Act3-30

【side.刹那】




――――『蒼』と、『白』。


 『闇』を抱え、『闇』に浮かぶその色は。

 時には冷たく、

 時には優しく、

 『闇』の中で皆を照らすというのに。


 その姿は酷く――――孤独に見えた。




〜朧月〜




【side.刹那】


「ダメ、か……。もうこんな時間……そろそろ寮に戻ってお嬢様の護衛に戻った方がいいな……」

 夕陽に照らされて赤く染まっていた空は、黒き闇に覆われつつある。
 ……結局、目的である遠野シキを見つけ出すことは出来なかった。
 ヤツについてエヴァンジェリンさんに話を聞こうと家を訪ねてみたが、どこかに出かけたらしく姿は見えなかった。
 いつまでもアスナさん一人にお嬢様の護衛を頼む訳にもいかず、寮への道を急ぐ。
 そしてもう少しで寮に着くというところで、寮の玄関から一人の男が出てきた。


――――黒髪に、黒縁眼鏡。


――――志貴ちゃんと瓜二つの、その姿、形。


 寮から出てきた男は、紛れも無く私が捜していた遠野シキその人だった。
 志貴ちゃんと同じ顔をしているというのに、これほどまでに怒りが込み上げてくる。
 遠野シキを睨みつけながら即座に懐から呪符を引き抜き、辺り一帯に人払いの結界を張った。

「――――遠野シキ、だな」

「あ……ああ、そうだけど。…出来るなら殺気を抑えてくれると――――ッ!?」

 夕凪を抜き放ち、遠野シキに斬りかかる。
 咄嗟に後ろに跳んで避けた遠野シキを追い、夕凪を振るう。
 『混血』である癖に、遠野シキはその力を一向に使ってこない。
 それどころか、ポケットから小型のナイフを取り出して身構えていた。

「巫山戯るな……ッ!!」

 怒号と共に夕凪を振るい、斬空閃を放つ。
 遠野シキは迫る曲線状の気を横に転がって避わすと、こちらに向かって疾ってきた。
 速い――――が、それは一般人に比べての話。
 ナイフによる接近戦は野太刀である夕凪を使う私には不利なので、近づかせないように後退しながら夕凪を振るうが、遠野シキは体勢を低くして避けた直後、いつの間にか私のすぐ近くにまで迫っていた。

「く――――っ……!」

 瞬動……かとも思ったが、瞬動とは何かが違っている気がした。
 遠野シキのナイフ捌きはかなり巧く、接近戦では刀身の長い夕凪での攻撃が封じられてしまう。
 距離を取ろうとしても、その度に遠野シキは私の後を追い距離を詰めてくるので、こちらからの攻撃は封じ込められてしまっていた。

「頼むから剣を収めて話を――――クッ……!!」

「黙れ!!」

 一喝して強引に夕凪を振り抜く。
 遠野シキは短刀で夕凪の刃を受け止め、振り抜く勢いに乗って後ろへ跳び、距離を取っていた。


 ……だが――――――――何故だろうか?


 彼と刃を合わせていると何故か懐かしくて――――気付けば、まるで二人で剣舞を舞っているようだった。
 緊張や思考の必要無い、剣を振るえば相手の剣とぶつかり合い、打てば響くような、そんな打ち合い。
 私の使う野太刀である夕凪の力を、短刀で受け止め切れるはずも無いので衝撃を受け流していたが、受け流してからの攻撃のタイミングも読む必要なく、体が短刀の斬撃に反応していた。


――――だが、それは突然終わりを告げる。
 先程と同じく体勢を低くした遠野シキが、疾り出すと同時に姿を消す。
 それで、ようやく先程の違和感が理解できた。

 あれは――――……七夜の高速移動技『閃走・水月』。
 この男は志貴ちゃんの名前、容姿、声だけでなく……七夜の技まで真似ていたのだ。
 その事実に、遠野シキへの怒りが再び湧き上がってくる。

「悪いけど、動かないで――――――――ッ?!!」


「その姿で……その顔で!! 声で!!! 喋るなぁぁぁっっっ!!!!!」


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