何が悪い01 (本文サンプル・書き下ろし分・中盤)※ネット上で見やすいように装丁を改変しています。 ※実際の冊子の装丁は、A5サイズ本 / 25行×28文字の2段組となります。 リクトとお茶をしてひと息つくと、夕方を過ぎた頃に、ご飯の前にお風呂に入って来なさい、とお風呂道具一式を持たされた。 シツは、有難くお湯を頂戴することにした。 ここがセカイの実家でも、シツは特に緊張しない。高校生の頃から、何百回と出入りして、寝泊りしている。 多分、シツは、自分の両親と同じ空間にいるほうが、緊張する。それくらいリクトとカイのいるこの家に馴染んでいたし、この家が好きだった。 「……ぁー……」 広い浴室の湯船に、体を沈める。 さてどうしよう。 ゆだった頭で考える。 これは大事になってしまった。 セカイの実家まで巻き込んでしまった。 セカイと別れるつもりはない。別れたくない。セカイの傍にいたい。それだけは確かなのに、今、自分は何故かセカイの傍にいない。 セカイの傍にいるのが怖い。セカイといると、自分が全否定されるみたいで怖い。セカイが怖い。 セカイは、シツの全てをあっという間に支配する。油断ならない。すぐに食われる。 答えが出ない。 ただ、漠然とした恐怖に襲われる。 「のぼせる……上がろ」 頭から冷水のシャワーをかぶって、風呂を出た。 「シツ君、入ってえーかなぁ? 着替えのシャツ、セカイ君のとカイのと間違えたわー」 「あ、はい」 とりあえず下着だけを穿いて、返事をした。 リクトが着替えを持って、脱衣所に入ってくる。 「ごめんねぇ、こっちがセカイ君のやから。カイのを着るより、こっちのほうがいいよね。……あれ、シツ君、痩せ……」 痩せた? と言いかけて、リクトが止まった。 リクトの視線が、シツの体に一心に注がれる。 「どないしたんです……、あっ」 シツは慌ててタオルで体を隠した。 「シツ君、それ……」 リクトの声が震えている。 「あ、いや、これは……大丈夫なんです。なんでもないです大丈夫です!」 見られた! さ、と血の気が引いた。 忘れていた。セカイ以外に裸なんて見られることがないから、すっかり失念していた。 「シツ君、ちょ、っと……何、それ……」 「いや、も、ほんまに大丈夫なんで! すいません、着替えありがとうございます!」 呆然とするリクトからシャツを奪い、大急ぎでそれを身につけた。 兎に角、この場から逃げ去るのが先決だ。 「待ちなさい!」 ドアの前にリクトが立ちはだかった。 いつもにこにこして柔らかい雰囲気のリクトが、すごい剣幕になっている。とてもじゃないが、とても怖い。 「り、リクト、さん……?」 「…………」 「あの……」 「ドメスティックバイオレンス!!!」 じっと黙っていたリクトが、口を開いた。 「うわぁ物凄いドヤ顔。……って、リクトさんその単語は冗談になりませんて……」 半笑いで、リクトの言葉を否定した。 「でも、その体は、そういう体でしょう?」 リクトから見れば、シツのそれは、DVを受けたその人のそれにしか見えなかった。 それも、昨日や今日できたものではない。何年も、何ヶ月もかけて、積み重ねてきたものだ。 噛み痕は、皮膚を通りこして肉に及び、赤黒く腫れている。当然、その当時は血も出ていただろう。 四肢を這う蛇のように縄目が纏わりつき、皮膚と縄が何度も擦れ合った肌は、色が変わっている。きちんと手当てをすれば、こんな風にならない。セカイが、故意に痕を残したのが、丸分かりだった。 無理な姿勢をとらされたり、力づくで押さえ込まれた箇所が、打撲や擦過傷となっている。白い肌に、キスマークより青痣のほうが多く目につくのが、痛々しい。 骨も浮いているし、苦しくて自分に爪を立てたのか、そういう痕跡もある。 セカイが本気を出せば、シツも本気を出して殴り返すが、セカイが痛いと可哀想なので、シツは手加減してしまう。対してセカイは、全力でぶつけてくる。 故に、こうしてシツに痕が残ることが多い。 尤も、シツは、突っ込まれる側で、ドMなのだから、それも仕方ない。受け入れる準備はできているし、それを許容する覚悟もある。 今となっては、軽い捻挫や鼻血、出血くらいなら気にならなくなった。もしシツに何かあっても、セカイが何とかしてくれるという安心感もある。 シツは、体が痛いより、心が痛いほうが苦しい。 精神的にくる。 痛みで苦しむより、セカイの望みを拒否するほうが苦しい。体に関しては丈夫にできているので、セカイの好きなように扱えばいいと思う。シツは、自分の体で、セカイが気持ち良くなっているのを見るのが好きだ。 ただ、そんな自分の体を他人が見ると、大騒ぎになる自覚はあった。だからこそ、今日まで長袖で過ごして、泊まり先でも隠していたのに……。 「すみません、驚かせて。でも、なんでもないんで」 「それ、セカイ君がやったの?」 吃驚し過ぎて、リクトの口元は笑みの形に歪んでいる。 「……いや、二人でやってることですから、大丈夫です」 「大丈夫とか、そういう問題やなくて。まさか、それが原因で家出を……」 「違います!」 そればかりは即座に否定した。 「でも……」 「いや、ほんまに、それはないです。あいつの性癖知った上で付き合ってますから、こんなぐらいで愛想つかしたりしません」 むしろ、こうされて喜んでいる自分が、セカイに愛想をつかされないか、そちらのほうが心配なくらいだ。 「でも、セカイ君が怖くなって……」 「虐待されてんのとちゃうんで、そんなこともありません」 「でも……」 「他の場所、見はったら、多分もっと驚くと思いますよ? まだ胴体らへんはマシなほうですから」 「なんでそんな顔で言えるんかなぁ?」 脅えるどころか誇らしげ。 リクトは困ってしまう。 「あいつの場合、こうすんのが独占欲の表し方やと思うんで、逆に嬉しいんですけどね……」 「けど、何? けど、何か困るとか、生活に支障をきたすとか、そういうこと言いたいのとちゃうの?」 「そらまぁケツに腕入れられた時は、死ぬかと思いましたけど」 「えっ!?」 「……え?」 リクトの驚きように、シツも驚く。 ドSとドMって、それが普通なんじゃないの? 「え、あ、いや、ほら、ケツに腕入れられたら、起き上がられへんようになって……腰抜けて、えぇと、あ、そ、それとか、尿道に指とか挿れられたりとか……」 「えっ!?」 「……えぇっ!?」 「いやいや、僕が、えぇっ!? なんですけど!」 「いや、でも、ほら、犬皿にザーメンぶっかけて食わされたり、でっかい牛乳瓶突っ込まれたり……」 「えぇっ!?」 「えぇえええええっ!!???」 「ちょ、ちょっと、えぇええ???」 「いや、だって、ほら足とか挿れたりとか……」 「えぇぇええっ!?」 「えぇええちょおおもおおおマジですかァああああ??」 これ、普通じゃないの? ドSとドMのテッパンじゃないの? 「……シツ君、それ、いつから?」 「あ、いや……えっと、高校の時、から……」 「うちの可愛いお嫁さんの後ろが、ガバガバになってダダ漏れ……」 「いや、あの、可愛くないですから、まだギリでダダ漏れとちゃいますから」 とりあえずそこはツッコんでおく。 ・ ・ ・ ・ ・ 以下、同人誌のみの公開です。 2011/10/03 何が悪い01 (本文サンプル・書き下ろし分・中盤) 公開 |