…助かるよ。それじゃあ、二、三日後に迎えに来る」

そう言って安堵の表情を浮かべると、詠春様は屋敷から出て行かれた。

「…烏族では禁忌とされる、白き翼を持つ子供、か…」

黄理、という男の人は、詠春様が去った後にそう一言呟き、黙り込んだ。
羽は隠していたが、白い髪と紅い眼がそのままだったから、その男の人には容易く看破された。
詠春様が去って、私は玄関で一人残され、何も話さないままずっと俯いていた。
…いや、『話さない』のではない。『話せない』のだ。
目の前の人を、見ることができない。
俯いた視線の先にあった、自分の指先は大げさなくらい震えている。


『あの森には、鬼が棲んでいる』


この里へ来る途中に聞いた一つの噂が、脳裏を過ぎる。
後で詠春様から聞いて驚いたのだが、この里は当時、混血専門の退魔師達の中で最強と謳われた『七夜(ナナヤ)』という一族の里であり、この黄理様こそ、『鬼神』と称され、混血に限らず『魔』に類する者達から恐れられていた人だったのである。
噂が私の中で徐々に真実味を帯びていき、その恐怖に耐え切れず逃げ出したい衝動に駆られていく。

その時――――

「ただいまー」

突然、背後にあった扉が開き、男の子が入ってくる。
ビクッと私の体が飛び上がり、咄嗟に後ろを向くと、さらさらの黒髪の優しげな顔だちをした男の子が、きょとんとした
表情で私を見ていた。

「…遅かったな、志貴。その子は、今日から二、三日ほど預かることになった」

「へぇ…」

私は咄嗟に顔を伏せる。
彼はきっと嫌な顔をしているに違いない。
今までどこへ行ったって、皆同じだった。
彼もきっと気味悪がって――――

「綺麗な髪の毛ー。…ね、触っても、いい?」

「…へ?」

「あ…ゴメン。触っちゃダメか…」

「え…と、ええ…よ」

そんなに寂しそうな表情をされては、いいと言わざるを得ないではないか。
彼は途端に『にぱっ』という擬音が合いそうな笑顔を浮かべると、私の白い髪の毛に触れてきた。
彼に嬉しそうな表情で頭を撫でられていると、何だか気恥ずかしくなってくる。
顔が、頬から段々と赤くなっていくのが自分でもわかる。

「…クッ、クックックックッ…ハハハハハハハハ!!」

「…? どうしたの、父さん?」

「いや、何…やっぱりお前は大物になれる素質を持っていると思ってな。…刹那、とか言ったか。歓迎するよ、ゆっくりしていけ」

先程の殺気は霧散し、穏やかな表情を浮かべた黄理様は、そう言って屋敷の奥へと姿を消した。
私はといえば、自分があっさりと受け入れられたことに呆然としてしまい、しばらく彼に髪の毛を撫でられ続けていた。





□今日のNG■


「なーなー、せっちゃん。恥ずかしがるってことはー、もしかして…男の人の話?」

「えぅっ?!! そ、その…うぅ…」

ど、どうしよう…確かに彼のことは考えていたが、私が男の人のことを考えていたなんて聞いたらお嬢様はどう思うか…。
嘘なんて言って後で何かの拍子でバレたりしたら、彼だけでなく、お嬢様まで傷つけてしまう…。
私の中に、彼を想う気持ちもあるけれど、お嬢様を想う気持ちもある。
ああ、どちらも大切で決心できない――――!!

「お…お、男の人じゃない男の人です!!?」

「へ? はぁ………あー、オカマさんのことかー」

「し、しくじったー?!!!」


どぎゃんっっ!!

         

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