Act3-22


【さつき】


「……シオン、明日……大丈夫かなぁ」

 タカミチさん達が去った後、紅茶を止めて輸血パックを飲み始めたシオンに声をかける。
 シオンは何も言わずにこちらに視線を向けたが、すぐに目を閉じて眉間を寄せて難しい顔をしていた。

「……断定はできないが、大丈夫でしょう。タカミチはここ麻帆良でも最高位クラスのの実力者のようですから」

「へぇー……タカミチさんってそんなに強いんだ。……敵対しないことを祈りたいねー…」

 ベッドに横になって転がり、一昨日の夜タカミチさんが『混沌』との戦いで見せた力を思い出す。
 ポケットに手を突っ込んだまま戦っていたが、その面前にいた混沌の獣達は悉く衝撃波か何かで吹き飛ばされているように見えた。
 並の人間の視覚では捉え切れないような衝撃波の連打――――そんな印象を受けたが、確証が持てないので何とも言えない。
 ただ…タカミチさんはまだまだ力を隠しているように見えたのは確かだ。


「……つき……さつき! ……先程からぼうっとしていましたが、どうかしたのですか?」

「え……あ、ううん。タカミチさんの戦い方を思い出してただけ」

「ああ……あれは『居合い拳』なるものらしい。威力は……わかる限りでも、爆発的な威力を誇っています。魔法協会でもかなり高いランクにあるようですね」

 高音さんからタカミチさんの能力の情報も引き出している辺り、矢張りシオンは抜け目が無い。
 それにしても居合い拳か…居合い斬りの拳バージョン、ということなのだろう。
 シオンが見た限りでもタカミチさんは本気を出していないらしいので、余程の力量の持ち主と考えていいだろう。

「……じゃ、大丈夫かぁ……」

「気を抜き過ぎです、さつき。もう少し緊張感というものをですね……」


 ベッドに倒れ込んで眠りに沈もうとする私の意識は、シオンの説教によって阻まれたのであった…。




〜朧月〜




【ネギ】


「……わかりました。とりあえず、学園長に伝えておきます」

「ハイ、それでは……」


 屋上へと急いでいると、シャークティさんと茶々丸さんの声が聞こえてきた。
 シャークティさんは学園長室へと向かい、茶々丸さんは屋上のマスターの所へ戻るつもりらしい。
 茶々丸さんは屋上へ向かう僕の姿を見つけて、ほんの少し驚いたような表情を浮かべていた。

「ネギ先生……? どうかされたのですか?」

「あ、はい。その……マスターに聞きたいことがあって……」

 マスターは屋上にいるらしく、茶々丸さんと一緒に屋上へと出る。
 扉を開けてマスターの姿を捜すと、日陰になっている場所で壁に寄りかかって寝ていた。
 寝ている人を起こすのは気が引けるので、軽く声をかけてみる。
 するとマスターは瞼をうっすらと開き、不機嫌そうな目で僕を睨みつけてきた。

「あぅ……え、えっと僕、マスターに聞きたい事があって……」

「……言え」

 目を閉じたマスターが短く告げる。
 下手なことを聞いたら殺されるかも……。

「は、はいっ! その……一昨日の夜、黒縁眼鏡をした男性を追いかけたって楓さんから聞いたんですけど、その人は今……?」

「……志貴のことか? 志貴なら私の家で囲っているが……それがどうかしたか?」

「やったな、アニキ! ビンゴだぜっ!」

 それまで目を閉じていたマスターは、僕の質問を聞いてきょとんとした顔をした後、訝しげな表情で聞き返してきた。
 マスターが言うには、その男性は『遠野』志貴と言う名らしい。
 のどかさん達に名乗った時も、『遠野志貴』と名乗っていたと聞いているけれど…『遠野』といえば、志貴さんの一族である『七夜』を滅ぼした、混血の一族のはず。

 ……おかしい。
 何故、仇であるはずの『遠野』姓を、志貴さんが名乗っているんだろう…?

「……何で『七夜』じゃなくて、『遠野』なんだ……?」


「……志貴さんの本名は、『七夜志貴』です。当時の遠野家当主の気紛れで遠野家の養子となったらしいですが――――ある事件で本物の遠野家の長男と入れ替わったのだそうです。……それが志貴さんが『遠野』姓を名乗っている理由です」


「わぁっ?! ちゃ、茶々丸さん……」

 呟いた声に突然後ろから反応があったので、驚いて振り向く。
 深呼吸をして落ち着いてから、茶々丸さんが答えてくれたことを頭の中で整理していく。
 遠野志貴さんの本名が、七夜志貴であるということはわかった。
 じゃあ……一昨日の夜にアスナさんと戦った、あの七夜志貴さんは一体何者なのだろうか?

「……マスター、志貴さんは今マスターの家にいるんですね?」

「さて……な。アイツに家の鍵を持たせてあるから……今は昼飯でも食べに行っているんじゃないか?」

 面倒臭そうにそう答えると、マスターは欠伸を一つして静かな寝息を立てながら昼寝を始めた。
 志貴さんに直接聞こうと思ったのだが、どうやら今行っても会えそうに無い。
 しかし、マスターの家に滞在しているということは、夜に行けば必ず会えるはず…。


――――僕は夜になるのを待って、マスターの家に向かうことに決めたのだった。





□今日の裏話■


「あの……」

「エヴァンジェリンの従者……絡操茶々丸、だったかしら。何か用でも?」

 屋上から追ってきた茶々丸に、シスター・シャークティが訝しげな視線を向けた。
 茶々丸は自らのマスターであるエヴァンジェリンから、学園長に宛てた言伝の内容を伝える。

「この学園都市を停電させるよう、学園長に言伝をお願いします」

「――――停電なんてさせて、何を企んでいるのかしら?」

「それは……。ですが、今回の事件に関係していることではあります」

 探るような視線を向けてくるシャークティに、茶々丸は言葉を濁す。
 この町に張られた結界に電力が使われていることは、恐らくシャークティも知っている。
 ならば、停電させるということの意味も知っているはずだ。
 シャークティは尚も探るような視線を向けていたが、やがて小さくため息をついて口を開いた。

「……わかりました。とりあえず、学園長に伝えておきます」

「ハイ、それでは……」

 茶々丸は頭を下げ、その場から立ち去っていった。
 シャークティは茶々丸が立ち去った後もしばらくその場で考え込んでいたが、やがて学園長室へと足を向けたのだった……。


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